第七十七話:私が留守番だ
転移の魔術は魔力を使う。
そのため今日は、ジーク団長と私の二人を転移させることは出来ないと、ウォーレンが言った。
これは仕方ないと思う。
私はジーク団長に「では私は王都で朗報をお待ちしますね」と答えることになる。
「いえ。ウィリス子爵令嬢。あなたが毒と聖剣を届けてください」
「えっ!?」
「この二つを見つけ出したのはあなたです」
「正確には私ですが!」
ウォーレンが間髪を入れずに声をあげた。
だがジーク団長はそれを気にせず、私を見る。
「あなたに向かっていただくのには、二つ理由があります。こちらの魔術師は、ウィリス子爵令嬢を第一に考えているでしょう。もしもあなたを置いて、自分を連れて行くように伝えたら……連れて行かないでしょうね」
「当然です! 私は」「ほら、この通りね」
ジーク団長は、ウォーレンが盛大な抗議をしているが、それを無視して私に話し続ける。
「セドニック副団長も、あなたに会いたいと思っているはずですよ。きちんと連絡もせず、あなた方のことを王都に放置することになったのですから。気に掛かっているでしょうし、申し訳なく思う気持ちもあるはずです」
ジーク団長の言葉に、それはそうかもしれないと思う。
彼は真面目だし、とても誠実。
こんな形で連絡が途絶えたことに、責任を感じていると思う。
「って、領主様、この人間、とてもムカつくんですけど!」
「ウォーレンさん。私をセドニック副団長のところまで、連れて行ってもらえますか?」
真摯な表情で頼むと、ウォーレンは可愛らしい令嬢の表情に戻った。
そして神妙な顔つきで尋ねる。
「分かりました、領主様。それで場所は?」
ジーク団長を見ると「地図を用意させます」と応じた。
こうして見習い騎士が地図を用意する間、ジーク団長はこんな提案をする。
「北東の地は、王都とは違い、そもそもが村が点在するような場所。道が整備されているわけではありません。自然に溢れたところなんです。つまりドレスにパンプスで行くような場ではない。すぐに戻るのであれば、そのままでもいいでしょう。でもセドニック副団長と、話をされたいのでしょう?」
「そうですね。足手まといにはなりたくないので、キングが姿を現わす前には戻ります」
私の返事を聞いたジーク団長は、ウォーレンを見て尋ねる。
「行きの分の魔力しか残っていない……なんてことはないだろうね」
「団長はわたしを馬鹿にしているのですか! 当然ですよ。往復分の領主様と自分の分の魔力は残っています!」
ウォーレンが可愛らしい令嬢姿で頬を膨らませた。
「それならば日没前までは滞在しても構いません。あの辺りにもう魔獣は残っていません。村人も避難させていますし、ならず者もの類も魔獣が出ると分かり、早々に姿を消しています。キングが出没する点を除けば、北東のあの地が、今一番安全な場所ではあるのですよ。ただしそれも日中限定です」
何とも皮肉な話だ。
つまり今頃、レイノルドは昨晩のキングとの防衛戦を終え、眠っていると思うのだけど……。
一切の危険がないわけだ。
キングとレイノルドとの防衛戦に巻き込まれまいと、通常の野生の動物たちも、あの場所を離れているだろう。
つまり。
レイノルドが気絶するように眠っていても、襲われることはないわけだ。
「あの場所に滞在するのであれば、服を着替えた方がいいでしょう。魔獣を相手にするアルセン聖騎士団に、女性の騎士はいません。ですが王族を護衛する近衛騎士には、女性の騎士もいます。彼女達は宮殿の敷地内に宿舎があるので、隊服を借り受けましょう。それに着替えてから出発されては?」
レイノルドは間違いなく、今、一番安全な状態。
早く会いたいと思うが、急がないと大変!というわけではない。
それに私が会いに行けば、レイノルドは起きることになるのだ。
ならば着替えをする。
さらにはギルとミルリアに、夜には戻ると手紙を残す。
それから向かえばいいだろう。
そうすればレイノルドは、少しでも長く休める。
私がそんなことを考えた時、ウォーレンが口を開いた。
「服なんて。魔術で」「ダメです」
今度はジーク団長が、ウォーレンに言葉を被せた。
「魔術師というのは、魔術を湯水のように使うのですか」
「失敬な! 領主様には特別です!」
「ですがその特別をやり過ぎて、いざという時に魔力不足でした――ではすまされません。温存してください。これからキングがいる地に向かうのですから」
これはジーク団長の言うことが正しい。
ウォーレンはまさにぐうの音も出ない状態。
こうして私は、女性の近衛騎士が着る隊服を借り、着替えることになった。
騎士団本部の更衣室を借り、着替えをすることになったのだ。
宮殿で働くメイドが駆けつけ、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれる。
ドレスさえ脱げれば、あとの着替えは自分だけでもできた。
白シャツにワイン色のジャケットとモカ色のズボン。
足元は黒革のロングブーツだ。
この世界で初めて履くことになったズボン。
割と細身でピタッとしているのは、いざという時に動きやすいためなのだろう。
髪は後ろでお団子でまとめ、身支度は整った。
「では出発ですね」














