第六十八話:いよいよ!
騎士団旗を手にする騎士の姿が見えてくると、周囲の人々から一斉に歓声が起きた。手にしている旗を振る人もいれば、手を盛大に振る人もいる。
ギルとミルリアは、笑顔で花びらをまく。
「ジーク団長だ!」
騎士団旗、王旗、そして国旗を掲げる騎士に続き、姿を見せたのは、ジーク団長だった。
キャラメルブロンドによく日焼けした肌、そして濃紺の瞳を持つジーク団長は、笑顔で沿道の人々に手を振る。これに応え、歓声が起き、ギルとミルリアは「「次は副団長!」」と声を揃える。
二人の言葉通り、バラキーノ副団長が姿を現す。
いよいよレイノルドだわ!
「お嬢ちゃんとお兄ちゃんが応援しているセドニック副団長。いよいよ登場かな?」
そうおじさんも言っているが、歓声の一方で、何だか別のざわめきも起きている。
何かしら……?
気になるが、今はレイノルド!
そこで目前に迫った騎士たちの姿に目を戻す。
「あれっ、セドニック様は? お姉様、セドニック様は?」
「ミルリア、もしかすると、セドニック様は一番最後かもしれない」
「えー、なんで!? 団長も、もう一人の副団長もいたのに!」
するとギルは持論を披露する。
「でも上級指揮官はいないだろ。彼らは隊列の後方にいる。先頭に花形が全員揃ったら、彼らが通過したら解散しちゃう人もいる。そうなったら最後に通過する騎士や従者が、かわいそうだろう? セドニック様が最後なら、みんな帰らない!」
これを聞いたミルリアは「なるほど!」と笑顔になり、そばにいたおじさんも大声を張り上げる。
「こりゃお兄ちゃんは賢いな。きっとその通りだ! おーい、みんな、セドニック副団長はきっと最後の方だ! デザートは最後に出てくるだろう! それと一緒さ!」
「副団長がデザート!? あんないい男、メインだよ!」
少し離れた場所にいるおばちゃんの言葉に、ドッと笑いが起きる。
「とにかくセドニック様が来るまで、声援を送ろう!」
このおじさんの言葉に、異論などない。
こうしてみんな、歓声と拍手、旗を振り、騎士たちを迎える。
だがーー。
最後の騎士が通過しても、レイノルドの姿はなかった。
◇
レイノルドの姿がない。
この事実に街の人々も、ギルもミルリアも、大いにがっかりすることになる。
私だって同じだ。
なぜ姿を見せないのか。公式の発表もない。
レイノルドの身に何かあったのではないか。
確認せずにはいられず、アポなしで騎士団本部を訪ねてしまった。
その騎士団本部はもうおおわらわ。
事務方の職員も忙しそうに動き回っている。
ジーク団長に会いたいと思っているが、これでは無理かしら……そう、思っていたら。
「ウィリス子爵令嬢!」
困っている私に声を掛けてくれたのは、シュワルツ伯爵家の三男で、アルセン聖騎士団で事務方を担当しているパーンだ!
「シュワルツ様、こんにちは! すみません、訪問の約束はしていないのですが、セドニック副団長の件で、ジーク団長と話したいのです。取り次いでいただくことは可能ですか?」
「そうですよね。みんなセドニック副団長の姿がなく、どうしたのかと思っていたのです。……ウィリス子爵令嬢が訪問していること、団長に伝えてみます。と言っても今、団長は国王陛下と謁見しているので、あと30分ほどしないと戻りませんが」
「待ちます!」
「では時間潰しで、騎士団博物館をご覧になってはどうですか? この建物の隣に、実はひっそり存在しているんですよ。騎士の関係者は無料で観覧できます。あ、セドニック副団長に既に案内してもらっていますか?」
騎士団博物館。
知らない。初めて聞いた。
「あ、期待しないでくださいね。地味です。遠征地の村や街の人々がくれた工芸品とかを飾っているだけで……。でも手作りの風合いとか、歴史を感じさせるものがあり、僕は好きなんですけどね」
「時間もありますし、無料で見られるなら。それに村人や町の人が騎士の皆さんへの感謝の気持ちを込めたもの。その想いを感じるだけで、価値があると思います!」
「そういったいただけると嬉しいですね。ぜひ見てください」
そう言うと、その場でパーンは取り出したメモに、何かを書き渡してくれる。
「30分後、ぼくがここにいなかったら、騎士でも職員でもこれを見せてください。団長に取り次ぎをするよう書いておきましたので」
「ありがとうございます! 助かります」
レイノルドが王都に戻っていないのか、何か理由があって隊列に加わっていなかったのか。
それは分からない。
心配や不安は募るが、一旦その気持ちには蓋をする。
深呼吸をして気持ちを切り替え、騎士団本部の建物を出る。
左右を見渡すと。
左手に古びたレンガ作りのこぢんまりとした建物があった。
「ここね」と思わず呟き、木製の厚みのある扉を開ける。
するとすぐ右手に、守衛らしきお爺さんが座っていた。
長い白髪に白い髭。
何だか仙人みたいに見える。
「こんにちは」と声をかけると、ゆっくり目を開ける。
白い眉毛と長い睫毛からのぞく瞳は、澄んだ泉のよう。
「おや、珍しいお客さんじゃな。よろしければご案内しましょうか」
「ぜひお願いします」
「勿論ですとも」
立ち上がった笑顔のお爺さんは、まさに好々爺。
「ではこちらへ」
お爺さんが手を差し出し、エスコートしてくれた。














