第六十七話:朝から大変!
アルセン聖騎士団が王都へ帰還する。
この日は朝から大変!
「お姉様、この黄色のドレスか、ピンクのドレスか、どっちがいい~? どっちがセドニック様は喜んでくれる?」
「そうね。ミルリアはどっちも似合うと思うわ。でもきっと黄色の方が目立つと思うのよ。沿道で手を振っている時、黄色だと目を引くわ」
前世で信号機で黄色が採用されている理由。それすなわち注意喚起の効果が高い色だからだと思う。色彩心理学でも言われていること。さらに黄色は自然界でも警告の色として知られている。ズズメバチや蜂、トラなども黄色だ。
「分かったわ~。じゃあ、ミルリアは黄色にする! お姉様は?」
「私は……そうね、碧いドレスにしようかしら」
「えー、黄色ではなくていいの!?」
「ミルリアと一緒にいるのよ。ミルリアに気付いたら、私のことも気付いてくれるわ。大丈夫よ。気遣ってくれてありがとう、ミルリア」
ネモフィラという美しい碧い花がある。
中心部は白で外側が碧い色。
まさにそのネモフィラの花のようにグラデーションしているドレスを持っていたので、それに着替えることにした。レイノルドの瞳を意識した結果だ。
本来、相手を意識したカラーリングは、夫婦や恋人、婚約者がすることが多い。でもアルセン聖騎士団は、隊服がサファイアブルー。王都へ入る際、軍服ではなく、隊服のはずだった。そうなると沿道で迎える人は、碧系の服を着ている人が多いと思うのだ。
ギルだってシアン色のセットアップを着る。
だから……私が目立つことはない。
変に勘繰られることもないはず。
そこでふと思う。
キング討伐成功の暁で、意中の令嬢との婚約を、国王陛下に認めてもらおうとしていたレイノルド。
でもキングは討伐ではなく、自滅を待つことになる。そうなるとその令嬢の件は……。
ただ、キングの生態については、サイレンジン公爵が隠していたから、国王陛下は知らない。ゆえにその生態を踏まえ、無駄に戦闘をすることなく、キングが消えてくれるなら……。
それはそれで、評価してくれそうだ。
国王陛下は賢王として知られている。
ならばきっとレイノルドの気持ちを汲んでくれるのでは?
そんなことを思いながら、ミルリアとギルを連れ、街へ向かう。
お昼前に、王都の北の門を入場することが決まっていた。正式なパレードなどではないので、観覧席など設けられていない。
騎士達の姿を見たければ、貴族も平民も関係なく、沿道で待つ必要がある。
ということで腕に覚えのある使用人三人と共に、沿道に向かうと、既に大勢の人が詰めかけていた。
到着までまだ三十分以上あるが、スタンドショップや出店もあり、食欲をそそるいい香りが漂う。
皆、食べたり、しゃべったりで、お祭りムードだ。
「アルセン聖騎士団の旗だよ。布製だから、次回も使えるよ」
旗売りの少年から、騎士団の紋章がプリントされた、小ぶりのフラッグを購入。
さらにコットンキャンディを食べたがるミルリアのために、レインボーカラーのものを手に入れた。ミルリアはギルにも分けてあげながら、コットンキャンディをぱくぱくと食べ、沿道に並ぶ。
ミルリアとギルを見たおじさんが、スペースを作ってくれたのだ。
「お嬢ちゃんと坊ちゃんは、どの騎士を応援しているんだ? ザ・ハンマーことべイン卿か。それともスネークと呼ばれるレインブル卿か? それとも」
「「セドニック副団長!」」
二人が声を揃えると、おじさんは破顔する。
「副団長! 彼は今、騎士団で一番人気だからな。目が合ったり、手を振ってもらえたら、ラッキーだぞ」
「うん。だからミルリアは黄色のドレスにしたの! 目立つでしょう」
「おお、なるほど。お嬢ちゃんは賢いな。お嬢ちゃんが目立てば、おじさんのことも見てくれるだろう」
そんな会話をして、その時を待っていると――。
遠くから角笛が聞こえてくる。
「お、どうやら北の門に到着したようだ」
さらに通常は鳴らない時間だが、鐘が鳴り響く。
特別な時に鳴らされる鐘で、騎士団が北の門の入場を始めたことを、伝えてくれていた。
「北の門からここまで、少し距離があるからな。まだだ。まだ来ないぞ」
おじさんはそう言いつつも、北の門の方角を見て、身を乗り出すようにしている。
それは周囲の人達も同じ。
遠くで歓声や何かの楽器の音も聞こえてくる。
「可愛いお嬢ちゃん、ハンサムなお兄ちゃん、よかったらこれをどうぞ。あたしは花屋のマリー。紙吹雪もいいけどさ、生花が一番。この花びらを騎士団が来たら、撒いてあげて」
色とりどりの花びらが入った小さな籠を、渡してもらえた。
春は近いとはいえ、温室は高価であり、花は貴重。
ここは御礼でチップを渡す。
「廃棄予定の花だったから、いいのに。でもさ、ありがとう、貴族のお姉さん!」と笑顔で受け取ってくれる。
騎士団の帰還を祝うことで、みんなが優しい気持ちになっていると思った。
そして――。
「おっ、見えて来たぞ!」
おじさんが興奮気味に声を上げる。
大きな騎士団旗を持つ騎乗した騎士の姿が、見えてきた。














