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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三章

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第六十六話:指先が震えてしまう

「伝書鳩は、早馬よりも早く王都へ到着します。よってこれは急ぎの要件の可能性もあると思い、来客中ですが、お知らせに上がりました」


 ヘッドバトラーのジョルジュにこう言われた時。

 一瞬、不吉なことも想像してしまった。


 ジョルジュ自身はまだ見ていない、伝書鳩が運んでくれた紙を受け取ると。


 紙を広げる指先が震えてしまう。


 マトリアークの伴侶であるキングは、通常の武器、聖水、銀、特別に祝福された塩では、太刀打ちできない。


 特殊なアイテム――毒と聖剣が必要。

 ゆえに手出ししない方がいいと、手紙で伝えた直後に、伝書鳩が到着した。


 その状況に、心臓がドキドキしている。


 ただ、新聞で報じられる魔獣討伐の戦況は、騎士団の圧勝ばかりだった。


 サイレンジン公爵は、レイノルドの様子を逐次報告させてもいる。その情報をサイレンジン公爵令嬢に共有してもらっていたが……。


 怪我をしたとかそういう話はなかった。


 それを踏まえ、サイレンジン公爵令嬢は「キングとはまだ遭遇していないと思うわ。王都の騎士団本部に上がって来た報告でも、キングが現れるのは、月が明るい夜のみ。そしてセドニック副団長が到着した時は、新月が始まる前。ゆえにキングが出現する前に、王都へ戻ることになるはずよ」と言っていたのだ。


 それなのに……。


「よろしければわたしが読み上げましょうか?」


 気を遣ったジョルジュに声を掛けられ、気を引き締める。


 しっかりしなきゃ。


 何かあった時こそ、気を確かに持ち、対処する必要があるのだから。


 両親が事故に遭ったと聞いた時も。

 ちゃんと対応できた。

 大丈夫。


 深呼吸を一つして、「ありがとう、ジョルジュ。でも平気よ」と答え、紙をきちんと広げ、そこに書かれている文字に目を通す。


『ウィリス嬢。君からの手紙に書かれていたこと。真偽の程が分からない伝承と、放置することはできない。ジーク団長とも話し、王都へ戻ることを決めた。幸い、既に確認できている魔獣は、すべて討伐できている。そして君が手紙で書いていたキング。それは……詳しくは機密事項であり、書くことはできない。だが伝承を信じるなら、約一か月後に消えてくれるのだろう。周辺の村の避難は終わっている。このまま五月まで避難を続けさせるつもりだ』


 これを読み終えた時。

 緊張の糸が切れ、座り込みそうになったが、自分自身に喝を入れる。


 まだ部屋にはマダムもいるので、ジョルジュに紙を返す。


「ジョルジュ、問題はないです。あなたも見ていいわ」


「かしこまりました。今すぐ我々で何かすることは?」


「すぐにすることはないわ。伝書鳩は休ませてあげて。この後、返事を書くから」


「承知いたしました」


 ジョルジュが退出し、気を遣ったマダムは代金を払い、帰っていく。


 私はすぐに『私の情報がお役に立てて良かったです。帰還をお待ちしています』と書き、伝書鳩を飛ばすことになった。


 ◇


 新聞でも、アルセン聖騎士団が帰還すると報じられた。


 魔獣討伐自体は完遂しているので、そこは『今回もアルセン聖騎士団が大活躍! 北東の地の魔獣殲滅!』と大々的に報じられている。その一方で『北東の地は魔獣の血で汚染されているため、浄化のために一か月の立ち入りが禁止』という記事も小さくだが取り上げられていた。


「お姉様、セドニック様が帰ってくるのね! 予定より早くなったのよね? ミルリアに会いたくて、早く戻ることにしたのかな?」


「ミルリア、そんなわけないだろう。魔獣の討伐が終わったから、帰ってくるだけだ。でもまあ……()()に会いたくて、頑張ったのかもしれないな。その結果、帰還が早まったのかもしれない」


 ミルリアもギルも。

 レイノルドが帰還することをとても喜んでいる。


 ミルリアはレイノルドのことを、もう一人の兄のように、時には父親のように、慕っていた。さらには忘れた頃に「お嫁さんにして~」なんてふざけて言うこともある。王都に来てから、会えない日はなかったレイノルドの不在。とても寂しがっていたので、大喜びするのも当然だ。


 そしてギルは、なんだかんだで毎日のように、レイノルドから剣術の訓練をつけてもらっていた。彼が不在の間は、新たに雇われた腕の立つ使用人に、槍の使い方を学んでいたが……。


 やはり副団長のレイノルドから指南を受けたかったようだ。


 二人が喜んでいるように、私だって嬉しかった。


 レイノルドがいろいろ根回しや手配をした上で、遠征に向かってくれたので、日々の生活で不自由することはない。


 領地の屯所の方は、すでに基礎工事も始まっている。鉱山の採掘を行う商会の立ち上げは終わり、登記も済み、現地に何名かの幹部が向かっていた。採掘の人材を確保するための、リクルート活動のためだ。


 代筆業も順調で、ギルとミルリアも健康優良児で、この冬も風邪一つひくことがなかった。両親が亡くなり、没落同然の日々で、二人とも鍛えられた。冬の寒さにも負けず、毎日勉強に励んでくれていたのだ。


 よってレイノルドが不在でも、物理的には問題ない。


 ただ……心理的には……。

 屋敷にレイノルドの存在感がないこと。

 それは大黒柱を失ったようで、とにかく寂しい。

 彼の笑顔、何気ない気遣いの言葉、ギルとミルリアに優しく接してくれる姿。


 それを見られないだけで、こんなに心に穴が空く気持ちになるなんて。


 いろいろとやることがあり忙しい。


 それでも夜眠る前のひと時に、今日の一日を振り返り、物足りなさを感じていたのだ。


 ゆえに。


 レイノルドが帰還してくれるのは嬉しい!


 そしてアルセン聖騎士団の帰還は……明日に迫っていた!

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