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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三章

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第六十一話:公爵家の歴史

 ローテーブルに広げられた紙。


 それは文字がびっしり書かれている。

 素早く目を通し、それが魔獣について書かれていると理解した。


 しばらくは魔獣の生態について書かれていたが……。


『……魔獣の女王、すなわちマトリアーク。彼女は毎年、一頭を選び、自らの伴侶とし、繁殖を行う。妊娠期間は二カ月。この間、マトリアークは自身の身を安全に保つ必要がある。そのためだろうか。伴侶に選ばれた雄の魔獣は、頭に白い毛が生える。そしてこの白い毛がある時は、通常より力が増す。そしてかの魔獣は身重となったマトリアークが潜む場所に控え、彼女を守る』


「これはね、サイレンジン公爵家の書庫で見つけた書類を、書き写したもの。サイレンジン公爵家の先祖は、王家とつながっている。これは王家の書庫にある本を、書き写したのだと思うわ。魔獣に関する機密事項よ」


 まだすべてを読み終わっていないが、サイレンジン公爵令嬢が話し始めたので、まずはそちらを聞くことにした。


「サイレンジン公爵家は長い歴史を持ち、一時、魔獣討伐に従事する時期もあったの。つまり今は歴代の宰相を輩出することで知られているけど、アルセン聖騎士団が誕生した時期には、サイレンジン騎士団長もいたのよ」


 これにはビックリだが、それだけ歴史と由緒がある家系なら。騎士団長を輩出していてもおかしくない。


「これはその頃に得た情報で、お父様はこれの原本である写しを、国王陛下に提出していたの。ちょうど、セドニック副団長が、先の魔獣討伐で遠征していた時に。あなたと知り合うことになった魔獣討伐に出ていた時のことよ」


 そこでサイレンジン公爵令嬢は、キャビアをのせたクラッカーを、表情なくパクリと食べる。


「お父様は野心家なの。歴史に自分の名を刻みたいと思っている。でも十分過ぎる程、お父様は成果をあげていると思うの」


 私も同感だ。既に宰相となり、政治の場に君臨しているのだから。


「でもね、かつてサイレンジン公爵家からは、騎士団長を輩出できたのに。今はできていない。いつの間にか政治家一族になってしまった」


 政治家一族でも問題ないと思うけれど……。


「もし私に兄がいたら、騎士団長にするべく、英才教育を受けさせたと思うわ。自身が宰相で、息子は騎士団長。政治力と武力を誇れる家門になれる。でも残念なことにサイレンジン公爵家は、四人の娘にしか恵まれていない。長女である私の伴侶が、サイレンジン公爵家を継ぐことになるわ」


 なんとなく話しの先行きが見えてきた。

 サイレンジン公爵の野望の先に、レイノルドがいるのだと。


「お父様は政治家として力があるけれど、アルセン聖騎士団に影響力を与えるのは難しい。彼らは魔獣相手に戦うのだから、問われるのはその武力。その階級は、ほぼ魔獣を討伐した数、その実績と比例している。そして現在の団長が就任した時、彼は既に既婚者。今の団長は、まだ見習い騎士だった十八歳で結婚していたの。分かるわよね? 団長と私を結婚させることはできない」


「ええ、分かります。そしてもう一人の副団長であるバラキーノ伯爵は未婚です。その理由は公にされていません。ですが魔獣との戦闘で負った怪我により、男性として機能しなくなった……と社交界で噂になったと聞きました」


 特に知りたい情報ではなかったが、偶然先日の舞踏会で、耳に挟むことになってしまったのだ。


 それはこんな会話が聞こえてきたから。


「バラキーノ副団長は未婚ですよね。なぜ結婚されないのでしょう? 子煩悩で愛妻家の団長を見ていたら、結婚したくなりそうですが」と問う若い騎士に、「おい、お前。それはタブーだ。口に出すな。バラキーノ副団長は、魔獣との戦闘で怪我を負った。それをきっかけに結婚は無理な体になったんだよ。つまり子孫を残せない。だから結婚はしないんだ」と中堅どころの騎士が教えているのが、聞こえてしまったのだ。


 ということで私の言葉を聞いたサイレンジン公爵令嬢は、紅茶を一口飲み、目を細める。


「正解よ。王都に来てまだ日は浅いし、社交活動をしっかりしているわけではないのに、よく知っているわね。でもまだまだ。さらにバラキーノ副団長はその件をきっかけに、女性への興味を失い、男性に関心を抱くようになったのよ」


 これは「!?」と驚くことになる。それにそんなプライバシーに関わる話は、私にしなくてもいいのに!と思うが、これが王都貴族の社交なのだろう。


「つまりお父様は、将来有望で騎士団長になる男と私を結婚させたかったの。でもしばらく前は、それが難しい状況。団長は既婚者、副団長は女性に興味がない。そうなると上級指揮官で、副団長になりそうな逸材がいないか探していたら……」


「当時のセドニック上級指揮官に目をつけたのですね」


「そうよ。爵位、年齢、役職。そのどれをとっても私の婚約者として釣り合いがとれる。それにそれまでの実績を見ても、伸びしろが感じられた。つまり将来、副団長となり、団長になる可能性が高かった。だからお父様は、先の魔獣討伐からセドニック上級指揮官が戻ったら、私との婚約を打診するつもりでいたの」


 なるほど。サイレンジン公爵としては、前々からレイノルドを狙っていたということね。


「そうしたら……まさかのマトリアークを殲滅することに成功したのよ、セドニック上級指揮官は。国王陛下は大喜びで、二十歳という若さで副団長に抜擢されることを決めた。これに騎士団長もバラキーノ副団長も異論はなかった。こうしてセドニック上級指揮官は副団長に選ばれた」

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