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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三章

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第六十話:最初に言っておくわ

 サイレンジン公爵令嬢と向き合う形で、ソファに座ることになった。


 彼女は持っていたソーサーを静かにローテーブルに置くと、ギロリという感じで私を見た。


 蛇に睨まれた蛙も同然だったが。

 ここで気を抜いたら……負けだ。

 それに取り巻き令嬢はいない。

 一対一なのだ。


 深呼吸をして、勇気を振り絞る。


「到着が遅くなり、申し訳ございません」


「あら。あなたが謝る必要はなくてよ。まだ待ち合わせ時間にもなっていないのだから」


 それはその通り。

 室内にはずしりと大きな古時計が置かれているが、その分針は14時50分を示している。


「最初に言っておくわ」


 サイレンジン公爵令嬢と目があった。

 もしここに何かエフェクトをつけるなら、ぶつかる視線とスパークする火花だろう。


「申し訳なかったわ」

「え」

「あの男。私やお父様に手を出せないからと、あなたを襲おうとしたのでしょう。そしてセドニック副団長を利用して、亡命をしようとした……。許しがたいわ」


 いきなり何の謝罪かと思ったら……。

 偽皇太子の件!


「お父様は秘密裡に、近くの河に沈めると言ったけれど、それでは甘優しいと思ったの」


 この一言には、伸ばしている背筋がゾクッとする。

 河に沈められるかもしれない……という想像は、私もしていた。それは大変恐ろしい手段として。


 つまり河に沈めるのは、十分に戦慄を覚える対応だと思うのですが……。


「ダークウッド連山にトンネルを掘り、鉄道を隣国とつなげる事業が始まるのよ、間もなくね。国の施策として進めるけれど、お父様の商会も事業に出資している。あの辺りの魔獣の数も減り、何よりもマトリアークはもういないから。……それでも山に、トンネルを通すのは大変よ。ある意味命懸けになる。そこにね、あの男を送り込むことにしたの」


 そう言ってサイレンジン公爵令嬢はニコリと笑う。

 河に沈めるより合法的ではあるが……。


 山にトンネルを掘る。

 しかも魔獣の巣窟と言われた山で。

 常に命の危険と隣り合わせ。

 しかも悪党ではあるが、貴族の端くれがそんな労働に従事するのは……かなり過酷な話。


 あの偽皇太子なら「これならひと思いに河に沈んだ方が楽だった!」と言い出しそうだ。


 つまりサイレンジン公爵令嬢は、悪党に生き地獄を味合わせることにしたと。


「ともかくもう二度とあの男と会うことはないわ。それに王都に戻ったら命がないと、あの男も分かっているから。裏社会では、まだ懸賞金がかけられているの。王都で見かけたら……ってね」


 大変アンタッチャブルな話。

 だがこの世界、全てが正義の名の元に成立しているわけではなかった。

 前世でCIAやかつてKGBが存在していたように。

 表の人間が表立ってできない汚れ仕事を請け負う人々が存在し、彼らを時に権力者が利用するのは……どこの国でも世界でも、避けられない話。


 宰相という立場のサイレンジン公爵が、裏社会を動かすのはどうかと思うが、これもまたこの世界の必要悪だった。


「その件への御礼も兼ね、ここへあなたを呼んだのよ、ウィリス嬢」


 「御礼!?」と問い返したくなるが、そこは我慢。

 そして扉もノックされ、私の紅茶と……。


 メイドが言っていた三段スタンドが登場した。


 一人ずつに用意された三段スタンドは、一段目にキャビアを添えたクラッカー、キューカンバーサンド、卵サンド。二段目にはスコーンとクロテッドクリーム、三段目にはドライイチジクのタルト、生クリームがのったふっくらシフォンケーキ、りんごのケーキと大変美味しそう!


 一瞬。


 目の前にいるサイレンジン公爵令嬢のことを忘れた。


 だがミセス・デメールがスタッフの女性と共に退出し、現実を思い出す。


「このお店は、スイーツが特に美味しいのよ。召し上がるといいわ」


 自身は紅茶を飲みながら、私に三段スタンドの軽食やスイーツを食べるようにすすめた。


 これには「まさか毒が……」と思ってしまうが、御礼をするために私を呼んだと言ったのだ。ならば毒は入れないだろう。お店だってさすがにそんな協力はできないはず。


 そう思いながら、一段目のキューカンバーサンドを口に運ぶ。


「!」


 美味しい!

 上質なバターに水気を切った柔らかいキュウリ。

 ふわっとした食パンに、バターとキュウリが実にあっている。


 一口サイズなので、そのまま卵サンドも頬張るが……。


 こちらもサンドされている卵がたっぷりで、非常に美味。


 レイノルドの屋敷でいただく料理は勿論、美味しい。だがこのお店の軽食もとても素晴らしい味わいだった。ギルやミルリアに食べさせたくなる。


「まったく。なんて無邪気に食べているのかしら」


 キャビアをのせたクラッカーを食べていると、サイレンジン公爵令嬢にそんな風に言われ「心外な!」と思ってしまう。


 食べるようにと勧められたから、食べていたのに!


 だが。


「これ、よくご覧になって」


 彼女は自身の鞄から何かを取り出す。

 それは折り畳まれた紙だ。


 サイレンジン公爵令嬢はその紙を、ローテーブルの上で広げた。

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