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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三章

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第五十九話:ティールーム

 メイドから聞いていた、アンティークな雰囲気の洋館。それが馬車の窓から見えてくると、背筋がピンと伸びた。


 用意は万全……そのつもりだ。


 それでも紅茶をかけるかもしれない相手と会うのは……気が重い。


 私の気が重くなっても、馬車の重量は変わらない。

 軽快に歩みを進め、目的地に着いてしまった。


「大丈夫ですか、お嬢様?」

「え、ええ、馬車、降りましょうか……」


 もしもに備え、侍女に同行してもらっていた。

 その侍女は、荷物が盛沢山。

 何せ着替えのドレス、タオル、火傷の薬などが入ったトランク二つを持参しているからだ。


 薬類は私が詰めた。ゆえに侍女は、私が火傷を負うことを危惧しているとは……思っていない。ただ、舞踏会に行くわけでもないのに、ドレスを持参することは、当然不思議に思うだろう。


 そこについては、こう言い訳をしていた。


「このドレス、胸の辺りがきついでしょう。もしかするとビリッと破ける可能性があるわ…。公爵令嬢とのお茶会で、ドレスが破れたままは失礼になるから、予備を持参することにしたの」


 自分としては誤魔化したつもり。だが……。


 「そもそもそんなドレスを着て行くことは失礼では……?」と、侍女が思ったことは……間違いない。なぜなら「まだ少しお時間がありますし、こちらのドレスになさっては?」とやんわり提案されたのだから。だがそこは、華麗に「これでいいのよ」とスルー。


 公爵令嬢と会うのに、私は失礼なのか、礼儀正しいのか。侍女もメイドも混乱していると思うが、致し方ない。


 本当は護衛で、警備を担当する使用人の一人も連れて行くことを考えたものの。


 もしも。

 もしも、想定していた行動を、サイレンジン公爵令嬢がとらず、かつ取り巻き令嬢もいなかったら。


 腕に覚えがある使用人の男性を連れている私を見て、変な噂をたてる口実を与えかねない。


「サイレンジン公爵令嬢は、侍女しか同伴していないのに。ウィリス子嬢は、侍女以外に、屈強な男性の使用人も連れ、ティールームに現れたそうよ。公爵令嬢相手に、何かしようとしたのかしら?」


 そんな噂を流すよう、取り巻き令嬢にサイレンジン公爵令嬢が命じたら……。


 そう思うと、できる最善は侍女同伴までだ。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」


 私の気持ちとはうらはらに、ティールームのスタッフは笑顔で迎えてくれる。


「ええ、サイレンジン公爵令嬢と」


「! サイレンジン公爵令嬢様とお待ち合わせのお客様ですね。お待ちしておりました。どうぞ。あ、侍女の方は一階に控え室がありますが、同席されますか?」


 本当は同席させたい。

 でも過剰反応は、相手を刺激するかもしれないのだ。ゆえにここは「侍女には控え室で待ってもらいます」と答えることになる。


 こうして私は侍女と別れ、スタッフの案内で階段を上る。


 階段にも絨毯が敷かれ、ふかふか。

 踊り場にはステンドグラスも飾られ、大変素敵。

 気持ちが盛り上がる要素は沢山あるのに。

 二階に着き、個室の扉が見えると、私の気持ちはさらに沈む。


「こちらでございます。既にサイレンジン公爵令嬢様は、いらっしゃっています」


 この言葉に私は「えっ」と声をあげてしまう。


 公爵令嬢と子爵の待ち合わせ。

 高位貴族である公爵令嬢より、先に到着して待機するのが、この世界での礼儀。


 それを踏まえ、待ち合わせの十五分前に到着するようにしたのに!


 これでは冒頭から私に文句を言うための口実を、与えてしまったようなもの。


 背中から汗が噴き出すのを感じるが、慌ててスタッフの女性に尋ねる。


「サイレンジン公爵令嬢以外の令嬢も、既に到着していますか?」


「? 本日はお客様と、サイレンジン公爵令嬢様のお二人のみですよ」


「! そ、そうなのですね」


 これには驚きと安堵の半々だ。


 取り巻き令嬢には見せられない嫌がらせをするつもり……なのかもしれないのだ。心臓がバクバクするが、扉が開けられ……。


 眩しい程、室内は明るい。


 それもそのはず。

 正面は、一面がガラスになっていた。

 薄いレースのカーテン越しに、午後の明るい陽射しが室内に届いている。


 窓際に飾られた大きな花瓶に生けられているのは、大輪の薔薇の花。

 部屋中に薔薇が薫る。

 深紅の天鵞絨生地のソファに座るサイレンジン公爵令嬢は、待っている間に出された紅茶を口に運んでいた。だが私が来たので、動きを止める。


 ダークブロンドに完璧に巻かれた縦ロール。

 深みのあるワイン色のドレスに黒サテンのリボンの装飾。きっちりお手入れされたもちもち肌に、ローズ色の唇のサイレンジン公爵令嬢が、上目遣いで私を見る。


 やはり目力があった。


 今のひと睨みで私は「うっ」と固まる。


「おかけになって、ウィリス嬢。ミセス・デメール、私と同じ紅茶を持ってきてくださる?」


「かしこまりました、サイレンジン公爵令嬢様」


 三十代前半、店のスタッフかと思ったが、ミセス・デメール……すなわちこのお店の店長であると気付く。店長自らが接客する……サイレンジン公爵令嬢は、ここでは上客なのだろう。彼女の待ち合わせ客が来ると分かっていたから、店長も店頭の受付で待機していたと。


「ウィリス子嬢。お座りになって」


 ミセス・デメールが退出し、私は震える手を握りしめ、ソファに座る。


 まさに蛇に睨まれた蛙も同然だった。

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男爵を受け継いで今回子爵当主になったのですよね? 男爵令嬢、子爵令嬢じゃないのではと少々疑問に思いました。
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