第五十五話:出陣
魔獣討伐の遠征に向かう前、騎士団はいくつかの儀式を済ませる。
まずは大聖堂に集合し、祈りを捧げるのだ。
祈りを終えると、主の加護を願い、ワインと薄い一口パンを授けられる。
この儀式が終わると、宮殿の敷地内にある騎士団本部の食堂で、少し早めの夕食を全員でとることになっていた。この日はスタミナをつけるため、何頭もの牛の丸焼きが用意され、騎士達はこの肉を塩とパンで食べる。
塩はこの世界で、貴重なものとされていた。だが魔獣討伐の遠征に向かう騎士には、特別に主による祝福を受けた塩が、一袋ずつ与えられるのだ。この塩を、遠征での食事や魔獣討伐に生かす。魔獣は聖水に弱いが、この祝福を受けた塩にも弱かった。
前世の感覚だと、簡単に手に入る塩で、魔獣除けができそう!と思ってしまうが。
そうではなかった。
この世界では、銀より塩の価値が高かった。しかも塩は塩でも、ただの塩ではない。特別な祝福を授けられた塩だけが、魔獣に効果があったのだ。
ということで貴重な塩とパンで肉を食べる食事。
これは二時間と決められており、時間が来ると、即解散となる。
宿舎に戻る者、屋敷に戻る者、それぞれだが、部屋についたら寝る準備だ。
湯あみをして、体を清め、床に入る。
そして翌朝は――。
日の出前に起床し、準備を進める。
夜明けと共に出発と、朝がとにかく早かった!
その、まだ空が暗い時間に……。
「ギル令息とミルリア嬢は、無理に起きる必要はなかったのに」
スカイブルーの明るい軍服と白のマント。
きっちり着替えたレイノルドは、眠そうな顔のミルリアを抱き上げた。
するとミルリアはレイノルドにぎゅっと抱きつき、「でもミルリアはセドニック様に渡したいものがあるから、ちゃんと起きたの!」と伝える。
「それはまさか……」
そこで私は、自分とミルリアの分のスカーフをレイノルドに見せる。
彼は「!」と驚きの表情になり、一旦ミルリアを地面におろすと、スカーフを受け取った。
「ウィリス嬢、ミルリア嬢、ありがとうございます! このスカーフは……どちらのドレスも着ているのを覚えています……。とても嬉しいです」
ミルリアの前で片膝を地面につき、ひざまずいたレイノルドは……。
ミルリアにハグをして「ありがとうございます、ミルリア嬢」と告げると。
あれだけ泣かないと言っていたミルリアが、声を押さえながらも泣き出してしまう。
ぽろぽろと涙を流すミルリアを見た私、ギル、使用人達は、もらい泣きだ。
「みんな、いつもの遠征だ。毎年春が近づくこの時期に、遠征をしていただろう。こんな風に泣かれると……困ってしまうな」
レイノルドはミルリアを再び抱き上げ、その背中を撫で、宥めていた。そこに遠慮がちに従騎士が声を掛ける。
「セドニック副団長、そろそろお時間です」
「分かった」
屋敷を出発した後、宮殿へ向かい、そこで国王陛下から見送りの言葉を受け、出発となる。
……サイレンジン公爵令嬢とは、そこできっと別れを惜しむのかしら。彼女はハンカチも渡すはずよね。
「ウィリス嬢、本当にありがとうございます。時間を見つけ、手紙も書きます」
レイノルドからミルリアを受け取って抱き上げると……。
ミルリアも含めた状態で、ふわりと軽くハグをされた。
かすかに感じる石鹸の香り。
使用人達の「親子みたいに見えますよね」のささやき。
ほんの一瞬。
叶わない願いを夢見てしまう。
だがそれは本当に。
泡沫の夢だ。
「レイノルド・ソル・セドニック侯爵、ご出陣です」
ヘッドバトラーのジョルジュが告げると、従騎士が角笛を吹き鳴らす。
愛馬に乗ったレイノルドを先頭に、従騎士、従者が続き、朝靄の中の出発となった。
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第二章はここまでです!
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『私の白い結婚』
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