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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第五十四話:その日までの準備

 レイノルドが魔獣討伐に出ると知ると、ギルもミルリアも驚いた。特にミルリアは驚きを超え、ショックを受けてしまった。


 ベッドに横になり、悲しむミルリアに話を聞くことにした。


「だって……あの劇で魔獣は本当に恐ろしかったわ。倒すのだってとても大変。もしも今回向かった場所に、マトリアークと同じぐらい強い魔獣がいたら? セドニック様が子供を庇って、武器が壊れてしまったら? お姉様は聖女ではないでしょう? セドニック様を助けに行くことはできないでしょう? そうなったらセドニック様は……」


 ここで私は理解する。


 ミルリアは、演劇で描かれていたようなことが、実際にレイノルドに起きたら……と心配しているのだ。


「ミルリア。舞台で観たことが、現実で起きるわけではないのよ。強い魔獣はいるかもしれないわ。でも騎士団のみんなで戦う。確かに領地で、セドニック副団長は、一人で倒れているところをミルリアに発見されることになったわよね。でもそういうことが、毎回起きるわけではないの。セドニック副団長だって強いのだから、そんないつもあんなピンチになるわけがない。だから心配しないでいいのよ」


 これは……ある意味、自分自身にかける暗示でもある。


 実際のところ、マトリアークと同じぐらい強い魔獣がどれだけいるのか……。


 それは分からない。レイノルドだって分からないだろう。


 でも彼は強い。


 最終的に一人でマトリアークを倒しきったのだから。


「それにちゃんとポーションを持って行くし、今回授けられた宝剣を持って行くだろうから……聖女がいなくても平気よ。セドニック副団長を信じましょう」


 私の言葉を素直に聞いてくれたミルリアは、ようやく落ち着いた。


 心配疲れもしていたようで、その後はすやすやと眠ってくれる。


 それに安堵し、ギルの部屋も覗いてみると……。


 静かに眠っている。

 ギルはまだ子供だけど、考え方は大人そのもの。

 ミルリアのように、舞台の出来事と現実を混同し、心配することはない。


 安堵し、扉を閉めようとしたその時。


「姉様」

「!」


 これには驚くが、すぐにギルの方へ駆け寄る。するとギルは上体を起こし、サイドテーブルに置かれたランタンを灯す。


 目が慣れていないので、しばし目をぱちぱちさせながら、「どうしたの、ギル?」と尋ねる。


「メイドに聞いたら、セドニック侯爵家では、伝統的に屋敷から騎士を戦場へ送り出す時、ドレスの生地で作ったスカーフを渡しているんだって。そのスカーフは武器や甲冑に結わきつけて、御守代わりにする。それにスカーフを見ると、日常を思い出せる。戦場で心が荒れた時、そのスカーフを見て気持ちを落ち着かせたり、ドレスを着ていた人を思い、無事に帰還しようと気持ちを高めたりするんだって」


 戦地へ向かう騎士に、ハンカチを贈る慣習は、この大陸でもよく知られていた。でもドレス生地でわざわざ作るのは……セドニック侯爵家ならではだ。しかもハンカチではなく、スカーフなのね。


「先代の侯爵様は、そのスカーフを遠征に向かう途中で、落としてしまった。だから……というのもあり、セドニック様が魔獣討伐で遠征する時には、使用人の女性はみんな、スカーフを用意して渡すらしいよ。セドニック様が未婚で、婚約者もいないから、彼女達が渡すしかない。それに落としても予備があるようにするため、みんなで渡すって」


「まあ、そうだったのね。遠征の荷物はスカーフで満載になりそう」


「セドニック様は馬具にもスカーフを結わいて、ちゃんとみんなに贈られたスカーフを使っているみたいだよ。でもそれも遠征に出ると、戻る頃にはボロボロになっているというから……。遠征は大変なんだろうね」


 それを聞くと、胸がざわついてしまう。

 遠征は……確かに大変だと思うからだ。


「でもさ、使用人の女性はみんな、グレーか黒のドレスを着ている。だからとにかくスカーフが地味。それでメイド達は『ウィリス嬢やミルリア嬢もスカーフを作ってくださるといいわよね』って言っていたよ」


 これにはビックリ。


 でもミルリアに話したら、絶対に作ると言い出しそうだ。それにミルリアは刺繍が得意で、裁縫もできる。大判ではなく、プチスカーフサイズなら、ミルリアでもすぐに作れるはず。


 既製品もオーダーメイドでも、ドレスには共布が一緒に納品される。ドレスは繊細な作りをしているので、もしもの時にこの共布を使い、修繕するためだ。


 ということで翌日からミルリアと私は、スカーフ作りを始める。


 二人とも自由時間を使い、せっせせっせと縫っていく。スカーフ作りは布さえあれば、特別な技巧はいらない。ひたすら四辺をほつれないように、縫っていくだけだった。


 こうして。


 ミルリアは白生地に、ピンク色のローズ柄のスカーフを作り上げた。得意の刺繍で、レイノルドのイニシャルもあしらっている。


 一方の私は、碧い生地にところどころにビジューの飾りがある生地で、スカーフを作り上げた。銀糸でセドニック家の紋章も刺繍してある。


 もしも愛する人からのみ、ハンカチを受け取る――という伝統がセドニック侯爵家にあったら、ミルリアと私はスカーフを贈ることはできなかった。セドニック侯爵家の慣習が、間口が広いものでよかったと胸をなでおろす。


 そうしているうちに、その日がやってくる。


 レイノルドが魔獣討伐の遠征に出る日が。

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