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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第五十一話:小劇場

「ここにいる二人の幼子。見捨てるわけにはいかない」


 舞台中央で甲冑姿の青年が叫ぶ。


『セドニック卿の剣は既に折れている。繰り返されたマトリアークとの激闘により、遂に剣は使い物にならない。だが彼のそばには、逃げ遅れたギリルとミアという子供がいたのだ』


 ナレーション役の男性が、舞台袖で声を震わす。


「いいかい、二人とも。お兄さんが『走れ!』と言ったら、その扉を出て、お姉さんのところへ帰りなさい」


「でも、お兄さんは……?」

「そうよ。お兄さんも一緒に逃げましょう」


「勿論だよ。君たち二人の後を追うから、先に逃げて欲しい」


「うん。分かった。それなら……ミア、お兄さんの言うことを聞こう」

「分かったわ、お兄様!」


『二人の幼子が手を取り合い、立ち上がる。二人を背に庇いながら、セドニック卿がマトリアークと向き合う』


「うぉぉぉぉーーーーーん」


『マトリアークの遠吠えに呼応するように、セドニック卿は懐から取り出した瓶の中身をあおった。そして彼は宣言する』


「マトリアーク! たとえこの身が滅ぼうとも、貴様を止めて見せる!」


『セドニック卿が口に含んだのは毒。自らの体に毒を巡らせ、たとえその身がマトリアークの手に堕ちようとも、死の縁へ突き落す覚悟だった』


 すすり泣く声が観客席から聞こえ、泣きながらミルリアが私に抱きつく。


 ギルは涙を堪え、自身の拳をぎゅっと握りしめている。


「さあ、来い! マトリアーク!」


『セドニック卿に挑発されたマトリアークが、彼に向かい、駆けだす。それを見たセドニック卿が叫ぶ!』


「走れ!」

「ミア、行くぞ!」


『手を取り合ったギリルとミアは一目散に走り出す』


「ちゃんとお兄さん、追いかけてくれるかな?」

「ミア、今は余計なことを考えず、前を向いて走るんだ!」


『まだ幼いミアは、分かっていない。でも間もなく社交界デビューを迎えるギリルは分かっていた。セドニック卿が自ら犠牲になり、自分達を助けようとしていることを。絶対に立ち止まってはいけない、振り返ってはいけないと』


「うぉぉぉぉーーーーーん」


『セドニック卿が目を閉じ、死を覚悟する』


 すすり泣きが大きくなり、嗚咽する声が響く中、舞台から眩しい程の光が起きる。


「セドニック卿。あなたのその犠牲の決意、しゅは見ていました。悪の力に打ち勝つために。この聖剣を授けましょう」


『光の中から現れしは、亜麻色の髪をした乙女。しゅに祝福された鮮やかな碧いマントを羽織り、手に持つは聖剣(ディヴァイン・ソード)!』


「ウィリス嬢、あなたは……」


「今まで秘密にしていて、ごめんなさい。しゅとの約束があり、正体を明かすことができませんでした。それよりも主の光による目つぶしは、長くは持ちません。このディヴァイン・ソードで、マトリアークの息の根を止めてください」


 泣くことを止めたミルリアは、真剣な表情で舞台を見た。


 頬に残る涙の筋が、舞台に差し込む外の陽射しを受け、輝いている。


「分かりました。レイノルド・ソル・セドニックの名を賭け、このディヴァイン・ソードで、マトリアークの悪行を断ち切ります!」


 激しい戦闘が始まった。


 その戦闘にあわせ、舞台袖に登場した管弦楽の六重奏で、激闘の様子を盛り上げる。


 何度もピンチが訪れ、観客席から悲鳴が起きた。


 だが遂に聖剣がマトリアークに突き立てられる。


しゅよ。あなたの祝福と共に、この悪しき魂を清めたまえ」


「お兄様、見て。遠くで輝きが見えたわ。きっとあのお兄さんが魔獣を倒したのよ!」


 もう一方の舞台袖に現れた二人の幼い子供ギリルとミアが、舞台中央を指さす。


 観客席から拍手が沸いたその瞬間。


『セドニック卿はマトリアークを殲滅することに成功した。だが卿の体には毒が巡っている。マトリアークを倒したものの、彼もまた膝を折る事態になった』


「お兄様、光が……消えたわ……」


「……魔獣の女王と言われたマトリアーク。奴の死はきっと引き換えだったんだ。あの騎士との……」


 舞台が暗転。


「そんな……!」とミルリアが声を漏らし、私に抱きつく。


 再び観客席からすすり泣きと嗚咽が漏れる。


 すると舞台から光が差し込み、淡いランタンが次々と灯されていく。


 中央に置かれた祭壇には――。


「レイノルド・ソル・セドニック。騎士の中の騎士。闇より現れし呪いの源を断ち切った者」


 舞台上にスモークが広がり、幻想的な雰囲気になる。


 そこに現れたのは聖女だ。


「オマー・エルロヒーム マヴェット・エノシ イノ ナタン レヴィトゥール」


『聖女エレナ・ウィリスが祈りの言葉を捧げ始めた』


「オラム, ニッシーム カイャミーム ベオラム・ハゼ. レミ シェマクリービム エット アツモ レマン アハレリーム」


『彼女は祈る。幼子を助け、自らを犠牲にしてでも、マトリアークを倒そうとした若き騎士が目を覚ますことを』


「イェシュ エト ネス ハタヒヤ」


 その時、雷のような音が響き、場内が暗くなる。


『聖女の祈りは、しゅに届いた』


 一斉に場内を取り囲む天幕があげられ、陽射しが射し込む。


 観客たちは眩しくて、目を開けられない。

 しばらく皆、目を閉じている間に――。


「ウィリス嬢……自分は生きている……のですか?」


「ええ、生きていますよ、セドニック卿。しゅがあなたはこの世界にまだ必要だと、お認めになったのです」


「「騎士のお兄さん、お姉様!」」


 幼い二人が祭壇の方へと駆け寄る。


「「ギリル、ミア!」」


 再会した四人が抱き合い、紙吹雪が舞い落ちる。


 拍手喝采で舞台は幕を下ろした。

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