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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第五十話:パパ~!

 偽皇太子騒動の翌日。


 とんでもない事件があったわけだが、この日は日曜日。シフト制で働くレイノルドだったが、勤務の休みと重なっている。


 そこで以前から約束していた、レイノルドと私を題材にした魔獣討伐の演劇を、みんなで観に行くことになった。


 この日は朝から春の訪れを思わせる暖かさ。


 ギルは、春を感じさせる明るいピスタチオグリーンのセットアップを着て、ミルリアはピンクの花柄のドレス。二人が並ぶと素敵なプリンス&プリンセスになる。


 レイノルドは白に近いグレーのスーツ姿で、白シャツと併せたそのコーデは、実によく似合っていた。


 私は白い生地に碧いフリル、碧いウエストリボンがついたドレスを着て、皆の待つエントランスホールへ向かう。


「では馬車に乗りましょう」


 レイノルドは皆が馬車に乗るのを手伝い、そして――。自身の膝にミルリアをしっかりのせ、隣にはギルが座る。対面の席に座り、三人の様子を眺める私は……。


 やはりレイノルドが子煩悩なパパに見えてしまう。


 窓から外を見たがるミルリアに応じ、座る位置を快く調整。「セドニック様、あの建物は何?」といった感じでギルとミルリアにかわるがわる尋ねられても、「あれは……」と律儀に答えている。


 その一方で私にも声を掛けてくれる。

 こんな風に。


「ウィリス嬢、見てください。スワローが」

「!」


 スワロー……前世と同じ名前で呼ばれるツバメが二羽、素早く飛ぶ姿が馬車の窓から見えた。


 冬の間、アルセン王国……というか王国のある大陸から、スワローは姿を消す。越冬のため、冬でも温暖な地に渡ってしまう。だが春の訪れと共に、大陸に戻ってくるのだ。


「スワローが見えたということは。動物たちはもう春が来たと感じているんだね」


 ギルの言葉に皆で頷く。


 去年の今頃。


 北部に位置するウィリス領は、まだまだ冬の寒さだったと思う。それでも春に向けた準備……ジャガイモの種芋やえんどう豆の種を用意していた。


 まさか次の年の春を王都で迎えるとは……想像だにしていない。


 ましてや自分の前世の記憶が覚醒するなんてことも……まったく予想していなかった。


 本当に。


 人生って何があるのか分からないわ。


「小劇場があるストリートに到着しました。ここから先は、歩きながら劇場の演目を確認する方がいいでしょう。馬車から降りましょうか」


「「「はーい」」」


 ここはギルとミルリアに合わせ、私も子供のように返事をした。それを聞いたレイノルドは「!」と驚いたが、すぐに優しい笑顔になる。


 ギルとミルリアを先に馬車からおろすことになった。


 馬車を降りると、ギルはちゃんとミルリアの手を取り、歩き出す。


 その後ろをレイノルドにエスコートされ、続くことになった。


 傍から見たら、子連れの若い夫婦に見えるようで、「旦那! 奥さんと子供と一緒に、歴史ロマンを観劇しないかい?」「奥さん。お子さんと見るなら冒険ファンタジーがおすすめだよ」と小劇場のスタッフに声をかけられる。


 これを聞いたミルリアはふざけて「セドニックパパ~!」なんて言い出すから大変!


 “セドニック”の名は、今、王都で一番有名なのだ。魔獣の女王であるマトリアークを倒した国の英雄として、その名が新聞に何度も登場している。


「え、セドニック!?」

「まさか国の英雄がこんな場所に!?」

「副団長って既婚者だったけ?」


 こんな声がささやかれるので、慌ててミルリアには「セドニック様をパパと呼んではダメよ。お父様は別にいるでしょう。亡くなったお父様が『ミルリアは父さんのこと忘れてしまったのかな』と悲しむわよ」と伝えることになる。するとミルリアは……。


「亡くなったお父様のことは忘れていないよ。でもセドニック様がパパだったらいいのに……。お姉様と結婚して、ミルリアのパパになってくれないかな?」


 ミルリアの言葉にはドキッとし「それはないわ。それに私と結婚する相手は、ミルリアにとっては義理のお兄様になるのよ」と小声で伝えることになる。


 幸い、レイノルドは小劇場のスタッフと話しており、今の会話は聞かれていない。


 そのことに、ホッと胸をなでおろす。


 変な誤解をされたら大変だ。


 レイノルドは近々サイレンジン公爵令嬢と婚約するのだろうし、客人である私と変な噂が立つのは、断然よろしくない。それにそんなことになったら、恐ろしい公爵に何をされるか分からなかった。


「ウィリス嬢」

「ひゃい!」


 思わずドキドキして変な返事をしてしまい、ギルとレイノルドは「?」と驚き、ミルリアはクスクスと笑っている。


 その場を誤魔化すべく「ど、どうしました?」とレイノルドに尋ねると……。


「よさげな劇を見つけました。役者も小劇場界隈では人気のある方々が出演しています。席は開演時間も近いので、端の方になりますが……。上演されるのは、小劇場です。元々座席数は少なく、舞台との距離は比較的近いので、それでも問題ないでしょう。あと十五分後に開場になるそうで、そちらを観るのでどうでしょう?」


 ギルとミルリアを見ると「それでいい」と大きく頷く。


 こうして私達はチケットを購入し、小劇場へ足を踏み入れた。

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