第四十二話:行間を埋める
エール卿が私の元へ来た理由は、よく分かった。
「俺、騎士になった。金が手に入ったから、少し送るよ――ではダメですかね?」
「ダメなことはないと思います。ただ、それはすべてを削ぎ落した結果だと思います。ご両親は音信不通になった間。エール卿がどこで何をしているのか、知らないのですよね?」
「そうですね」
困ったように頭を掻くエール卿に提案する。
「ならば行間を埋めましょう。一緒に。言葉を飾る必要はありません。何があったのかを伝えるだけでいいんです。先程私に話してくれたことは、ご両親も知りたいことだと思います。よってそれを手紙に書きましょう」
「行間を埋める……」
そこからはエール卿が、領地を飛び出すようになった理由。騎士を目指すことになった経緯。騎士としてどんなことをしたのか。魔獣討伐のことを含め、メモにまとめて行く。
「ここからは、まだお聞きしていないことです。仕送りをしようと思ったのはなぜですか」
「それは……両親には迷惑をかけました。領地の荒くれ者とつるみ、金を巻き上げていたんですが……両親は、後からその金を巻き上げられた相手を尋ね、頭を下げ、お金を返していたんですよ……。それを思い出し、従騎士として給金をもらえるようになってからは、お金を奪った相手に返そうとしたのですが……。行き当たりばったりで行動していたので、その相手はほとんど見つからない。そこでお詫びで孤児院や病院に寄付をするようにしました」
エール卿は元々は男爵家の三男。幼い頃は、たとえ将来領主にならなくても、領民のことを思うように育てられたはず。その時の真面目な気質は、彼の中に残っていたのだろう。
「そうしているうちに、両親にも迷惑をかけ、使わせた分のお金を返したいと思ったんです。でもその額は中途半端なものではないから。塵も積もれば山となるで、相応な金額です。だからまずはちゃんとお金を貯めようと考えました。そして今回褒賞金を得ることができたんです。これなら十分だろうと思えました」
そこまで話したエール卿は、少し照れたような顔になり、話を続ける。
「それに自分が真っ当に働いて稼いだお金。苦労をかけた分を返すのもそうですが、このお金で両親には美味しいもので食べて欲しいと思って……」
遠くを見るエール卿のその瞳。
もう何年も会っていない両親を、懐かしく思う目だった。
同じように彼の両親も。
エール卿に会いたい、元気なのかと気にしているはずだ。
「エール卿。あなたは手紙に書くことがないと言いましたが、そんなことはありません。今言ったことを整頓し、手紙に書けばいいのですよ。ご両親が知りたいのは、あなたの心境の変化です。それが今の言葉でよく分かりました。私もちゃんとメモをとったので、まとめますから」
「そうか。そうだったのですね。なんというかウィリス嬢と話すことで、自分も両親に本当は何を伝えたかったのか。整理できた気がします」
手紙というのはそういものだ。
相手を想い、何を書くかと考える。
ああでもない、こうでもないと文面を考え、紙に筆を走らせるということは――。
手紙を書くために使った時間、それすなわち相手のことを考えた時間。
そうやって誰かのために時間を使うことが……前世では減っていたと思う。
忙しく、時間がない。
はい、次、はい、次……と急かされるように生きていると、ゆっくり立ち止まり、考える時間を持ちにくい。
でも。
忙しいからこそ立ち止まり、考える時間を持つこと。
……前世のような多忙な人達にこそ、必要なのかもしれない。
何よりも書くことで、棚卸ができる。
誰かに出す手紙ではなくても。
紙に書くことで、気持ちの整理整頓もできる。
悲しいことも。頭にきたことも。不満も不平も。
全部、書きだすことで、自分を客観視し、何に自分の気持ちが揺さぶられているのかが、分かるようになる。冷静になることができるのだ。冷静になることで、自分がどうしたいのかも見えてくる。
解決策も模索できるようになるし、誰かに相談するにも論点が明確になり、スムーズになるのだ。
というわけで。
エール卿の手紙は彼が帰ってから一時間程で完成する。それは従者に頼み、彼の元へ届けてもらう。
内容に納得できれば後は封蝋をして、手紙を出すだけだ。
きっとこの手紙を受け取ったエール卿のご両親は、まずは驚くだろう。
でも怒ることはないはずだ。
手の付けられない悪党になりかけ、領地を飛び出した三男。音信不通であることに、頭に来ていた時間もあっただろう。
だが今では心を入れ替え、立派な騎士として生きていることを知れば……。
喜び、誇りに思うはずだ。
きっと次の手紙は、休みを使い、両親へ会いに行く――になるだろ。
「ウィリス嬢、次のお客様が見えました」
ヘッドバトラーのジョルジュが声を掛けてくれる。
「では応接室へお通しください」














