第三十八話:山のように
翌日。
朝食の席は実に賑やか。
予想通りだった。
ギルとミルリアが舞踏会の様子を尋ね、レイノルドか副団長に就任したと知ると、それだけでも大騒ぎ。
「副団長って、団長の次に偉いんでしょう? セドニック様、すごーい!」
「姉様。僕、セドニック様に剣術を習いたい!」
こんな感じで朝から二人ともテンションが高い。
さらに。
「ええっ、お姉様、子爵になったの!? それってもしかしてずっと王都に住めるの!?」
「さすがにそれは無理よ。でも領地はきっと増えるから、そうしたら生活は少し楽になるかもしれないわ」
「ウィリス嬢。その件ですが、今日の午後に勅使が来ます。子爵位を授けるにあたっての、諸々が記入された書簡が届けられるはずです。弁護士に来るように頼んであるので、一緒に確認しましょう」
これには「ありがとうございます!」だ。
レイノルドは今日は夜勤なので、日中は屋敷にいる。子爵になるにあたっての手続きなど、いろいろ教えてもらえる!
そんなこんなで朝食を終えると、ギルとミルリアは家庭教師のいる部屋に移動し、私も一旦自室に戻ったが……。
大量の手紙が届き、何事!?と思うことになる。
届けてくれたメイドによると、朝から大量の郵便物が届き、大変なのだと言う。しかもそれは……。
私宛に送られてきたのは、代筆業の仕事の依頼だ。
昨日の舞踏会、ダンスの相手をした令息には、代筆業の話をしていた。どうやらその話を聞き、興味を持ってくれた令息が、依頼をしてくれたようだ。
これは実にありがたい!
一方、レイノルド宛にも大量に届いている郵便物、それは……求婚状。
この世界では本来、男性側から令嬢宛に求婚状を送るのが、原則だった。
ただ何事にも例外はあるわけで。
令嬢の両親が「ぜひ娘を嫁がせたい!」と思った場合。
それは主に、利害や名声といった政略結婚に絡むことが多いのだけど、そういった時は、令嬢の父親や代理人が動き、求婚状が令息宛に送られる。
今回はまさにそのパターンだ。
レイノルドは昨日のパレード、舞踏会を経て、国内外にその名が知られるようになった。
若き侯爵であり、騎士団の副団長、そして国の英雄。
今、国内では花婿候補NO.1だろう。
こうなると年頃の令嬢を持つ貴族は動く。
早い者勝ちとばかりに求婚状を送り付けてきたのだろう。
それに昨晩、大勢の令嬢とレイノルドは、ダンスをしている。
政略結婚では、当事者同士の気持ちは、ないがしろになる場合が多い。
家同士の利害が最優先なのだ。
本人の恋愛感情など、二の次。
でも今回は違うと思う。
多くの令嬢がレイノルドに魅了され、父親に「早く求婚状を送って、お父様!」となったのではないか。
ということで私のところに届いた代筆業の依頼の手紙なんて、たかがしれている。だがレイノルド宛に届く求婚状は、終わりが見えない。
午後一番で勅使が来て、私の子爵位授与に関する書簡を受け取っている間も。届いた書簡について、レイノルドが私に説明してくれている時も。求婚状は届き続けた。
もしかすると、国中の令嬢の父親と代理人全員から、求婚状が届くのでは……?と思えるぐらいだ。
これだけ求婚状が届けば、その中に一人ぐらい、レイノルドの気持ちが動かされる令嬢もいるのではないか。とはいえ、すべての求婚状に目を通すのは大変そうだ。何よりもこれだけ届いた求婚状。イエスの答えを貰える相手は、一人しかいない。そしてお断りするためにも、返事を書く必要がある。しかも気を遣った返事を。
貴族は礼節を重んじる。何より家同士の関係性に悪影響を与えたくない。よって明確なお断りの理由は書かず、かつ両家の関係性は、これからも良好でいきましょう……としなければならないのだから大変だ。
そんな大変な状況なのに、レイノルドはヘッドバトラーのジョルジュから「坊ちゃま、また求婚状が届きました」と言われても「……執務室へ運んでおいてほしい」とだけ答え、私と話を続けてくれた。
「爵位の授与については、この書簡にサインをして、まずは返信です。すると呼び出しがあります。その呼び出しに応じ、国王陛下と謁見。その場で新たに授けられる領地が読み上げられ、紋章を授かることになるでしょう。流れとしては、これで爵位の授与は完了です。領民がいるような土地には、既に領主がいます。今回賜る領地には、領民はいないはずです。王家が所有する山林、鉱山などが与えられることになるかと」
「なるほど。山林でしたら、林業を始められますよね。鉱山なら、採掘を始める……最初はお金がかかりますが、採掘が進めば、借金も返済できるはず」
「そうですね。林業であれ、採掘であれ、初期投資は必要になります。ただ王家所有の土地を賜るなら、融資してくれる銀行や貴族は、探さなくても名乗りをあげてくれるでしょう。王家が所有している鉱山なら、採掘して何も出ないわけがないので。出ると分かっているものの、優先順位の関係で手付かず、という場合がほとんどですから」
もし鉱山だったら、我が家の懐事情は大きく変わるかもしれない。
ギルが爵位を継ぐ頃には、使用人の数もうんと増えている可能性がある。
白いパンを、領地で食べられる日がやってくるかもしれない……。
なんだかドキドキしてしまう。
「とはいえウィリス嬢は、鉱山の採掘にしろ、林業にしろ、不慣れですよね? 自分もそうです。そこは信頼できる人間を雇い、商会運営にしろ、鉱山や林業にしろ、自分は任せています。……もしウィリス嬢が自分を信頼してくれるなら、共同事業を行いませんか?」
この提案には「本当ですか!」と前のめりになっている。
「正直、自分は魔獣討伐に追われ、社交もしていない。お金は貯まる一方でした。よってウィリス嬢と共同事業を始めても、自分が儲けたいという気持ちはありません。どちらかというと、ウィリス嬢に言い寄り、甘い蜜を吸おうとする悪い虫から守りたい気持ちが強いのです。恩人であるウィリス嬢が、悪者の餌食になるのを指をくわえ、見ていることなどできませんから」
レイノルドはなんていい人なのだろう!
彼は十分信頼に値する。
よって共同事業という形でサポートして欲しいと、お願いすることにした。
これなら安心して、将来的に事業を、ギルにも引き継げるだろう。
頼りになるレイノルドがいてくれることを嬉しく思う一方で。
気になってしまう。
レイノルドは求婚状の山から、どの令嬢を選ぶのだろうと。














