第三十七話:同じ女性として
自業自得。因果応報。
それは確かにと思える。
それでも。
同じ女性として。
見過ごすことはできなかった。
「ウォーレンさん、助けてあげてください」
「え、あの公爵令嬢を助けるのですか!?」
「確かに彼女には意地悪をされたわ。でも……このままだと彼女は被害者になってしまう。ここで助けなかったらきっと、私は後悔すると思うの」
ウォーレンは「本当に領主様はお人好しですね」と言っていたが。
「ここでお待ちください」と言うと、公爵令嬢と偽皇太子がいる太い柱の影の方へと歩いて行く。
「お客様」というウォーレンの声と「なんだ、貴様」の後にドサッという音。
魔術を行使したのか、自身の腕力を行使したのか。
ともかく静かになった。
そして――。
泣きじゃくり、ドレスを乱したサイレンジン公爵令嬢を支え、ウォーレンが柱の影から出てきた。
私は着ていた黒のテールコートを脱ぎ、二人の方へ駆け寄る。
私の姿を認識したサイレンジン公爵令嬢は、驚いた顔になった。
だがテールコートを差し出すと、無言で受け取る。
「控え室まで送ってあげてください」
「かしこまりました。お客様はホールに戻られますか?」
「ええ。ここまでくればホール迄の通路は分かるから。ありがとう」
ウォーレンと短く会話を交わすと、私は先に歩き出す。
「どうしてですの!」
サイレンジン公爵令嬢が、怒鳴るような声を上げた。
驚いて立ち止まり、振り返ると……。
「あんな目に遭ったのに、なぜ、私を助けようと?」
この公爵令嬢は困ったちゃんね……と思いながら、こう答える。
「助けない方が、よかったですか?」
「!」
「目の前で困っている人がいたら、サイレンジン公爵令嬢も助けますよね? あなたと同じことをしただけです」
それだけ言うと踵を返し、歩き出す。
私からこんな風に言われたら、それ以上は何も言えないだろう。
それにしてもあの令息。
軍服ではないし、騎士ではないだろう。
公爵令嬢をてごめにできず、でもその悪事は彼女の父親である公爵の耳に入る。
消されるかもしれないわね。
でもそれこそ自業自得だ。
そんなことを思いながら足早に進むと、華やいだ笑い声と優雅な音楽が聞こえてくる。廊下の先は煌々と照らされ、ホールはもう目の前だ。
さらに歩みを早めたその時。
「ウィリス嬢!」
こちらに向け、駆けて来るスラリとした長身の男性。
「セドニック副団長!」
「ウィリス嬢、ドレスに飲み物がかかったと聞きました。大丈夫ですか!?」
「親切なバトラーの方に助けていただき、この通りです。問題ないですよ」
レイノルドは私の頭から足元まで素早く目を走らせ「確かに。有能なバトラーですね」と安堵した様子を見せたものの。心配そうに私を見る。
「このままここにいても、ひたすらよく知らない女性とダンスをするだけです。……帰りませんか?」
これには苦笑するしかない。
舞踏会だからダンスをして当然で、見知らぬ女性ばかりなのも……これまでレイノルドが社交をしていないからだ。
とはいえ。
サイレンジン公爵令嬢のこともあったし、こんなに人の多い舞踏会は初めてで、気疲れはしている。
「帰りましょうか。本当は社交を頑張った方がいいのでしょうけど」
私の言葉に、レイノルドは……。
「社交は気を違うものです。元気な時なら活発に行動できると思います。ですが疲れている時、無理は禁物です」
確かにそれはその通り。
社交は新たな出会い、交流を深めるためのもの。
元気がない状態では上手くいかない。
「そうですね。……帰りましょうか」
こうしていろいろなことがあった舞踏会から、帰宅することになった。
◇
大人にはまだ遅い時間ではないが、屋敷に着くと、既にギルもミルリアも眠っていた。そこでドレスを脱ぐ前に、順番に二人の部屋に行き、額にキスをする。
ギルもミルリアも、ぐっすり眠っていた。
明日の朝食の席ではきっと、舞踏会のことをいろいろ聞かれるだろう。私にとっては勲章をもらえたこともそうだが、サイレンジン公爵令嬢の一件もあった。さらにウォーレンとも再会できた。
出来事としては盛りだくさん。
でも後者二つの件は、話せないわよね。
そんなことを思いながら、部屋に戻り、眠るための準備を始める。ドレスを脱いでいる間に、入浴の用意が整う。
領地にいたら、お風呂の用意は自分達でしなければならない。それがここでは沢山の使用人が手伝ってくれるから……。
領地に戻ったら、元の生活に戻れるかしら?
あ、でも子爵になったのよ。
少しは生活が楽になるかしら?
ううん。
自分達の生活もそうだけど、領民のことも考えてあげなきゃ。
そんなことを考えていると、欠伸が出る。
やっぱり想像以上に気を遣い、疲れていたようだ。
湯船ではうっかり寝落ちしそうになり、メイドに起こされる事態に。
ともかくこの日は……爆睡だった。
そして翌日はいろいろと大変なことになる。














