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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第三十六話:困ったような照れたような

 出張料も払う。

 だから王都へ髪を切りに来てくれないかと頼むと……。


「それは王都には、わたし程の髪切りをできる人間がいない……ということですか?」


「違うわ。約束したでしょう。それにウォーレンさんは心配して、王都まで私の様子を見に来てくれた。そういう人との約束。無下にしたくないの。これからもウォーレンさんとは仲良くしてほしい」


 金色の瞳を大きく見開き、ウォーレンが私をじっと見る。


「それに私、代筆業を始めて、お金を稼ぐようになったの。無駄使いをするつもりはないわ。稼いだお金は、妹のミルリアの結婚資金にしたいし、弟のギルの将来のために使いたい。でも少しぐらいの贅沢は、許されると思うの。ウォーレンさんに王都へ来てもらうぐらいの贅沢は」


 ウォーレンは困ったような、照れたような顔になり、そして――。


「……やはり領主様はお人好しです。わたしが法外な出張料を要求したら、どうするつもりなのですか?」


「揚げパンにね、シナモンパウダーをつけることを思いついたの。セドニック副団長の屋敷の厨房には、スパイスもいろいろ揃っている。それを使わせてもらうことが出来るから……」


 ウォーレンの顔はぱあぁぁぁっと輝いている。


「それに砂糖もあるの。シナモンシュガーをまぶした揚げパンは、とても美味しいと思うわ。あとはココアパウダーも用意できる。プレーンな味。シナモンシュガー。そしてココアシュガー。三種類の味の揚げパンで、出張料込みでどうかしら?」


「領主様はお人好しですが、商売上手ですね。……手を打ちましょう」


 そこでウォーレンが手を差し出す。

 お人好し。

 でもウォーレンも()()()好しだと思う。


「交渉成立ね。……というか、私、そろそろ舞踏会のホールへ戻るわ」

「では送りますよ」

「あ、魔術は使わないでいいわ。温室は宮殿内とつながっているでしょう。歩いて行くのでいいわよ」


 ウォーレンが魔術師だからと、あれもこれもで魔術を使わせるのは、申し訳ない。本来、魔術を一つ使わせたら、それに見合う対価を求められて当然なのだから。


「人間は本当に不思議ですね。魔術で移動したら楽なのに」


「少しでも長く、ウォーレンさんとおしゃべりをしたいからよ」


「……!」


 意外にも顔を赤くしているウォーレンは、よく見ると整った顔をしている。

 普通に人付き合いをしたら、モテそうなのに。


「ところでホールまでのルート、分かるの?」


「宮殿に潜入するにあたり、把握しましたよ。これでも有能なバトラーですから」


 そう言っているそばからウォーレンの姿は、元のバトラーに戻っている。


「それではお客様、ホール迄ご案内しますよ」

「お願いします、有能なバトラーさん」


 こうしてバトラー姿のウォーレンにエスコートしてもらい、温室を出て、宮殿内を歩き始める。

 さすが宮殿。

 あちこちに警備兵がいる。

 そう思っていたが……。


「なんだかここは、警備兵があまりいないわね」


「分からないですか? 舞踏会は表向き、厳格さや威厳が求められます。その一方で、庭園やバルコニー、人気の少ない廊下や控え室。こういった場所は、密会の場として活用されているのです。つまりの舞踏会の裏では……。人間は変な生き物ですよ」


 これには「ああ、なるほど」だった。

 貴族は体面を取り繕うが、それでも人間であることに変わりはない。

 一夫一妻制で離婚は認められないともなれば……。

 華やかな舞踏会の裏では、欲望渦巻く世界が広がっていると言うが――。


「やめなさい! 私を誰だと思っているの!?」


「誰だが分かっているからですよ。ここで大声で悲鳴を上げ、警備兵に助けてもらいますか? 噂が立ちますよ」


 なんだか雲行きの怪しい会話と、聞いたことのある声が聞こえる。


 本来、舞踏会で行われる情事は、見て見ぬふりが大原則。

 公然の秘密だった。


 だが……。


「放して! あなたのような身分の低い貴族が、私に手出しなんてできないのよ!」


「ではなぜこんなところまでのこのこついて来たのですか」


「それはあなたが、自分は異国の皇太子だなんて、嘘をつくからでしょう!」


 なるほど。異国の皇太子が狼藉など働くはずがないと信じ、人気のない場所まで来てしまったのね。

 この世界にまだ写真はない。

 姿絵での情報は完璧ではなかった。

 ゆえに異国の皇太子のフリをしても、案外こんな風に騙されてしまう人もいるということ……いや、そんなわけがない!


 これだから温室育ちの令嬢は……。


 パチンという盛大な音がして、ウォーレンと私は同時に体がビクッと震える。


「な……平手打ちをするなんて」

「当然ですわ! あなたが失礼だからでしょう!」


 私に対し、あれだけ強気な態度に出ただけある。

 性格もかなり勝気なのだろう。

 ならば一人で解決でき――。


「この(あま)、いい気になりやがって」「き」


 悲鳴ではなく、くぐもった「うぐっ」という声が漏れてくる。


 レイ・ローザ・サイレンジン公爵令嬢。


 取り巻き令嬢に命じ、私に白ワインをかけた、ボスのような公爵令嬢だった。


 それでも男性の前では、非力な令嬢。

 このままでは――。


「罰が当たりましたね。自業自得ですよ。誰かに意地悪をしたら、その報いは自分に帰ってくる」


 ウォーレンが冷たくささやいた。

お読みいただき、ありがとうございます~


本作に対し、いいね!ブックマ・評価などで応援くださる読者様。

誤字脱字報告してくださる読者様。

いつも本当にありがとうございます!

皆様に支えられることで、原稿を書く時間をいただけています。

心から感謝でございます。


ということで別作品で番外編の公開を始めたので

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