第三十一話:栄誉
国王陛下夫妻、王太子と王女がホールに入場し、舞踏会が開始となる。
最初は国王陛下による挨拶だ。
「我が国だけではなく。この大陸全土の多くの人々を悩ませ続けた魔獣。実はこの魔獣を生み出す化け物は、たった一匹だけ存在している雌の魔獣、魔獣の女王だった」
国王陛下の声だけが、ホールの中に凛と響く。
「マトリアークを討伐することで、この世界から魔獣を根絶できる。この悲願は、マトリアークの存在が明らかになった数百年前から続いていた」
魔獣がこの大陸に現れ、おおよそ千年と言われている。
その生態は長らく不明だったが、一人の聖職者がダークウッド連山に入り、自身の命と引き換えで、マトリアークの存在を知るに至った。彼が遺した手記により、真の敵の存在が明らかになったのだ。
「だがマトリアークは、おそらくダークウッド連山にいるとされていたが、発見できず、殲滅できずにいた。その悲願が、この度の討伐で成し遂げられたのだ。尽力してくれたアルセン聖騎士団には、感謝の気持ちでいっぱいである。その労をねぎらい、今日、この祝賀の舞踏会を催すに至った」
国王陛下が居並ぶ騎士達を見渡し、笑顔になる。
「よくぞやってくれた。ありがとう」
ここで盛大な拍手となり、国王陛下自身も拍手を送る。
ひと段落したところで、国王陛下が再び口を開く。
「今回、マトリアークを追い詰め、最終的に殲滅したのは、一人の上級指揮官だ。まだ二十歳と若い彼が誰であるか。既に皆、知っているところだろう。今日は改めてその彼に、名誉を与えることにした。我が国のアルセン聖騎士団は、この度、一人の団長の元、二人の副団長が置かれることになった。そう。彼に与える名誉は副団長への就任だ」
そこで国王陛下は皆を見渡す。
「マトリアークを滅することに成功したが、魔獣がこの世界から、完全に消えたわけではない。魔獣の寿命は長い。マトリアークが最後に生み出した魔獣は昨年の春。最後の一匹がこの世界から消えるまで、魔獣討伐は終わらない。魔獣の討伐をこれからさらに加速させるため、二人目の副団長に活躍してもらうことになった」
私の横に立つレイノルドに、自然と視線が集まる。
「ご紹介しよう。史上初となる二人目の副団長、レイノルド・ソル・セドニック侯爵。前へ」
盛大な拍手に押され、レイノルドが国王陛下の前に出る。
毛皮のついた赤いマントをまとい、王冠をつけた国王陛下と、レイノルドが向き合った。
「セドニック副団長。そなたに新たな勲章を与えよう」
レイノルドが国王陛下の前で片膝をつき、跪く。
「不屈の剣勲章 (ソード・オブ・レジリエンス・メダル)を、レイノルド・ソル・セドニック副団長に授ける。これからも国のため、そして国民のために。そなたの剣を捧げるといい」
「仰せのままに。Your Majesty(陛下)」
国王陛下は侍従長が運んだ剣を手に取ると、レイノルドの左右の肩に、順番に載せる。
「その活躍を祈願し、建国王アルセンの宝剣を授ける」
これには「おおおっ」というどよめきが起きた。
建国王アルセンの宝剣は、通常、王族の宝物庫に保管されている。祝賀や建国祭の際、王立博物館に展示されるもの。まさかそれを王家が手放し、臣下に賜らせるとは! これは異例中の異例。ただそれをすることで、国王陛下がどれだけレイノルドを重要視しているかは、皆に伝わったはずだ。
国王陛下から宝剣を受け取ったレイノルドの顔に、万感の笑顔が広がる。
立ち上がり、剣を高々と掲げたレイノルドは……痺れるほどカッコいい!
「!」
レイノルドのあの碧い瞳と目が合い、心臓がドキッと大きく反応する。
「自分がマトリアークを殲滅できたのは、騎士団の仲間と、そしてエレナ・ウィリス男爵の助けがあったためです。どうか彼女にも盛大な拍手をお願いします」
これには私は「えっ」と驚くが、会場からは拍手が一斉に起きる。
もう嬉しいやら恥ずかしいやら。
さらに。
「そうだったな。勝利の乙女にも栄誉を与えよう。エレナ・ウィリス男爵、前へ」
レイノルドは自身が緊張していると言っていたが。
緊張するなら私では!?
こんなサプライズ、聞いていない!
震える手でドレスのスカートを持ち、前へ出る。
没落貴族同然の私が、国王陛下の前に出るなんて……!
「エレナ・ウィリス男爵。そなたは亡き両親の跡を継ぎ、男爵として奮闘していると聞いている。女手一つで弟と妹を育て、領民にも慕われていると。これまでの労をねぎらい、さらにこれからを期待し、そなたに子爵位を授けよう」
これだけでも腰が抜けそうなのに!
「献身の乙女勲章 (メイデン・オブ・デェディケーション・メダル)を、エレナ・ウィリス子爵に授ける。これからも国のため、そして民草のために。そなたの献身を捧げるといい」
盛大な拍手が起き、国王陛下から記念のメダルがついたリボンを、首からかけてもらうことになる。
星型のメダルに、青と白のストライプのリボン。
まさかこんな栄誉を授けてもらえるなんて……。
この場にギルとミルリアがいないのが残念だが、私は皆に伝える。
「セドニック副団長が倒れているのを最初に発見したのは、私の妹です。八歳の救いの天使であるミルリア・ウィリスにも、盛大な拍手をお願いします」
その場にいた全員が、国王陛下も含め、拍手を送ってくれた。
屋敷に戻ったら、ミルリアに報告しないと!
そう思ったところで国王陛下が声を上げる。
「それでは舞踏会を始めよう。最初のダンスはセドニック副団長と」
「陛下、国の英雄であるセドニック副団長と、ぜひ我が娘をダンスさせてください」






















































