第二十八話:照れている?
パレードのスタート地点となる、時計塔の広場に到着した。
このまま屋根のない馬車に乗り込んだら、たっぷり時間をかけ、宮殿へ移動する。
宮殿へ到着すると、そのまま国王陛下との昼食会があるという。これには騎士団の幹部や重鎮、国内の有力貴族も参加するので、晩餐会に近い。
それが終わると一旦解散で、屋敷へ戻れる。
でも屋敷へ戻るのは私だけで、レイノルドはいくつかの昇進に伴う社交があった。私は屋敷で一旦休憩し、さらに舞踏会へ向け着替えもできるが……。
レイノルドはそのまま宮殿で些事に追われ、舞踏会へ突入となる。
「ウィリス嬢、お久しぶりです」
そう言って私を見て微笑むのは、アルセン聖騎士団の団長であるジークだ。
キャラメルブロンドによく日焼けした肌、そして濃紺の瞳を持つジーク団長は、見るからに偉丈夫。歴戦の猛者で知られ、その倒した魔獣の数に比例するようにして、団長に就任している。しかも六児の父の三十二歳! いろいろな意味で、エネルギッシュな方だ。
「領地でのウィリス嬢は、野山を飛び回っているイメージでしたが……。今日は随分と愛らしいですな」
「あ……これは妹とお揃いでして」
「なるほど。ですがこういうドレスも、よくお似合いかと。そうだろう、セドニック」
急にジーク団長に振られたレイノルドは、面食らった顔をしているが「ええ、とても似合っていると思います」と、ややぶっきらぼうに答えた。
その様子を見るに、やはり二十歳が着るには、フリルとリボンが満点過ぎるわね……と少し恥ずかしい気持ちになる。
「こういう態度の時のセドニックは、耳を見るんですよ。真っ赤でしょう。あれは照れているんです。このドレス姿のウィリス嬢が可愛らしくて、ドキドキしているのに。それを誤魔化した結果、ぶっきらぼうになっているだけ。ということで自信を持ってください、ウィリス嬢!」
ジーク団長が内緒話でそう教えてくれたのだけど。
「! 団長! 団長は既婚者なんですよ。未婚の令嬢にそんなにべたべたされると、奥さんに怒られます!!」
レイノルドは何を勘違いしたのか、ジーク団長に抗議。そこにパレードを仕切るスタッフがやって来て、馬車に乗るようにと促される。
「ではわたしは馬車を先導するので。ぜひ沿道の観衆に笑顔を振りまいてください」
ジーク団長が私の手を取り、甲へキスをすると……。
「団長!」
「挨拶だろう、セドニック」
ジーク団長は、レイノルドと同じ純白のマントを翻し、自身の愛馬の方へと向かう。
団長の軍服はなんと純白!
これまた魔獣討伐に向かないのだが、団長であればその白の軍服を汚さずとも、魔獣を倒せる……ということなのだろう。実際ジーク団長は、豪速の矢を放ち、それだけで十体の魔獣を倒したという逸話を持つ。まさに純白の軍服に相応しい、強者だった。
「ウィリス嬢、馬車へどうぞ」
レイノルドがなんだか団長に負けまいと言うオーラ全開で、私をエスコートして歩き出す。そして目の前に見えてきたのは、白馬がひく薔薇と黄金の装飾があしらわれた赤い馬車。
「目立ちますね」
「パレードですからね。目立たないと意味がないですから」
その通りだった。
一瞬、こんな目立つ馬車に乗るのは恥ずかしい……と思ってしまったものの。
馬車が派手なら、私は目立たないで済む……という結論に至る。
こうして馬車に乗り込むと、これまたド派手にトランペットやホルンによるファンファーレ。
観覧席で、護衛についている騎士と共に着席しているギルとミルリアは、興奮した様子でこちらを見ている。
先導するジーク団長の白馬が動き出すと、騎士団旗を掲げる騎士が、その後に続く。
ギルとミルリアは椅子から立ち上がり、手に持つミニサイズの国旗を振り、沿道の人々からも歓声が沸き上がる。
私は何もしていない、ただエスコートされている男爵令嬢なのに。それでも周囲のこのテンションに影響を受け、気持ちが高揚する。
これだけ観衆を沸かせる偉業を成し遂げたレイノルドに対し、尊敬の念も高まった。
「お二人とも、笑顔で手を振ってください!」
駆け足で馬車の近くを走るスタッフから声がかかり、レイノルドと私は笑顔で手を振ると……。
ドッと歓声と拍手が起きる。
これには「すごい!」と嬉しくなり、さらにテンションが上がってしまう。
「緊張されていませんか、大丈夫ですか?」
「緊張するかと思いましたが、これだけの熱気に包まれると、自分自身、気持ちが昂り……緊張は吹き飛びました!」
「それは良かったです」
宮殿までの道のり。
長いと思っていた。
でもこの興奮に包まれると……あっという間に宮殿だった。














