第二十一話:この手紙の意図は?
「初めまして、ウィリス嬢。僕はパーン・シュワルツと申します。シュワルツ伯爵家の三男で、アルセン聖騎士団で事務方を担当しています。セドニック上級指揮官にはいつもお世話になっており、この度も大変優秀な代筆者がいると、あなたのことを推薦いただきました。どうぞよろしくお願いします」
しっかりとした言葉遣いで、折目正しく挨拶をするパーンは、実に好青年。焦茶色の髪はきっちりオールバックにして、着ているスーツはパリッとして清潔感もある。その印象は、あの屯所に関する書類の完璧さに通じるもの。
やはり手紙を書くのが苦手とは、にわかに思えないのだけど……。
「それではパーン、きちんと用件を話し、ウィリス嬢を困らせないように。帰ったらウィリス嬢から話を聞くつもりだ。何せ初仕事だからな。変なことを言うんじゃないぞ」
「セドニック上級指揮官、安心してください。僕、そんな変な依頼はしませんので。後ほど、ウィリス嬢からしっかり報告を受けてください」
これを聞いたレイノルドは「そうか。ならば安心だ」と笑い、私を見る。
「ウィリス嬢、それではパーンのこと、よろしくお願いします」
こうしてパーンと私のそれぞれの紹介を終えると、レイノルドは宮殿へ向かうため、屋敷を出発した。パーンと私は応接室を出て、書斎へ行くと、私は文机に、パーンはソファに腰を下ろした。
既に文机には、羽根ペン、インク、紙は用意していた。
「早速ですが、始めますか?」
「ええ。お願いします」
そこでパーンは「コホン」と一度咳払いをすると、おもむろに話し始めた。
「親愛なるポーネリアンへ。僕の屋敷の庭にあるセイントベル。春の風物詩として知られている花だ。その花の蕾を見つけたんだ」
出だしの挨拶としては、とてもいい感じだ。
「セイントベルは全部で三十二株植えていた。そのうちの二十二株に蕾がついた。白い花は咲くが、蕾は濃いピンク色をしている。この濃いピンクが次第に淡いピンクになった時に開花となる」
セイントベル!
懐かしい。
セイントベルは、前世にはない花だ。
この世界ならではの花だった。
ベルのような可愛らしい花を咲かせるので、貴族の庭園ではよく植えられていたが……。
自生していないので球根を買う必要がある。
ウィリス男爵家でも、菜園になる前の庭園には、植えられていた花だ。
「毎年、観測した結果、どうやらその淡いピンクになるまでは、二週間ほどかかっていた。今年は去年よりも平均気温が高い。日によるが、5度も高い日もある。おそらく二週間を待たずして、淡いピンク色になる蕾が出てくるはずだ」
そ、そうなのね。
パーンは庭いじりが好きなのかしら?
随分と詳しいわ。
「僕の予想だと十九株がそうなるかと。三株が遅れるのは、日当たりの問題だ。ツツジが元気旺盛で、その三株だけが、やや日当たりが悪い。ツツジの陰となり、成長が遅れている」
なるほど。
日当たりは花の開花に確かに影響を与えるけれど……。
「ともかく今年はあと十日ぐらいで、セイントベルの花が咲く。だから僕の家に来るといいだろう。上質なお茶と君の好きなお菓子を用意して待っているよ」
そこでパーンは、ソファの前のローテーブルに置かれている、紅茶の入ったティーカップを手に取った。満足気に一口飲むと、私を見る。
「以上です。最後はSincerelyで頼みます。あ、書き留めることはできましたか? ゆっくり話したつもりですが」
「あ、はい。速度については問題ないです。ちゃんとすべて書き留めることができました。清書はこれからしますが……」
私は書き留めた内容を改めて速読する。
セイントベルの蕾を見つけ、その花をフックにお茶へ誘う。それ自体はよくあるお誘いの手段だ。
ただ、どうしてこんなにセイントベルについて、詳細に説明する必要があるのかしら?
『セイントベルの蕾を見つけた。今年はあと10日もしたら花が咲くと思う。良かったら咲いたセイントベルを見に来ないか? 君の好きなお菓子と、上質な茶葉を取り寄せておくよ』
これでいいのでは?
庭師に送る手紙でもなければ、植物学に詳しい相手への手紙でもないのだ。
セイントベルの詳細は割愛でもいいのに。
私は単純にそう思ってしまうが、ここは依頼人の意図を確認した方がいいだろう。
「シュワルツ様。この手紙を送る相手は、令嬢ですよね?」
「! 失礼しました。敬称が抜けていましたね。はい、ポーネリアンは子爵令嬢です。僕の幼なじみなんですよ」
「なるほど。……ポーネリアン様は、花が好きなのですか? ご自身も花を植えられたり、庭いじりをされたりするのでしょうか?」
するとパーンは首をぶんぶん振る。
「まさか。子爵令嬢ですよ。庭いじりなんて!」
「大変失礼しました。私、領地では菜園を耕していたので……」
「! な、いや、あれですよ、そういう令嬢もいます。花好きが高じ、自分で好きな花を植える令嬢もきっと……あ、そして菜園。菜園。いいですよね、菜園!」
パーンは真面目だった。
私の名誉を汚すまいと、必死に言葉を紡いでくれていた。
その間に私は考える。
庭いじりが好きな令嬢への手紙なら。
蕾をつけた花の株数など、詳細に手紙に書いた方が、喜ばれるだろう。
でもそういうわけではない。
ならば株数や気温のことなど、割愛でいいのではないかしら?
それに……。
「シュワルツ様、込み入ったことを質問してもいいでしょうか?」
「! な、何でしょうか!? 何でも聞いてください!」
まだ動揺しているパーンは、私の質問には全て答えるつもりのようだ。
ならばここは聞いてしまおう。
「この手紙は、ただの幼なじみをお茶会へ招待するために、送るのでしょうか。それとも想い人でもある幼なじみに送る手紙ですか?」
パーンはハッとして、分かりやすく頬と耳を赤くした。














