第二十話:初めての
怒涛の王都での滞在一週間が過ぎると、ようやく日常が送れる状態になった。
レイノルドには、妹アニスがいるが、彼女は年子。
王立アルセン高等学院を卒業後、留学していた。
留学した先は、アルセン王国からかなり離れたテハナント帝国。
春休暇という、前世でいう春休みはあるが、十日間と期間が短い。そのため実際に会うことができるのは、バカンスシーズン……すなわち夏休みになりそうだった。
アニスへの直接会っての挨拶はできていないが、手紙の交換はできている。その手紙の中でアニスは、私達三人の滞在を歓迎し、人付き合いの薄い兄を頼むと書かれていた。
人付き合いの薄い兄。
レイノルドがそうなってしまうのは、仕方ないと思う。
何せ魔獣はありとあらゆる場所に現れる。
アルセン聖騎士団の屯所はあちこちにあり、数が少なければ、その屯所に駐留している騎士達で対処していた。だが数が多かったり、魔獣にしては小賢しい場合、王都にいるアルセン聖騎士団が動くことになる。つまり遠征に出るわけだ。
その遠征は、度々行われており、レイノルドは王都にいる時間が少なかった。
社交をしているどころではなかったのだ。
だがその状況も変わるだろう。
何せ毎年せっせせっせと春になると数を増やしていた魔獣が、もう増えなくなるのだ。
魔獣の女王と呼ばれたマトリアークはこの世になく、魔獣の数は頭打ちになる。
それにダークウッド連山で、大規模な魔獣討伐作戦が行われたが、それは各所にある屯所でも遂行されている。どの場所であろうと、近隣の山や森で魔獣は冬眠していた。春を迎える前に、寝込みを襲う作戦は、アルセン王国内のあちこちで決行されていたのだ。
昨年よりも、レイノルドが王都へいる時間は、間違いなく増えるだろう。
そうなれば自然と、社交を行う機会は増えるはず。
妹のアニスが心配するような“人付き合いの薄い兄”は返上できると思った。
そんな風に思っていたが、人付き合いの薄い兄の心配は、既に不要に思えた。
なぜなら。
「ウィリス嬢」
王都滞在八日目。
春の陽射しを感じさせるサンルームで、レイノルドと私はティータイムを過ごしていた。のんびりお茶を飲んでいるわけではない。ウィリス男爵領のあの村に、アルセン聖騎士団の屯所が設置されることが決定した。今はその対応について、打ち合わせをしていたのだ。
といっても私がすることは、騎士団が用意した書類にサインをするだけ。諸々の手配、現地の領民への説明は、騎士団が行ってくれる。しかも既に領民と騎士団は防御壁の時に交流があり、双方の関係は大変良好。領民が、騎士団が来ることに反対するなんて……ないだろう。
ゆえにレイノルドの丁寧な説明を聞き、書類にサインすることは、問題なく終わったところだった。そこで名前を呼ばれ、彼から告げられたことは……。
「ギル令息とミルリア嬢の家庭教師も決まり、今日から授業も開始しています。昼食の席で確認しましたが、二人とも特に困っていることもなく、教師に対して不満もないとのこと。自分も知っている人物ばかりで、問題ないと思っています」
それは本当にその通り。
昼食の席でギルもミルリアも、家庭教師をとても気に入ったと話していた。
「先生はすごいよ。何でも知っていて、僕の質問には全部答えてくれる!」
「見たこともない刺繍の仕方を教えてもらえたの! 先生はとっても美人だし、私、先生みたいになりたいわ!」
この反応なら問題なく、任せられると思った。
「ウィリス嬢の一番の心配は、ギル令息とミルリア嬢だと思います。そちらは問題なさそうなので、代筆業の方を、そろそろ始動させませんか?」
それはもうぜひに!だった。
ギルやミルリアのために、レイノルドに感謝を示すためにも、代筆業は一日も早く始めたいと思っていた。
「騎士団には騎士だけではなく、事務方の職員もいます。今回見ていただいた屯所建設にまつわる書類を準備したのも、その事務方です。その事務方として働いて三年目のパーンという青年がいるのですが、手紙を書くのが苦手。こう言った書類を用意するのは得意なのに。字だって問題なく、整っているのですが……」
パーンが用意した、屯所建設に関する書類。
完璧だった。
字も読みやすく、レイノルドが不思議そうにすることも納得。
とても手紙が不得意には思えなかった。
「何はともあれ。代筆業の手始めとして、パーンの手紙を担当いただくのは、いかがでしょうか」
「もちろん引き受けます! 私がパーン令息の屋敷を訪ねればいいですか? いつ伺えばいいでしょうか?」
私の反応を見たレイノルドは、そのサラサラのプラチナブランドを揺らし、朗らかに笑う。
「大変前のめりで頼もしいです。パーンにはこの屋敷に来てもらいます。明日の午前中でどうでしょうか? 彼は明日、代休を取得すると言っていましたが、予定は特にないと言っていましたので」
「はい! それでお願いします!」
「自分は明日、国王陛下に謁見があり、宮殿に出向く必要があります。屋敷を出る前に、パーンをウィリス嬢に紹介しましょう」
こうして記念すべき初めての代筆業の仕事が決まった。














