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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第二章

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第十九話:未来は自分次第

「……ご自身もまた男爵令嬢であることを、忘れていませんか。……誰かに甘えることを、忘れてしまったのではないですか? 自分ではまだ信頼に値しないのかもしれません。ですがここは信じていただきたいです。少しは頼ってください」


 レイノルドのこの言葉に、全身から力が抜けそうになっていた。

 だって。

 あまりにもその通りのことを言い当てるから……。


 ううん。違う。


 きっとマチルダやハドソンも気付いている。

 でも使用人という立場上、指摘できない。

 その代わりで懸命にサポートしてくれていた。


 誰かに甘える。


 自分が長女だから、しっかりしなければならない――それはずっと思っていることだった。


 前世でも長女。

 転生しても長女。

 長女も二度目となれば、長女であることは板についているわけで……。


 両親が健在だった時でさえ、既に誰かに甘えることはなかったと思う。

 覚醒せずとも前世の気質が出ていたのか。

 ……出ていたかもしれないわ。

 覚醒する前なのに、ラーテルのことを思い出していたぐらいだ。

 ハッキリと覚醒する前から、前世の私の性格は表出していたのだろう。


「失礼しました。急に手に触れてしまい」


 そこでレイノルドが私の手を取ったままであることに、気が付くことになった。

 ゆっくりとレイノルドが私の手を離そうとした時。

 もっと握っていて欲しいと、感じていた。


 レイノルドの手は、騎士とは思えない程、美しかった。

 私と違い、ちゃんとケアをしているのだろう。

 爪も割れていない。

 冬なのに乾燥もしていない。


 手の平に豆があるが、その程度。


 指も細く、長く、メンズの手タレが出来そうだ。


 そんなことを考えられるぐらい、先程の一言で、私のガードは緩んでいたと思う。


 その結果。


「セドニック卿の言う通りです。私は……自分が長女であったことから、誰かに甘えるのではダメだと思い込んでいました。両親を亡くしてからは、私がしっかりしなきゃと、気負い過ぎてしまい……。誰かに甘えること。確かに忘れていました」


「でもそれは仕方のないことです。自分も既に両親が他界していますが、心の準備はできていました。亡き父親は、魔獣との戦闘は命懸けであることを、いつも口にしていました。自身に何かあった時は頼むと、物心ついた時から言われていましたので……。自然とその覚悟を身に着け、成長できました。母親は妹を出産後、亡くなりましたが、元々病弱だったので……。でもウィリス嬢は違います」


 見上げると、レイノルドの紺碧と空色にグラデーションしている瞳と目が合う。

 その瞳に感じる温かさに、胸が熱くなる。


「突然、ご両親が揃って事故死された。悲しむ暇もなく、葬儀を行われたと思います。母親代わりとして、領主としての日々が始まってしまった。しかもその()間もなく、流行り病も経験されている。がむしゃらで駆け抜けた三年間だったと思います」


 レイノルドに私の人生を、余すことなく語ったわけではない。でも彼は共感力が高いのだろう。私の立場を鑑み、想像し、分かってくれていた。


 そんな理解者に出会えたことに。感動で胸が熱くなる。


「……ですがこうやって王都に来て、生活環境が変わるのは、良い機会ではないでしょうか。今からでも遅くありません。ギル令息とミルリア嬢を大切にしつつ、ご自身にも愛情を注いでください」


 そう言うとレイノルドは、棚に置かれている手の平サイズのブリキ缶を手に取り、私に渡してくれた。


 蓋にはカラフルな花々が浮き彫りにされている。


「これは自分も使っているハーブを配合したクリームです。手だけではなく、全身に使えます。といってもこれはこの量なので、ハンドクリームとしてお使いいただくといいでしょう。毎日ちゃんとケアすれば、この手もきっと元の健康な状態を取り戻します」


 時には薪割りをして、皿洗いも洗濯もして。それなのに何もしていない私の手は、ガサガサでひび割れ、あかぎれもあり、ボロボロだった。髪だけは艶々で、でもドレスも手と同様でボロボロ。そんな私が男爵令嬢らしくなれるチャンスを、レイノルドは与えてくれたのだ。


 ここはせっかくの厚意に存分に甘え、ちゃんと素敵な令嬢になろう。


 代筆業が上手く行ったら、御礼だってできる。


「良かったです。ようやく笑顔になりましたね」

「!」

「大丈夫ですよ、ウィリス嬢。今からでも問題ないです」


 レイノルドとの出会いは偶然。

 こんな未来を期待し、助けたわけではなかった。

 単純に、救える命を助けたい。

 その一心だった。

 髪なんてどうせすぐ伸びる。むしろ短くて楽と思っていたけれど……。


 レイノルドはとても強い恩義を感じ、私がしたこと以上に援助してくれている。


 今は甘えることしかできない。

 だがこれからの未来は、自分次第で変えることが出来るのだ。


 彼の心意気に応え、この厚意への恩返しをちゃんとしたい――。


 そう強く決意することになった。

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