第十六話:ギルとミルリアの想い
「王都へ行くにあたり、不安は解消されましたか?」
そう問われると、見事に解消されたと思う。
それにレイノルドとの問答を通して、切り詰めるのではなく、収入を得ることの重要性に気付けた。
前世の記憶が覚醒する前の私では、収入を得ることを冷静に考えるなんて……できなかったかもしれない。
なぜなら貴族令嬢が外でガツガツ働くということを、イメージできないからだ。でも今は違う。前世では、女性も仕事をバリバリしていたし、自立した女性は、当たり前のように存在していたのだ。前世の記憶があるからこそ、女性でも頑張って働こうという気持ちになれていた。
ギルとミルリアのために稼ぐ。
そんな強い決意が沸いてきたのだ。
ただし、その決意は私のもの。
当事者は私一人ではない。
そこで私は揚げパンを食べ終えたギルとミルリアを呼び、王都へ行くことについて、話してみることにした。
「王都……興味がないわけではないよ。だって勉強で使っている本の作者は、みんな王都にいる。この国の英知は、王都にあるんだろうなと思うし。でも王都に滞在するにはお金がかかるから……。別に僕は王都に行けなくても構わないけど。……行けたらラッキーだとは思う」
ギルが我が家の懐事情を考え、素直に「王都へ行きたい!」と言えないことが、痛い程伝わって来る。
思わずギルをぎゅっと抱きしめてしまう。
「どうしたんだよ、姉様!」とギルが動揺するので、次にミルリアに尋ねると……。
「王都って、お姫様と王子様が住んでいる場所でしょう? 夜寝る前に読んでくれる物語にも、王都がいつも登場するわ。そこには大きな本屋さんや、宝石みたいなお菓子を売るお店があるのよね。私もいつか行ってみたいな。そこでた~くさんのお菓子をお腹いっぱいに食べるの」
そこで両手をいっぱいに広げ、沢山のお菓子を表現したミルリアだったが、こんなことを言う。
「でも王都へ行っても一度きりだと……。お菓子は食べ切れないわ。王都に住んでみたいなぁ。キラキラしたお洋服やお菓子に、毎日囲まれてみたい」
素直な夢を語るミルリアに、胸が熱くなる。
ギルのように、我が家の懐事情を考えてくれるのは、大変ありがたいことだ。
でもその分、本音を隠すことになる。
わがまま過ぎるのは困るが、我慢し過ぎるのもよくない。
ゆえにミルリアが、自身の純粋な気持ちを表明してくれたこと。
これはとても嬉しかった。
こうして二人に王都について聞いた私は、再度決意する。
ギルとミルリアは、王都で暮らすことで、いろいろな経験を積むことができるだろう。多くを学べる。沢山のその後につながる人脈も、築けるはずだ。
何よりこれまで一度も口に出したことはなかったが、王都への憧れが、二人にはあるのだ。
見せてあげたい、連れて行ってあげたい、王都へ――そう思えた。
それに。
もしレイノルドと知り合うことがなければ。
王都へ行くことなど、例え前世記憶が覚醒しても、考えなかったと思うのだ。
一期一会とは、まさに今回のようなことを言うのではないか。
「ギル、ミルリア。おしゃべりをし過ぎてしまったけれど、そろそろ夕食の準備の時間よ。マチルダを手伝ってあげてくれる? 私はまだ体を動かせないから」
「勿論だよ、姉様!」
「任せて、お姉様!」
マチルダが二人を連れ部屋を出て行くと、ソファに座っていたレイノルドに声を掛ける。
「セドニック卿、私、決意しました」
私のこの一言に、レイノルドは背筋を伸ばす。
「王都へ行く提案をしてくださり、ありがとうございます。セドニック卿から王都へ行くことを提案されなかったら、私は代筆業をすること、お金を自分の力で稼ぐことを、思いつけなかったでしょう。なんとか今ある収入で、切り詰めてやりくりをしようとしていた……そう思うのです。収入を得る――そこに気づかせてくれたことに、まず感謝します」
「いえ、自分はただ、ウィリス嬢の字が綺麗だったので……思い付きですよ」
そう言って照れるレイノルドは、何だか可愛らしい。
騎士であり、侯爵であるレイノルドを「可愛い」と思えるのは、前世記憶が覚醒したからね……なんてしみじみ思ってしまう。
「さらに王都のことを、ギルやミルリアがどう思っているのか。これまで尋ねてみることもありませんでした。なぜならここから王都は遥か遠くであり、そこで起きる出来事は……まるで異国のことのように思えていたからです」
「それはそうでしょう。魔獣の巣窟が近い場所であり、ここは土地が痩せています。日々の生活で手いっぱいになって、当然かと」
「まさにその通りです。日々の生活に追われ、王都へ思いを馳せることなどなく……。でもギルやミルリアが、王都に憧れを持っていることが、今回分かりました。遠い存在ではあっても、ずっと気になっていたんですね。でも我が家の懐事情を考え、王都へ行きたいと言い出せないでいた。王都へ行けても、一日滞在するのがやっとだと考えていることが、分かりました」
幼いギルとミルリアがそんな風に考えていると知り、レイノルドも切なそうな表情になる。
「私はギルとミルリアに、王都を見せたいと思いました。王都で経験を積み、知識を得て、さらに成長して欲しいと思ったのです」
「それはつまり……」
「はい。ギルとミルリアを連れ、王都へ行きます。セドニック卿の厚意に甘え、お世話になることを決意しました!」
お読みいただき、ありがとうございます。
領地を出て、王都へ。
第一章はこれにて完結です~
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