第十五話:一生かけて
レイノルドは私に、王都へ行くこと、さらに代筆業を始めることを、提案してくれた。
その代筆業は、相手の身分に合わせ、代筆する文字量によって、報酬を変動させることができるという。つまり上客を常連にすることができれば、かなりの収入が見込めるのだ。
「成功すれば、確かにすごいのかもしれません。ですがアルセン王国高等学院の学費、王都の高位貴族の令嬢を家庭教師に雇うお金、代筆業だけでまかなえるかというと……難しいと思います。それに私が王都へ向かったら、この領地は……」
「まずアルセン王国高等学院の学費は、特待生制度を使えばいいと思います。ギル令息は優秀なので、問題なく審査を通過できるでしょう。さらに卒業生からの推薦状が必要ですが、それならいくらでも推薦する者はいます。自分でもいいですし、団長も協力してくれるでしょう。アルセン聖騎士団の全員の推薦状を用意することだって、できます」
それは大袈裟な話であるが、アルセン聖騎士団のみんなが私達に感謝してくれていることは、よく分かっている。仲間であるレイノルドを助けたのだ。しかも助けられたレイノルドはその後、見事、マトリアークを討伐している。
もしレイノルドを助けていなければ、マトリアークが逃げ延びたかもしれないのだ。それを思えばレイノルドを助けた私に、感謝しても感謝しきれない……ということなのだろう。防御壁を作ってくれただけでも、それは明らかなことだった。
きっと本当に推薦状は、全員分集まる気がした。
「家庭教師については、騎士団の知り合いから紹介します。そしてこの費用は、自分が出すつもりです」
「えっ」
「王都滞在中の三人の衣食住、家庭教師の費用は、気にしないでください。恩人に対する御礼と思い、受け取っていただきたいです」
これには驚き「でも」と口を開こうとすると、制されてしまう。
「ウィリス嬢は、ご自身の行動の価値を、あまり分かっていらっしゃらないようです。自分にとってはこれでも足りないぐらい。一生かけ、恩返ししたいぐらいなのですが」
「え、それを言うなら私の命を、セドニック卿は助けてくれましたよね!? お互いの命を助け合った。フィフティー、フィフティーで、まさに貸し借りなしでは?」
「残念ながら、そうはなりません」
レイノルドにそう言われた私は「えええっ!」と思わず驚いてしまう。
どういうことかと尋ねると――。
「自分はアルセン聖騎士団の騎士です。アルセン聖騎士団の任務は、魔獣の討伐。自分が魔獣を倒したのは、任務を遂行したに過ぎません」
なんて屁理屈と思ってしまうが、でもレイノルドは間違ってはいない。
その通りと言えば、その通り。
「騎士団の騎士達が救った命は、とんでもない数になります。救った人々から御礼を受け取っていたら、大変なことになるでしょう。ゆえに感謝の気持ちだけで十分です。討伐の労力に対しては、国が給金を支払ってくれています。よってそこは気にする必要がありません」
ここまで畳み掛けられると反論の余地はない。
でも。
絶対に。
レイノルドの行動は、騎士団として当然のことをした――とは違うと思うのだ。
あの時レイノルドは、体調が万全ではなかったはず。
丸薬の効果は、まさに切れそうだったと思うのだ。
その体を押し、私を助けに来てくれたのだ、絶対に。
任務の遂行なんて、その時は考えていないと思う。
恩人である私を助けたい一心で、あの場に来てくれたはずなのだ。
「演劇、オペラ、演奏会……王都には娯楽も多く、ギル令息やミルリア嬢の感性を磨くのに、役立つと思います。それにお二人は社交界デビューがこれから。そのために入用になるでしょう。代筆業で得たお金は、そちらへ使うといいと思います」
ギルとミルリアが貴族として成長していくには、確かにお金は必要だった。
今までは切り詰めることで、なんとかやってきた。
でもレイノルドの提案してくれる代筆業を始めれば、切り詰めるのではなく、お金を得てまかなっていくことになる。これまで内部でやりくりしていたところを、外からのお金を得るのだ。絶対にこの方法の方が、貯金もできるし、余力ができる。
そして代筆業は、王都だからこそ成立する職業だった。こんな村で、手紙の代筆業を頼む貴族なんていない。それを踏まえると、王都へ行くことは、意味があることだった。ギルとミルリアの教育のためもそうだが、お金を稼ぐためにも。
「この村の領地経営は、王都にいても行うことが可能です。執事のハドソンは優秀なので、領主の補佐官にするといいでしょう。執事は別で雇えばいいですし、自分が紹介することもできます。現地は補佐官であるハドソンに任せる。必要な書類仕事は、王都でウィリス嬢が行うのです」
これには「なるほど!」だった。
確かにハドソンなら補佐官として十分務まると思う。
「これは自分がそうしている方法でもあり、団長でもそうするでしょう。団長は公爵家の嫡男であり、まだ家督は継いでいませんが、引き継いだらそうなるかと」
つまり魔獣討伐で遠征している間は、補佐官を中心に領地経営を任せる。その一方で書類仕事は可能な限り、遠征地でこなすということだ。
「王都へ行くにあたり、不安は解消されましたか?」














