第十三話:走馬灯?
「エレナ。父さんや母さんの分も頑張ってくれて、ありがとう」
「本当に。三人もの子供を遺し、この世を去ることになり、どれだけ心配だったか」
「父さんと母さんの分も、エレナは長生きをするんだ。今はまだ早い。帰りなさい。ギルもミルリアも、お前のことを待っている」
久しぶりに会った父親と母親は、全身が輝いているようだった。
遺体安置所で再会した時。
ギルとミルリアには、その姿をとても見せることはできなかった。
棺に入れる時も、葬儀屋は難儀していた。
元気な姿で再会できて嬉しいのに。
帰りなさい――だなんて。
!
両親の姿が遠のいた次の瞬間。
目を開けていられない程の眩しい光に、目をぎゅっと閉じる。
続いて聞こえるけたたましい騒音。
ドンという激しい振動と激痛。
見下ろすと、降る雨の中。
明かりにに照らされ、道に横たわる女性の姿が見える。
その女性を私は……知っていた。
私は……アラサー未婚女子で、IT関連の会社で秘書をしていたのだ。
仕事を終え、家路に着いていたはずだなのだけど……。
どうやら事故に遭ったようだ。
そして転生していた。
魔獣がいて、魔術師もいるような前世とは全く違う世界に。
そう、そうだ。
私、異世界転生していたんだ……!
というかなぜ前世の記憶を今さら見ているの?
いや、その前に。
転生した世界の亡くなったはずの両親に会うことが出来た。
これって――。
そこで思い出す。
執事のハドソンと話していて、突然、眩暈がしたことを。
体が揺れ、意識が遠のいて……。
ああ、そうだった。
そうだったのね。
魔獣に襲われた時。
私、毒牙に噛まれていたのね。
いろいろな痛みに襲われていた。
でも火事場の馬鹿力と、ギルとミルリアを遺し、逝けないと思うことで、すべてを克服をしていたのだ。
だがそれも限界が来た。
つまり毒により私は――。
走馬灯のようなものを見ていたのかしら?
そこで感じた。
温もりを。
それは物理的な温かさだけではない。
心に元気をくれる温もりだった。
温もりを感じると共に、声が聞こえた。
「姉様」「お姉様」
「「エレナお嬢様」」
「「「領主様!」」」
みんなが私を呼んでいる。
みんなが私を必要としてくれていると感じた。
「ウィリス嬢。まだ恩返しができていません。戻って来てください。お願いします」
声しか聞こえないはずなのに。
目の前に美しく碧い光が見え、私を導くように動き出す。
私は白亜の階段を一歩、また一歩と降りて行く。
周囲は空なのか、海なのか。
白い靄は雲なのか、波の泡なのか。
碧い光と共に、階段を下り続けると――。
ついにさらさらとした白い砂の大地に辿り着く。
ハッとして振り返ると、遥か頭上、階段のてっぺんで両親が笑顔で手を振っている。
そして顔を元に戻した瞬間。
「姉様」「お姉様」
「「エレナお嬢様」」
「「「領主様!」」」
「ウィリス嬢!」
ギル、ミルリア、マチルダ、ハドソン。
沢山の領民。
そしてレイノルドの姿が、眩しい光と共に、目に飛び込んでくる。
「姉様が目覚めた!」
「領主様が目覚めたぞ!」
◇
あれは夢だったのか。
夢……だったのだろう。
現実の出来事ではなかったはずだ、
でも私には、現実の出来事のように思えてならない。
だが現実で亡くなった両親に会うのは、無理な話。
よって夢……だったのだろう。
ともかく私は自分で気づいた通りで、魔獣に噛まれていた。
だが当の本人が気づいていないのだから、周囲の人々も気づかない。
健康で若い私は、毒の回りが遅かったようだ。
屋敷に着き、安堵したところで毒の影響を受け、倒れた。
ハドソンに支えられ、私はすぐにベッドへ運ばれたが……。
最初はなんで急に倒れたのか、分からなかったという。だがマチルダが寝間着を私に着せようとして、背中の肌に、どす黒くなっている場所があることに気付いた。よく見ると、それは毒が回った血がついていたのだ。
すぐにハドソンがあの丸薬を飲ませてくれたが……。
私は三日三晩眠り続けた。
もうその間、ギルとミルリアは、涙が枯れる程、泣いていたという。
さらにその三日三晩の間に、責任を感じたレイノルドは、まさに驚異の力で回復。
その後、私の看病に当たってくれた。
そうしている間に、レイノルドの手紙は騎士団長に届き、アルセン聖騎士団は魔獣討伐作戦を完遂。
発見できた冬眠中の魔獣は、すべて殲滅された。
その上で、なんと我が領地へ騎士団はやって来て、村に魔獣対策を施してくれたのだ。
村と森との境目に、尖った木の杭を並べ、防御壁を作り上げる。さらに雨避けをした上で、魔獣除けの銀の装飾も行ってくれた。この木の杭があるだけで、魔獣以外の害獣の侵入も防ぐことができる。実にありがたい対応だった。
それだけではない。
村の男性たちに、武器の扱いを伝授してくれた。
それは実に実践的。
つまり剣や槍ではなく、斧や鍬でどう戦うかを教えてくれたのだ。
これもすべてレイノルドを助けたことへの御礼というのだから……。
傷ついた騎士を助ける。その当たり前をしただけで、ここまでしてもらえるなんて。
「これだけでは足りないと思っています。団長から国王陛下に、この村へ騎士の屯所を作るよう、進言してもらっています。マトリアークの討伐は、この村で行われたことにしたので、国王陛下の許可もすぐ下りるでしょう。騎士の屯所ができれば、飲食店ができ、武器屋もできます。ちょっとした娯楽となる劇場などもできるはず。村はそのうち町へと発展するはずです」
レイノルドにそう言われた私は、歓喜しそうだった。
ギルに爵位を譲る頃にはこの村は、町へと昇格している可能性が高い。
そうなれば今よりはもう少し、生活も楽になるはず。
もう十分すぎる程感動する私に、レイノルドはさらなる提案をした。


















