第七話:あらぬ噂が!
「まあ、王都で話題のセドニック副団長とウィリス伯爵令嬢ではないですか。二人で『アルストロメリア』を観覧ですか? 仲がよろしいこと」
「本当に。こう見ると、とてもお似合いのお二人ですわ。ウィリス伯爵令嬢は王都にタウンハウスがないので、セドニック副団長のお屋敷に間借りされているとか。とても仲がいいのですね」
レイノルドと私を見つけたマダム達はそう言って扇子を口元にもってくると、優雅に微笑んだ。
◇
てっきり、意中の令嬢を誘うのかと思ったら。
王都で話題のオペラのチケットを2枚入手したレイノルドは、私との観劇を提案した。
これには最初戸惑い、即答出来ない。
するとレイノルドは……。
「あ、その、本当は、ミルリア嬢やギル令息の分も用意した方がいいと思ったのです。でもジーク団長は『流石にこれが限界だ。とても人気の作品で、団長の名を出してもここまでだ』と言われました」
「たまたま譲ってもらったのではなく、手配をお願いしたのですか?」
「ち、違います! 用事が出来たジーク団長は、自身が行けないからと譲ってくださりました。でも2枚ですと、ミルリア嬢とギル令息の分がないので、さらに追加で用意できないかと聞いたところ、無理だと言われ……」
いつぞやかのように、レイノルドが慌てているので、「なるほど」と応じ、落ち着いてもらうことにした。
「そもそもオペラを子供は観劇しません。上演時間も長いと5時間なんて作品もあるのです。よほど特殊な事情がない限り、子供は連れていきません。ギルは間もなく社交界デビューですが、オペラに強い関心がある……というわけではないので、無理に手配して行くまでもないと思います」
私のこの説明にレイノルドはホッとした表情になる。
「ゆえにミルリアとギルのことは気にしないでいいです。気にして欲しいのは、とても価値あるオペラのチケットなんです。私を誘うのではなく」
「ウィリス嬢と観劇したいんです!」
これまでの慌てた様子から一転。
とても強い意志を感じる。
「なぜ私なんですか……?」
「それは……せっかくのオペラです。しかもジーク団長でさえ、手に入れるのが難しいようなチケット。ならばお世話になっているウィリス嬢と観たいと思いました」
そこは意中の令嬢と観たい、にはならないのかしら?
「……ダメですか?」
「!?」
上目遣いでこちらを見るレイノルドの碧い瞳がウルウルしている。
これまたいつぞやかの、自己肯定感がただ落ちになってしまう案件では!?
自分ごときがウィリス嬢を誘うなんて……と、悲壮になってしまう件!
そこで私は慌てて口を開く。
「ダメではないです! 私も気になっていたオペラなんです! 一緒に行きましょう!」
この流れで私はレイノルドとオペラ観劇をすることが決定。
ミルリアとギルに報告すると……。
「オペラ? ミルリアはまだオペラは分からないです。だからお留守番しています!」
「興味がないわけではないけど、その『アルストロメリア』よりも、僕はむしろ『悪魔との契約』とか『ジゴロ』を観たいかな」
ミルリアは留守番でいいと宣言し、ギルは有名な古典オペラの演目を口にした。
こうしてレイノルドと二人で『アルストロメリア』を観劇することになり、オペラハウスへ向かうことになったのだ。
少し早めに到着し、会場へ入ると……。
場内は着飾った貴族達で溢れかえっている。
間もなく5月になるこの季節は、晴天に恵まれ、日中は気温もぐんぐん上昇した。ゆえに皆、既に薄手のシルクやモスリン素材のエンパイアドレスを着ている。
私も銀糸による刺繍があしらわれた淡い水色のエンパイアドレスに、白のロンググローブ、パールの宝飾品を身につけ、この場に到着。
一方の私をエスコートするレイノルドは、儀礼用の軍服を着ているが、それはまさに私の着ているドレスとペアコーデのような色合い。ただ、宝飾品はゴールドで、より華やかだった。
そんなレイノルドと私を見つけたマダム達は、口々に二人の仲を探るような言葉を口にするのだ。
レイノルドは意中の令嬢がいる。
私と噂になっている場合ではない。
「セドニック副団長。やはりオペラの観劇は私としている場合ではないと思います。あらぬ噂が立ってしまい、セドニック副団長が誤解されてしまうかと!」
「誤解……。むしろ誤解いただいて構わないのですが」
「!? それは……」
私を隠れ蓑にしたいのかしら?
レイノルドは自由な婚姻を許されている。
もしかすると意中の令嬢は平民……なのかもしれない。
遠征先の村で知り合った農夫の娘とか。実は王都のパン屋の娘、なんてことも考えられるかもしれない。
いずれにせよ。
そう言った女性と愛を育む間、彼女が誹謗中傷されないよう、私と交際していると誤解されたいのかしら……?
そんな風にまさに考えていると。
ダークブロンドに見事な縦ロール。
珍しい黒のエンパイアドレスに深紅の薔薇飾り。
ゴールドの装飾品は、シャンデリアの明かりを受け、煌めている。
圧倒的なオーラを放つのは、宰相の娘レイ・ローザ・サイレンジン。
サイレンジン公爵令嬢!
オペラは長い……15時間以上の上演時間があり、分割上演が当たり前の作品があります。
それは全4部作の『ニーベルングの指環』です!
分割上演しても、一つの作品が5時間以上(@@)














