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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【その後の物語】

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第六話:急にどうしたの……?

 ウォーレンと入れ替わるようにギルが学校から帰宅した。


「お帰り、ギル。夕食まで時間があるから、揚げパン食べる?」


「姉様、ありがとう。でも宿題があるからいい。食べたら眠たくなりそうだし」


 ギルはエントランスホールを横切り、そのまま二階へ続く階段へと向かう。


「……そう。学校、大変そうね」


 心配して尋ねると、ギルは笑顔になる。


「大変は大変だよ。でも楽しい。それに教師はみんな、博学なんだ。質問したら必ず答えをくれる。教科書にないような話をしても、『それが気になるなら、この本を読むといい』って、参考文献も紹介してくれるんだ。クラスメイトもみんな頭脳明晰で、会話していて飽きないよ」


 そして階段に足をかけていたが、私の所へ来ると……。


 聡明さを宿した碧い瞳で私を見上げた。


「姉様、本当に王都へ連れて来てくれてありがとう。父様(とうさま)母様(かあさま)が亡くなってから。姉様は僕とミルリアのことを、いつも一番に考えてくれたよね。お金もなかったから、自分のことは後回しで……」


 そこでギルが私の手をとる。


 ミルリアとはいまだ手をつなぐことがあった。

 だがギルはこの春から、高等学院へ入学したのだ。

 もう少年というより、青年に近づきつつあるギルとこんな風に手を取り合うのは……随分と久しぶりだった。そしてすっかり大きくなったギルの手に、思わず驚いてしまう。


「姉様の手、ようやく赤ぎれとひび割れが落ち着いたよね。ドレスもさ、ちゃんと王都の貴族らしくなった。これ、全部、セドニック様のおかげだよね。……セドニック様、最初行き倒れみたいに領地の屋敷の敷地で発見されたし、大丈夫かな……って思ったけれど。とても強いし、真面目だし、誠実だよね」


 そう言ってギルがはにかむように笑う。


「姉様のことは僕が幸せにするんだ……って思ったいたけど。僕じゃなくても姉様を幸せにできる人がいるんだ。だったら姉様は、その人に幸せにしてもらえばいいんじゃないかって、思えるようになった」


「ギル、急にどうしたの……?」


「だから……。僕もミルリアも。まだ姉様からしたら、子供にしか見えないかもしれない。でもさ、そばにはメイドや従者や侍女もいるし、ヘッドバトラーのジョルジュさんや沢山の使用人もいる。もう大丈夫だから」


 これには「ギル……?」と首を傾げてしまう。


「つまり姉様は、僕とミルリアのことばっかり考える必要はなくなった、ってこと。そろそろ親離れしなよ、姉様。それでさ、自分の幸せのことも考えて。姉様が鈍感過ぎて、見ていて歯がゆいよ。二人とも奥手なんだか知らないけど。たまには二人きりで、デートでもすればいいのに」


「!? ギル、一体、何の話なの!? デート? 私がデートする相手なんて」


「ほらね。姉様がこの調子だから。……大変ですよね、セドニック様!」


 ギルの目線が私の後ろに向かっているのを見て、驚いて振り返る。


 するとそこには顔を赤くしたレイノルドがいた。


「セドニック副団長! お帰りなさいませ。……いつの間にこちらへ?」


「あ、その。一刻も早く帰宅したいと思い、ティルムンクの力を使い、馬車ではなく、自力で帰宅しました」


 これには「あ、なるほど」だった。


 聖剣に宿る剣の精であるティルムンクと正式な誓約を交わしたレイノルドは、その身体能力が劇的に上がった。なんというか、忍者みたいに屋根伝いに猛スピードで移動する……みたいなこともできてしまうのだ。


 馬車で移動するより、自身の脚で走った方が速いという事態。


 そして本日はその方法で帰宅したようだ。

 それにしても。

 一刻も早く帰宅したいと思った。


 何かあったのかしら?


 チラッと振り返ると、もうギルの姿はない。


「セドニック副団長。急いで帰宅されたようですが、何か問題でも?」


「い、いえ。問題では。……その、ジーク団長がこれをくれたのです……」


 上衣の内ポケットから取り出したのは……。


「あ、これは! この春から公演が始まったオペラ『アルストロメリア』でのチケットですよね!? 入手困難と言われているのに。なぜこれをジーク団長は……」


 そこで気が付く。


 レイノルドには想い人がいる。

 その令嬢と観に行くといいと、気を利かせたジーク団長がプレゼントしたのでは!?


「……このオペラを観たい令嬢は沢山いると思います。良かったですね。手に入って」


「ウィリス嬢はどうなんですか? このオペラには興味がありますか!?」


 本当に王都で人気のオペラか、確認したいのかしら?


 でもそれなら私に尋ねるまでもないのに。

 チケットは一日で完売となり、追加公演も決まったけれど、それも即ソールドアウトで新聞記事にもなっていた。


 とはいえ前世で口コミは重宝されていた。


 レイノルドも身近にいる私の感想を参考にしたいのかしら?


 そこでしばし思案して、言葉を紡ぐ。


「ええ。興味があります。『アルストロメリア』の作曲家であるデュポンは、新進気鋭として今、一番人気がありますよね。主演の歌姫シャルロッテにも注目が集まっています。豪華な衣装や舞台演出も話題になっていますし」


 これを聞いたレイノルドは安堵の表情になる。

 そして私に尋ねた。

 そのプラチナブロンドをサラサラと揺らし、頬をうっすらピンク色に染め、碧眼の瞳を恥ずかしそうに伏せながら。「よかったら一緒に観劇しませんか」と。

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