先生として
襲ってきたのは四人、いや四体というべきか。
残り三体のデミデーモンはノルドラを守るかのような位置取り。
「グォオォォオッ!」
「っとぉ」
「ギギッ!」
「あぶねっ」
自信満々にどやぁと言ってきただけあって、かなり魔人に近いと言っていい。
あの洞窟にいたプリズナーと同じように理性は感じられないが、それでも使役者の言うことを聞いている。
「クハハハハッ! 流石の剣聖サマもこれには手も足もでまいっ!!」
「……うるせぇなぁ」
両腕の先に展開されている魔法陣を見れば、右手が操作で、左手が魔人化を維持するための魔法をコントロールしているようだ。
同時並行魔法とはやるじゃないかと思わなくもないが、砦へ仕込んでいる魔法陣を発動しているだけだし、そう考えればなんとも面白くない。
「ガァッ!」
「っ!? うーん、バカ力なことで」
ストレージから引っ張り出したショートソードで相手の拳を反らしたつもりなんだけどなぁ。
流しに使っただけで砕きますか、こりゃ完全回避するしかない。
「ギギギギィ!」
「んでこの連携だよったく!!」
大きく飛びのいて距離を開ける。
流石に元兵士、いや動きを見るに騎士だったのだろうか。
ノルドラがこう操っているとは考えられないし、戦闘行動に関してはこうなる前の経験が基になっているんだろう。
「ククッ! どうした剣聖サマ? 断っておくが泣いて謝ったとてもう遅いぞ? 貴様はここで死ぬのだ」
勝ち誇ったような笑みだ。
こう、如何にも私がやってますみたいな風に言ってるけど、ぶっちゃけ魔人化させただけじゃねぇか。
魔法で上回ってやったぜオーラを出されると、ほんとにむかつくんだよなぁ……。
「もう遅い、ね」
「そうだ! もう遅い! 思いあがったツケ! ここで命をもって支払え!」
アルル様に言われたもう遅いに比べると、何とも微妙な気持ちにさせてくれる。
あーあー、俺がお城勤めじゃなかったらなぁ。
「瞬殺、なんだけどなぁ」
「ぬ?」
――ご主人様、ヤりますか? いつでも準備万端ですよ!
ちらりと漏れてしまった殺気に反応する一人と一匹。悪かったからちょっと落ち着いてほしい。
「ノルドラ」
「命乞いでもするか? 姫をここに連れてくるのなら考えてやらんでも――」
「後で覚えてろ」
もちろん、殺さない。それは俺の役目じゃないのだ。
アーノイドさんとも約束したし、なんなら近衛の人達へと偉そうに言った俺だ。
「クハッ! 負け惜しみとはなっ! 器が知れるぞ剣聖っ!! もういい! 殺せっ!!」
「ギュオオオオオッ!」
ちゃんと、やるさ。
「――完全解析」
たとえば死という概念。
「ギィッ!」
「ガガァッ!」
人を含めた生物の死こそ人間は理解できるが、無機物における死というものを人間は理解できない。
草木は枯れてしまえば死なのだろうか、石や鉄は? ガラスなら?
「――あぁ、頭が痛い」
「ギュエッ!?」
そんな理解しえないものでさえも理解できるようになる魔法、それがディープアナライズ。
デミデーモンたちの攻撃を躱しながら、完全解析を進めていく。
解析の深度が深まるたびに痛みを増していく頭痛。
「ノルドラ、確かにこの魔法は見事だ。フリューグスの遺産魔法か? それともお前のオリジナルか? 何にせよ、俺の知らない魔法で理解の及ばないモノだ」
そう、今の俺にはこいつらをどうすれば元通りにできるのかがわからない。
ただ、事前に砦の魔法陣構成は見ることができたし、用いられていたダストコープスの成分調査もあの洞窟で終わっている。
故に。
必要なことを知った俺なら、元通りにできる。
「何、を?」
「あぁ、なるほどな。変化にドラップスの法則を使っているのか、ならこうなるのもわかる。操作に関しては……へぇ? 魔力を振動させて疑似的な音に変えているのか興味深いな」
「っ!?」
解析は、進む。
頭が、痛い。
人類史の先か、昔か。
調べればわかることだろうが、生憎とここは戦いの場で、本やらなにやらは置いていない。
「前陛下の時みたく、リングを使ってないのは……元に戻すためか。王都のやつらもそういやそうか、ある程度人間を維持しておけば、任意で魔人化できるようになるもんな。うん、よくできている魔法だ」
「ま、て……貴様は、何を言っている。何を、見ている」
けど教材はある。
目の前で俺を殺そうとする、活きのいい教本だ。
理解できない俺でも、完全解析を使えば、理解できる。
――ご主人様! 無茶です! わたしが、わたしが今からでも!
「魔力残量考えろっての。お前の出番はまだ後だ」
普段解析はテレシアに任せているのは人間が一度に扱える情報量を超えるため。
久しぶりに、自分でやる完全解析だけに、中々堪える。
「んで? 王都じゃ魔人化できずただのプリズナーだったのは……言うまでもなく砦に仕込んでる魔法陣か。よくできている魔法だが、完成したという割には片手落ちだな」
「っ!! デミデーモン! ヤツを殺せ!! 早くっ!!」
「ガギィッ!!」
あらら、守衛につかせていたヤツまで来ちゃったよ。
けど、ちょおっと遅かったな。
「ガァッ!!」
「――オーケー、理解した」
振り下ろされた腕へと無詠唱の風魔法をぶつけて、自分も大きく後ろに飛ぶ。
「何をしている!! 早く! 早くヤツを――」
「もう遅い」
あぁ、自分で言ってみると結構気持ちいいな、このセリフ。
「篤と御覧じろ、邪法無効化」




