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作戦開始

 一言で言えばまぁ自殺志願者が考案したのかと疑うような作戦だった。


「ベルガ殿」


「アーノイドさん? こっちに来られたってことは、一応予定通りですか」


「あぁ。しかし……」


 俺と同じ所感を持っているのだろう、アーノイドさんの表情は険しい。


 アルル様とカタリナ、トリアを含めた僅かな近衛を伴って少数慰安行軍。

 一言でいうなら自分をエサにして事態を運ぼうとする作戦と言えるだろう。


「同意したい気持ちでいっぱいではありますが、これ以上に釣りとして有効な作戦もないのは確かです」


「わかっている。自分としてはベルガ殿に止めてもらいたかったが……あぁも覚悟の決まった目をされてしまってはな」


 慰安を安全に行うためにという名目で前線を押し上げる必要があった。

 言うは易く行うは難しというものだが、お膳立てのおかげで形だけで見ればうまくいっていた。


 前線の指揮を元将軍ガイに一任させたわけだ、つまりフリューグス軍と呼応しやすくなるし、司令部にノルドラを置いたままにして、まさに前門の虎後門の狼といった状態になった。


 上手くいっているからこそ、相手の目論見に乗っていると確信を深めることが出来てしまい、アーノイドさんは表情を歪めてはいるが。


「慰安自体は上手くいっていると言える。元より前線で戦っている兵たちは、司令部に詰めている者たちに比べて圧倒的に士気が高く愛国心の深い者たちのほうが多いのだ。そこに国の王と姫が現れたのだ、感涙するものすらいた」


「俺にはいまいちわからない気持ちではありますが……やはりアーノイドさんもあの砦にいる奴らのことを?」


「文字通り言葉がないよ。視察の時からそう思っていたが、アルル様が切除という言葉を使った理由がよくわかった。あれはもう、だめだ」


 前線にダストコープスだと言った薬が蔓延するだけならわかる。

 死と隣り合わせでいて精神を維持できる人間なんてそうそういないわけで。

 向精神薬だなんだは支給されるものの中にもあるのだ、危険薬物を管理の下持っていてもおかしくない。


「後方を腐らせたのは、やっぱりガイとノルドラでしょうね」


「ガイはあれで武人と言える男だ、ノルドラが主導だろうな。知ってか知らずかはわからないが、見逃している以上同罪だが」


 静かな怒りを感じる。

 こりゃ相当どころじゃなくキレてるね、アーノイドさんってば。


 前線よりも後方、ノルドラやガイが基本的に詰めていた場所が腐っていたのだ。

 これはもう背信、裏切りは確定的と捉えてあたりまえ。


「ベルガ殿」


「はい」


 だからだろう、こうして団長から将軍に変わったと思えるような顔をして。


「ここからだ。ここから踏み出す一歩こそが、強き国への第一歩となる。自分はまだまだ未熟だし、ベルガ殿に愛国心を元に説くつもりはない……だから、信頼でき、尊敬すべき強者であるベルガ殿に、願いたい」


「伺いましょう」


「陛下と、姫を頼む」


「お任せあれ」


 頭をしっかりと下げてきたアーノイドさんへと即答すれば、意外に思われたのかきょとんとした顔をされて。


「これでも友人の頼みには応えられる男でありたいと思ってるんですよ。相手が尊敬できて信頼できる人なら、尚更にね」


「……ふ。あぁ、ありがとう、友よ」


 拳をぶつけ合って、約束を交わす。


 さぁ、そろそろ相手の仕掛け時だ、準備をしよう。




「これはこれは剣聖様。姫様の下にいないでよかったので?」


「絶対的に安全とは言えない状況で会うからこそ慰安の効果も高まるというものでしょう」


 そろそろだと準備を終えて出発したアーノイドさんを司令部から見送って。

 姿が見えなくなった頃に、ニヤニヤと鬱陶しい笑みを浮かべたノルドラの声が後ろから。


「それよりもノルドラ殿? 出陣の命はなかったはずですが……兵など連れて如何なされましたか」


「ク、クク。なぁに、やはり陛下の身が心配でね。国を愛する者としては参じなければなるまい」


 よく言うよ。

 いやほんとによく言う。


 こっちが盗聴に気づかないなんて都合のいい浅い考えをしたわけじゃないだろう。

 腐りきったとしても前陛下が宰相と認めた男だ。愚物なんて言えるわけもない。


「国を愛すると言うのなら、陛下の命に従いここで迎える準備を進めるべきでは?」


「あぁ、迎えるさ、迎えるとも。迎えに行くのだとも」


 なるほどね。

 どこまでもメルとアルル様の見立て通りということで。


「攫うの間違いでしょうに」


「クハッ! だろうな! それくらい予見できなければ張り合いがないというものだ!!」


 アルル様かカタリナ。あるいはその両方か。


 フリューグスで相応の立場につくための条件とされているのだろう。

 連れて行ってどうされるのかは生憎と下卑た考えしか思い浮かばないが、勿体ないという気持ちはわかる。


「ならば行き先違いというもの」


「ほう!」


「ノルドラ、お前はフリューグスへも姫様の下へも辿り着けない。俺がここで、地獄へ強制連行してやる」


「よく言った!! クハハハハハッ!!」


 両手を広げて、演技がかった振る舞いと共にノルドラの両手から魔法陣が浮かび上がる。


 一つは魔法行使、もう一つは砦に仕込まれていた魔法陣の効果発動。


「グ、ググ……グガァアアアッ!」


「これは予見できまい!! 私が長年研究し! フリューグスの助力を得て完成させた! 魔人への進化!! 前陛下にしたような失敗ではないぞ!! クハハハハハーーー!!」


 連れていた兵たちが苦しみながらその様相を変えていく。


 背中から蝙蝠様の翼が生えた、腕と脚の先には鋭いかぎ爪へと変形した。


 あぁ、確かに魔人と言えなくもない。


「はぁ……」


「なっ、なんだそのバカにしたようなため息は!!」


「バカにもしてるし呆れてもいる」


「なにっ!?」


 こんなので、俺をどうにかできると思っているのならバカだ。

 そしてどうにかできると思われてしまった自分に呆れている。


「まぁいい。性能実験はしたのか? してないなら付き合ってやるからかかってこい」


「っ!? こ、のっ!! 行けっ! 創造されし魔人(デミ・デーモン)!! やつを八つ裂きにしろっ!!」

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