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守りたい、護りたい、衞りたい

 ぞわり、と。

 身体の産毛が逆立った。


「し、しょう……?」


「ったく、街中警備の連中は何してやがんだ……? まずいな」


 特別感覚が鋭いなんて思わない。

 それでも、否応なしに、わかってしまう。


「怒って、ます?」


「……あぁ、そうだな、怒ってる。怖がらせたか? すまん」


 そう言って師匠は一つ深呼吸をして、いわくところの怒りを一旦抑えつけた。


「たす、たすけてっ! 誰か、おかあさんっ! 怖い、怖いよぉおおっ!」


「シュシュッ! あぁっ! い、今、お母さんがっ――!」


「待った。ここは俺に任せて下さい」


「け、剣聖様っ!? あぁ……あぁっ。お、お願いします! シュシュをっ! シュシュをどうかっ!」


 飛び出そうとしたお母さんらしき人の肩に手をやって、師匠は安心させるような笑みを浮かべる。


 良かった、いつもの師匠だ。

 それどころか、いつもよりもずっと優しげで……必ず助けてくれるって思える雰囲気で。


「トリア」


「はっ、はいっ!」


「偉そうに助けるって言ったは良いけど、ちょっとまずい。トリアとのパスはすぐに解除できねぇんだ。俺がアイツの注意をひきつけるから、隙を見てあの子を頼む」


「えっ!? す、隙を見てって……」


「だいぶ俺の魔力を使って練習しただろう? 無理やりすぐに解除してしまえば、反動が出る。ぶっちゃけ、消費量考えると一ヶ月は寝たきり生活になるぞ? ……大丈夫、お前ならやれる」


 そんなこと言われても!

 この状況から、どうしろって言うんですか!?


「痛いっ! 痛いようぅっ! たすけて! たすけてぇ!」


「うううるるるせぇええなああっ!? ころすぞぞ? あえ? ころす? あぁどっちにしろころすぅう! ひゃあああははははっ!」


「おいおい、ヤク中のロリコンなんて救えねぇなぁ?」


「あぁああっ!? だれ、だれれれ!? あっ!? おま、おまままえええ!?」


 ――忘れんな、トリアの根源には守りたいって願いがある。俺みたいなゴリ押しやろうじゃねぇ。


 パスを通して、師匠の声が聞こえた。


 ……守りたいという、願い。


「ケケケ! けけ! けんせえええええ!」


「おーおーあんたみたいなのにも名前が通ってるなんてなぁ、有名人は辛いねぇ……そうとも。剣聖、ベルガ・シャル・トリスタッドだ。ご指名ありがとうございます、接待してやるからその子を離せ」


「うううるるるうせぇええっ!? お、おれ、おででおれにさしずすんなあぁっ!?」


「いたいいたいたい!!」


 男がシュシュちゃんの細腕を握りしめた。

 みしりという音がここまで聞こえてきそうだ、なんて、酷い。


「そりゃあ悪かったな。だが、明らかに自分より弱いやつを潰そうとするなんざ男らしくねぇぞ?」


「ああぁぁああっ!?」


「だから出てきてやったんだ。何が不満でそうなったのなんかわかんねぇけど、鬱憤が溜まってんだろ? 俺にぶつけろよ、その子じゃなくてさ」


「ふひっ! そそ、そう言ってエエエ!? 離したらぼこすんだろおおお!? てめぇけんせええだもんなぁあ!?」


 魔法が使えたら。

 師匠はきっとこんな状況すぐにでも解決する。

 パスがつながっているから、師匠が魔法を使えばボクの魔力を消費しちゃうから。


 ……ボクに魔法の才能が、ないから。


「ははっ、よぉくわかってんじゃねぇか。そうだぜ? その子を離した瞬間お前はそりゃあもうボコボコだ。俺は剣聖だからな、お前なんざ小指だよ小指」


「てえええめえええっ!」


「落ち着けよ。そう、小指だ、その子を離せばな。だったら、その子を掴んだままなら、俺をボコボコにできるってことだぞ?」


「あ、あ、あぁあぁっ?」


 あぁ、ムカムカする。

 どうしてボクはこうなんだ。


 ちゃんとすぐに魔法を使えるようになっていたら、もっともっと強かったら。


「わかんねぇやつだな? 抵抗しないでやるから、サンドバックにしていいぞって言ってんだ。ほら」


「――ふひゅっ、ふひひ、ぶひゅひひひひっ! おまああええ! あたまおかしいいんああぁあ?」


「今のお前に言われたくねぇよ」


「うるせえぇえええっ!!」


「っぐ、ぅ」


 こんな風に、師匠が殴られなくて済んでいたのに。

 皆の悲鳴なんて聞かなくてよかったのに。


「あひゃ? ひゃはははあはあ!! ばかだ! ばかばかばかあああああっ!!」


「ぐっ、あがっ、ぶっ――」


「いやああっ! やめてやめてよぅっ! いやいやいやぁあああっ!!」


 ボクが、弱いから。

 ボクに、力がないから。


「へ、へへ……いい拳してんじゃねぇか? けど、全然なっちゃねぇなぁ?」


「つよがりつよがりつよつよつよよよよよっ!!」


「がはっ!?」


 ……強く、なりたい。


 あぁ、そうだ、ボクは強くなりたいんだ。

 強くなればできることが増えると思っていた。だから強くなりたいんだと思っていた。


 でも、それは違う。


「っ……よぉし、トリア、そうだ、それでいいんだ……」


「なぁにににいいいっってるうんんだああ!? ひゃあっはははっ!!」


「っぐぅっ!?」


 守りたい。


 守るために強くなりたい。

 誰かを痛みから、悲しみから、包んで覆って守りたいから、ボクは。


「いいかげえええん!! しねぇええええっ!?」


「っつ、あぁっ! とりあああああっ!!」


「――聖護布(ホーリー・ヴェイル)!!」


「あ、が……?」


 師匠が、男の手を捌いた。


「へぁっ!? わ、わわわわっ!?」


 泳いだ男の姿勢、シュシュちゃんを握っている手から反射的に力が抜けた。


 そのシュシュちゃんへ、ボクの魔法を巻きつけて。


「大丈夫っ!?」


「へ、あ、えっ?」


「師匠! こっちは大丈夫です! 後はお願いします!!」


「……さっすが俺の弟子、鼻が高いよ」


 引き寄せる。


 驚いた顔のままだけど、もう、大丈夫。


「さぁ、て……覚えてるか? あの子が居なきゃ……どうなるって、言ったっけ?」


「あ、が……あば、あばばがばが?」


「そうさ御名答」


 はい、師匠。


 思いっきりどうぞ、ボクが、皆を護りますから!


「安心しろ。小指じゃ流石に殺せねぇから」

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