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二人は犠牲になったのだ……

 アルル様のお言葉に甘えて。

 リアにまるっと譲った我が家というには生活歴が浅すぎる屋敷へと戻ってきた。


「えぇと、一応渡してくれた基礎魔法構文? には目を通したよ」


「ん、何かわかりにくい部分はあったか?」


「むしろわかりやすくて助かったよ。あたいが本なんて読む日がくるとはねぇ……あれって、著者は誰なんだい?」


「俺だ」


「っ!? せんせが書いたの!? あ、あたしも読むっ!!」


「師匠はほんと何者なんですか……」


 着いてきたというか連れてきたというか。

 メルが飛び跳ねるように前のめりな反応をしたのとは対象的に、トリアは顔を引きつらせて一歩引いた。


「と言ってもほんとに基礎構文だからな、魔法をかじった人間なら誰でも書けるよ」


「師匠の誰でもは信用できないんですってば」


「どこっ!? ねぇリア!? その本どこっ!?」


「ひぇっ!? メメメ、メル様っ!? ちょ、ちょっとそのっ!?」


 来て早々に混沌とし始めてしまったな、主にメルのせいだから俺は知らん。


「じゃあリア、確かめるって意味で聞く。魔法構文ってのは?」


「えっ!? あ、あぁ。要するにイメージしやすい言葉で魔法をその通りの形に具現化するためのものってことだよね? 風を発生させるならウィンド、ブレス、エアだとかを口にして形状を指定するための言葉であり文章だ」


「よし、大丈夫そうだな」


 無詠唱以外の方法、つまり短縮詠唱や完全詠唱を口にするのは魔法の効果や形状を指定するため。

 風を刃状にして対象へと飛ばすのならエア・スラッシュの二句を俺は使うが、人によってはウィンド・スラッシュと口にする人もいるだろう。


 自分の頭にあるイメージをより想起しやすい言葉であればそれでいいのだ。


「はいはい、メルもその奪った本を置いてくれ。今から無属性魔法について話すぞ」


「うえへっ!? う、うんっ!」


 なんだよその悲鳴は。

 あっ、隠すなこっそりじゃなくても持って帰るつもりだろうやめなさい。


 まぁいいか、リアには同じの複製して渡しておこう。


「さて、無属性魔法とはそもそも何か。これは火、水、風、土という四属性以外の魔法全てを指す」


「治癒や身体能力向上魔法にもちろん付与魔法、この間使ったブラック・カーテンなんかの視界を奪う魔法もそうだよね?」


「その通りです。加えて、オリジナル……つまりは自分で編み出した魔法もここに分類されます。俺のテレシア顕現、起動も無属性魔法と言えるでしょう」


 抜剣に関しては召喚だから魔法ではない。

 契約に従って俺の喚びかけに対して応えているだけだ。


「じゃあ師匠、その。陛下を魔人化させたものも無属性魔法なんでしょうか?」


「あれは遺産魔法(ロストマジック)と言って門外不出として関係者以外には伝わらないようにされている魔法だったり、古代の儀式を魔法で再現しようとしたりして作られたものだな。遺産魔法で有名なのは時空魔法か」


「あ、だから参考になるような文献が無いんだね? せんせの使ってる時空魔法は再現しようとしたものってこと?」


「その通りです。古代で使われていた時空魔法は、現象の巻き戻しが発生しないとか。まさに無敵であり万能、死者蘇生として時空魔法に行き着いたのはある意味正しいと言えますね」


「う……な、なんか複雑」


 俺が使える時空魔法は、仮に時を止めている間に敵を倒しても魔法を解除してしまえば倒す前の状態に戻ってしまう。

 戦闘中にじっくり考えたい局面を迎えた時とかには有効だけど、それ以外にはなんとも。


「話が逸れました。本筋に戻りますが、今回は無属性の中でも付与魔法に関してのものです。これは人に対しても物に対しても同じですが。魔法構文を対象に直接書き込むことで効果を発揮します」


「直接書き込む? えぇと、ペンか何かでってことかい?」


「もちろんそれでも構わない、魔力を込めて書けば効果は発揮される。加工技術に秀でているリアならこの方法が一番いいだろう」


「あ、それでも良いんだね。だったら彫ってしまえばいいか」


 武器や防具、あるいは服に刺繍でも構わない。

 ただその形だと使用者が意識的に効果を発動する必要が出てくるけども。


「でも師匠? 人に直接書くって言うのは?」


「構文を紋様化して入れ墨で入れる人もいるな。たまに見かけたりするんじゃないか?」


「あ、はい。でもあれ、消えませんよね?」


「まぁな。あれは見たら何の効果を仕込んでいるかバレるってリスクとか、そのまま見た目の問題を犠牲にして、魔力を消費せずに任意で発動できるようにしているものだ」


 基本的に魔法は魔力を消費して、言い換えるのなら犠牲を支払い行使している。

 ただ、魔力を犠牲にしなくても別のものを捧げて魔法を発動することもできるって話。


「そこで魔力文字だよ! ねっ! せんせ!」


「急にテンション上げてきましたね? でもまぁその通り。一時的にと効果の時間は術者次第になるが、人に対しては魔力で文字を書いて貼り付ける。それが付与魔法だ」


 付与魔法は無属性魔法の中でも難易度が低い。

 その理由が魔力で文字を書けるようになればそれだけで使えるようになるからってもの。


「そんなわけで。今日はリアとトリアに魔法を使えるようになってもらいます」


「この間言っていた後天的に魔法が使えるようになる方法ってヤツですね? ついにボクも魔法が……!」


「な、なんだか緊張するねぇ……けど、うん、よろしくお願いするよ!」


 いい覚悟だ。

 これなら大丈夫だね。


「あ、あの? 師匠?」


「うん?」


「なんでそんないい笑顔してるんですか?」


 あ、流石トリア、いい勘してるね。


「ふふふ、えっとね? 魔法が使えない人って、自分の魔力を感じられないから魔法が使えないと思っている状態の人ってことなんだ」


「え、あ、はい。この間師匠にも教えてもらったことですよね?」


「そうそう。じゃあ、無理やりでも魔力を感じられるようになれば、魔法が使えるようになるってことなんだよ!」


「……あ、あの? 師匠?」


「なんかあたいも物凄く嫌な感じが……」


 なぁに大丈夫。死にはしないから。


「今から二人には、魔力切れしては回復してを経験してもらいます。繰り返している内に身体の中にある魔力を感じ取れるようになるよ」


「魔力切れっ!?」


「あ、あの一日二日は目を覚ませないようになるってやつ!?」


「大丈夫! あたしもいるから! ちゃんと魔力をわけてあげるから!」


「なお、感じ取れるようになるまでやるのでよろしく」


 あ、二人の顔が真っ白になった。


 うんうん、怖いねそうだね頑張ろうね。


「や、やっぱりボク――」


「あ、あたいも――」


「だめどす」



「「いいいいいぃぃやあああぁぁぁぁっ!?」」



 さ、それじゃあ頑張ってもらうか。


 流石にシェリナが帰ってくるまでにはなんとかなるでしょ。

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