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誰に対した無礼講

 大盛況という言葉が公開訓練の終わりに使っていいものなのかはわからないけども。


「いやぁ、覚悟していたことですけど僕の出番ほんと一瞬でしたよ」


「何言ってるんだよ。あの初手突貫は誰にでも出来ることじゃない、バフもらった上での動きといいあれがあったからこそ最初の有利があったんだよ」


「たはは……褒められて悪い気分じゃないですけど、ええ。もっと精進いたします」


 少なくとも成功ではあったらしい。


 城の中庭で行われている打ち上げ。

 参加しているのは騎士団と魔法兵団の人たちだ。


 陛下と姫様方も後で顔を出されるとかなんとからしいが、そう堅苦しいものにはしないと言っていた。


「それよりもですよ! 曲閃です! なんでベルガ殿が使えるのですか!」


「そりゃ練習したからに決まってるでしょうよ。あれはいいものだ……」


「ちょっと練習して使われたら困るんですよ! できるようになるまで僕三年かかりましたからね!? えぇいこの剣聖は!」


「まぁ飲め飲め」


「ちっくしょう! いただきますっ!」


 無礼講の席だからか、ビスタにしても他の騎士たちにしても気安く話しかけてくれてうれしかったりする。

 やっぱりこう、普段は教える側の立ち位置にいるからか固い雰囲気があったからね。


 他の席を見ればアーノイドさんとトリアが、なんだか落ち着いた雰囲気で話をしていたりする。

 トリアは気にしていないというか、むしろ感謝しているらしいが、アーノイドさんからすればトリアに対して罪悪感のようなものを未だに感じているらしく、これを機に解決してくれたらいいんだけど。


「それにしても」


「うん?」


「魔法兵団のヤツらですよ。挨拶にすら来やしない、何を考えているんだと」


 酒で若干据わり始めた目で魔法兵団がいる席をビスタは睨みつけた。


 割と騎士団の連中は礼儀作法がきっちりしている。

 魔法使い以上に呼吸を合わせる必要もあるし、そのために規律だなんだを重要視しなければならないといった意識は大切だから理解はするが。


「まぁまぁ。無礼講ならそういうことを気にしなくてもいいじゃないか」


「ベルガ殿がそう仰るなら……」


 俺としては必要な場面で礼儀を示せるならそれでいいと思ってるし、目くじらを立てるほどじゃない。

 何より宮廷作法を日々シェリナに教えてもらってはいるが、まだまだできていない俺が言うことでもないだろう。


 ただ、気になることがあるとすれば。


「あの場に参加していた魔法使いは五人だったよな? 一人はどうした?」


「あ、はい。魔力切れ(マナロスト)で寝込んでいるとのことです。防御壁展開で使い果たしてしまったらしいですね」


「そうか……悪いことしたな」


「いやいやっ! 魔法使いのくせにベルガ殿の魔法を防ぐだけで魔力切れなんて情けないというものです! まったくあいつらは――」


 おぉっと、悪い酒になってない? 大丈夫?


 ビスタはそういったが、違うだろう。

 何よりアーノイドとの一騎打ちが始まる時まで意識があったのは確認している。


 ……追跡(トレーサー)でも使っておくべきだったな。

 魔力切れ症状は誤魔化せない、魔力切れと診断されたのならそれは事実として揺るぎない。

 ならあの時別の魔法を行使した可能性が高く、その魔法によって魔力を切らしたと考えるべきだ。


「なんの魔法を使ったのやら」


「ベルガ殿?」


「いや、なんでもない。それよりあんまり飲みすぎるなよ? もうすぐ顔出し程度だろうが、陛下と姫様たちがいらっしゃるのだから」


「だったら盃に注がないでくださいよ!? 目上の人にそうされちゃ飲まなきゃならないでしょう!?」


 ほんと固い奴だな!? 




「――改めて此度の公開訓練、皆よくやってくれた。今宵は立場を気にせず楽しむがよい」


「はっ! ありがたき幸せ!」


 機嫌の良さが一目見てわかる陛下と姫様たちが中庭にやってきて、短いながらも陛下自らの謝意へと参加者が心を震わせる。


 カタリナとメルもそりゃあにっこにこだった。

 メルなんか陛下が話始める前に。


 ――せんせ! すごかったよ! あれって爆発を槍に付与したんだよね!? どうやって爆発のタイミングを――。


 なんて詰め寄って来てはみんなの苦笑いを買っていた。

 そんだけ勉強になった上で喜んでくれたのなら何よりである。


 アルル様にしても、眉尻をへんにょりとしながらの笑顔を俺に向けて、これじゃあダメでしたかと残念がっている様子だった。


 仕掛けらしい仕掛けを感じられなかったとはいえ、ひとまず今回は乗り切れたらしい。


 実力を測りに来たと考えればアリだと思える機会ではあった。

 ということは今後、より苛烈な仕掛けを講じてくるだろうということで。


 俺としても、あんまりやりすぎないようにお願いしますよと苦笑いを返すしかなかった。


「――では、皆、盃を持て」


 っと、乾杯も陛下が言ってくれるのか。

 ビスタなんかもう感極まったように涙を浮かべているけど……大丈夫? 飲みすぎてない?


 とりあえず、何事もなく今日を終われそうでなによ――ん?


「今日の成功を祝し、乾杯っ!」


「かんぱーい!!」


 変な魔力を感じるぞ? なんだ、これ……いや! なんだじゃねぇぞ!?


「陛下っ! お待ちを――」


「んぐっ……ぐ、う……おぉ、おおお……」


「陛下っ!?」


 盃の中身を飲み干した陛下が突然胸を押さえて苦しみ始めた。


 そりゃそうだ、これは!


「全員その場に伏せろぉおおおおっ!!」


「なっ!?」


「くっ――!」


 だめだ、理解が追い付いてねぇ!


 間に合うか? いや、間に合わせる!!


防壁展開プロテクション・オール!!」


「おぉおおおオオォォオッ!!」


 この場にいる全員へと防壁を張る。

 張った瞬間、陛下を中心に爆発が生まれた。


「なん、つーこと……しやがんだ」


 誰だよ、誰がこんなことやったんだよ。


「あ、あ……あ、ぁ」


 まさかと思ってアルル様を見るが、明らかに想定外だと顔に書いてあった。


 信じるかどうかは今考えている場合じゃない。


 まずは。


「ゴ……ゥ……ガ、ァアアアアァァッ!!」


「ま、まじ、ん……?」


 魔人化してしまった陛下を、なんとかしないと。

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ま、まじ(ん)か!?
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