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顔合わせ

 ――一度、あたいの親父と話してもらえませんかね。


 稽古が終わってリアさんの工房へとトリアと向かえば、えらくかしこまってそう言われた。

 トリアは何故か顔を真っ赤にして、それっていわゆる……だとか言っていたが、ある意味間違ってないだろう。


 今は改めてリアさんの工房ではなく、家の方へと向かっている最中だ。


「専属になってもらうってことは、他の人に武器を作らないってことで、ひいてはリアさんの生活を保証するってことでもある。そりゃ親父さんも一度会ってみたいってなるだろ」


「は、はい。すみません、言葉の響きがやっぱり衝撃的で」


 恥ずかしそうに頬を掻くトリアだけど、字面だけ見たら確かに衝撃的ではあるわな。

 リアさんの態度も態度だったし、むしろ俺から提案するべきことだったのかも知れない。


 ……そうしたらそうしたで、えらいことになっていたような気もするけど。


「ところで師匠? お世話になっているボクが聞くのも失礼な話なんですけど、専属の鍛冶師を雇うお金とかって大丈夫なんですか?」


「経費で落ちる」


「経費っ!?」


「冗談だ。けど心配しないでいい、剣闘会の優勝賞金があり余ってるし、陛下から伺った給金は目玉が飛び出る額だったしな。国が倒れない限り大丈夫だよ」


 王都で生活するにあたって必要な初期費用というか。

 あのでかい屋敷は最低でも使用人を10人単位で雇わないと維持できないもんだったし、陛下もそのあたりを気にしてくれたのか賞金に加えて雇えるだけの金を渡してくれた。


 ところがシェリナ一人で全部賄えた上に、大変だろうからと新たに使用人を募集しようとしたら機嫌悪くされてしまうもんだから中止してと、金に関しては逆に使い道が無くて困っている。


「師匠、全然お金使いませんもんね」


「そうだなぁ、元々田舎の出だし金が要らない遊び方というか、生活の仕方が身にしみてるのかもしれないな」


「そういうものですかね」


「そういうもんだ。何だったら欲しい物があれば買ってやるぞ? ほら、あのワンピースなんかトリアに似合うんじゃないか?」


「いいっ!?」


 普段から男の子っぽい格好しているから俺が気づかなかったと言うもんだ。

 少しは女っ気を出して見ろと言いたい。


「……そ、その、ボクに、似合うと思いますか?」


「似合うと思うぞ。女として見ればトリアはキレイな顔立ちをしているし、ああいう清楚って言うのか? 控えめな服がいいんじゃないかな?」


「キレっ!? あ、あぁぁもうっ! この朴念師匠!!」


「なんで怒られたんだ……」


 わけがわからないよ。自分で聞いてきたんじゃないか。


 まぁいいや、そろそろリアさんの家も見えてくるだろうし、気合いを入れておきますか。




「お嬢さんを俺に下さいっ!!」


「不束かな娘ですがどうぞよろしくおねがいします」


「早いっ!!」


「おやじぃっ!?」


 出会って三秒で土下座、目と目が合った瞬間に通じ合った。


「ガッハッハッハ! なんでぇなんでぇ! 今代の剣聖様は最高じゃねぇか!!」


「いやいや親父殿こそ! どうして腰なんてやっちまったんですか! 現役の時にお会いしたかった!」


 あ、この人やべぇわと。


「旦那は酒を?」


「嗜む程度でしたら」


「よっしゃよっしゃ! おーい! 酒だ! 用意してくれ!!」


 奥の方から女の人の返事、奥さんかな?


 工房があの有様だったから少し心配していたけど、普通の家よりか立派な住宅で安心した。

 ただ、親父殿の腕を考えると豪邸とまでは言わないでも屋敷程度にはでかい家に住んでいてもおかしくないんだけどな。


「っとと、玄関口で申し訳ねぇ。狭い家ですが入ってくださいや、わしゃあもうあんたに娘を託すことに何の不安もねぇが、折角だ、色々聞かせてくれ」


「もちろんです。俺からも是非鍛冶について伺いたい。お邪魔します」


 目を丸くしたままの二人を置き去りに……って。


「失礼」


「おお、すまねぇな。ったく、娘のくせに気が付かねぇもんで、申し訳ねぇ」


 機嫌よく振り返ったところでよろめかれた、やっぱり腰の状態は相当悪いらしい。

 身体を支えながら軽く解析を使って確認してみれば……なるほど、老化が原因じゃあどうしようもない。


「本当に、惜しい」


「ガハハ! そう言ってくれるのは鍛冶師冥利に尽きるってもんだ……リアはまだまだ未熟だが、わしを超える才能を持ってる。どうか頼みますぜ、旦那」


「もちろんです。責任を持って、お預かりします」


 どういうやり取りがあってリアさんがあとを継いだのか、詳しくはわからないけど。

 リアさん自身は無理やりと言っていた。けど、この人としては無理やりでもなんでも無かったのかも知れないな。


「トリア、いつまで固まってんだ。お邪魔するぞ、失礼のないようにな。師匠命令だ」


「は、はいっ! し、失礼します!」


 ようやく動き始めたトリアの隣でリアさんはまだ固まったまま。


 もしかしたら最初は反対されていたのかもしれない。

 親父殿はリアさんの才能を信じている、信じているから妙な輩にツバをつけられたくないと。


 そんな気持ちの上で、俺を受け入れてくれたんだとしたらこの上なく名誉なことで責任重大だと改めて思う。


「ちゃんと、やらないとな」


 まずは今後リアさんにどういうことをやってもらいたいのか、しっかり伝えないと。

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