授業合流とこれから
そんなわけで。
「メ、メル、だよっ。きょ、きょきょ、今日から、よろしく、おねがいしましゅっ! ……か、噛んだ」
「いらっしゃいメル姉ぇ。これからよろしくね」
「だっ、第二王女様に置かれましては本日もご機嫌うりゅわしゅ――ええと、はい。ボクもよろしくお願い申し上げます」
メル様が今日から授業、稽古に参加することになった。
理由としては多くのことを知るためって部分になるが、俺としても多くのことをメル様に限らず全員に伝えるためにはこっちのほうがいいって話。
「これからは剣の稽古、魔法の授業と一日ごとに変えてやっていきます。メル様には剣の知識はもちろん、戦うこと自体の基本がなっていませんし、カタリナ様とトリアはその真逆。それぞれにやってもらいたいことはそのままですが、指南の時間中に全員が集まる機会をつくって共通する部分を学んで頂きます」
「あ、あたし、が、がんばる、ね」
「魔法かぁ……こう、改めてちゃんと勉強したことなかったな」
「ボクもですよ。けど、師匠? 魔法ってそもそも才能がないと扱えませんよね? カタリナ様はわかりませんが、ボクははっきり使えないって言われましたよ?」
おっと、早速お授業の時間になるな。
なんかメル様がうずうずしてるのは自分が喋りたいんだろうなぁ……だめですよ?
「メル様はその自分が説明するよって雰囲気を抑えてください、基礎を学んで持っている知識と違いがないかを確かめることも大切だと、私は言いましたよ?」
「あ、あう。ご、ごめん、なさい」
「じゃあ改めて。そもそも魔法の才能っていうのは何だと思う? カタリナ様、お答えできますか?」
「生まれつき魔力を有しているかどうか、よね?」
その通りだ。
生まれたときに魔力の種みたいなものを持っているかどうかでまず魔法が使えるかどうかが決まる。
訓練や知識を栄養として吸収し、大きく育て花を咲かせるといったイメージが一般的か。
しかし。
「詳しく行きましょう。実は後天的に魔力を身体に宿す方法があります。予め魔力を持って生まれた人間に比べれば魔法使いとして大成することは難しいですが、それでも魔法自体は使えるようになる」
「じゃ、じゃあボクでも魔法が使えるようになるのですか!?」
「もちろんだ。だがそこで才能、あるいは適性って言葉が出てくる。トリア、魔法は何種類の属性に分けられている?」
「えぇと、火、水、風、土の四属性、ですよね?」
「惜しい。そこに無属性という五つ目の属性が加わる。無属性とは魔力自体に形や効果を付与して放出する魔法のことで、治癒や身体強化といった魔法も無属性魔法に分類される」
五種類の属性のうち、誰でも無属性の魔法は扱えるようになる。
誰でもというのはもちろん、後天的に魔力を身体に宿した人間であってもという意味だ。
「多くの場合において才能がないと言われるのは、この無属性魔法以外に適性がないとされるケースだ。治癒や身体強化魔法を元から操れる人間は、何かしらの属性に対して適性があるのが通例だしな」
「な、なるほど。つまり、ボクであれば魔力を身に着ければ無属性魔法が使えるってことですね」
その通り。
トリアは見た感じ魔力を具現化して障壁を作ったりってあたりに適性を感じるが……どれだけ頑張っても魔力総量は少なくなりそうだ。使うなら奥の手みたいな扱いだな。
「魔力を後天的にって眉唾物なんだけど……ひとまず納得するとして、私はどうかしら? 一応、風属性に適性があるとは言われたわ」
「そうですね、確かに風を操る適性を感じます。しかしどちらかと言えばカタリナ様も無属性、身体強化に関しての魔法に才能を感じるところです」
「身体強化、かぁ」
むしろ飛びぬけた才能があるから苦労しているんですとは言えない。
「あ、あた、あたたた」
「はい。メル様は全属性に関しての適性をお持ちですね。また、先もお伝えしましたが陣作成などに関しては自分で努力し学ばれた賜物であり才能や適性というわけではありませんので、十分に誇られるといいでしょう」
「ふ、ふふ……えっへん」
うーんまったいら……こうして訓練着を着てると余計に……。
い、いかん。今は授業のお時間です。今じゃなくてもダメだっちゅうに。
「メル様のように魔法剣士を目指されるというなら別ですが、基本的には剣術特化で訓練するほうがよろしいでしょう。しかし、実際に少しでも触れたことがあるか、学んだことがあるかどうかの違いは大きいですので、カタリナ様に対する魔法の授業は魔力制御を。トリアは基本魔法理論から勉強していこう」
「わかったわ」
「はい! 師匠!」
トリアの場合、緊急避難として無属性魔法の選択があってもいいと思う。
カタリナ様に関しては制御を学んでもらうことを通して、今の暴走とも言える自然発動を何とかできればいいな。
「あ、あの、あ、あたし、は?」
「メル様はトリアと一緒に理論を復習です。また、剣の日には素振りや基礎トレーニングをしながら、カタリナ様とトリアの組み手見学。見学をして自分ならこういう時にこういう魔法を使いたいって想像して見てください。前後しますが、その内容を魔法の日に復習が終わった後私とお話合いです」
「っ! ほ、ほんと!? じ、実はもう色々考えていることがあるんだけどね? えぇと」
「はいストップ。今日は剣の日ですからね? ちゃんと温めておいてください」
「う……残念、だけど、うん、楽しみに、してる、ね?」
懐かれたというかなんというか。
まぁなんにせよ形はできた。
アルル様からのお呼び出しはまだないし、まずはこの形で進めていくと共に、そろそろリアさんからの返事も聞きに行くことにしよう。