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長所と短所

 リアさんへの交渉は一度先代であり師匠の父親と相談してみますという形になった。

 前向きに考えてくれていると思ってもいいだろう、恐縮されっぱなしではあったけど目には興味の色が見えたし。


 その後一旦解散して、昼食を含めた準備を終えていつもの訓練場に再集合。


「では今日の稽古を始めましょう」


「はいっ! よろしくお願いします!」


「ええ、よろしくお願いします」


 今日中にトリアへ新しいマインゴーシュを渡せなかったとはいえ、ジト目も無くなったしこうやって素直に返事をしてくれる程度には機嫌を直してくれたらしい。


「カタリナ様には以前よりお伝えしていた通り、次のステップに移りたいと思います」


「よっし! 待ってたわ! なんでも来なさい!」


「トリアはまだ身体が出来上がってないからな、負荷をかけた素振りが中心になる。面白さはないけど大切なことだ。一振り一振り集中して大切にやるんだぞ」


「はい! 頑張ります!」


 紅葉を作ってしまったけど、改めてトリアの身体は観察させてもらった。もちろん裸とかではなく。

 ……思えばなんで気づかなかったのか、男にしては貧弱な身体だと思ってはいたんだけども。


 性別的な問題はともあれ、トリアは全体的に筋力が不足している。

 パリィングにそこまで筋力は必要ではないが、マインゴーシュは立派な剣だ。

 体幹を鍛えながら素振りをしばらく続けてもらって、時折カタリナ様と組み手をする感じで進めよう。


「ではカタリナ様。次のステップとは申しましたが、今の自分に何が必要と思いますか?」


「そう、ね……。足さばき、かしら? トリアとも話していたのだけれど、横への動きが私はまだ鈍いわ。そういった部分を解決することで、もっと間合いの中でうまく立ち回れると思う」


 うん、トリアと一緒に稽古をしてやっぱり正解だったな。

 まだトリアという視点や考えを借りてはいるものの、自分を客観的に評価することができ始めている。


「正解の一つ、と言っておきましょう」


「他にも正解があるってことね? ……うーん、あとは次に攻撃したい場所へ目を向けすぎるとか、かしら……ごめん、先生。思いつかないわ」


 お、おお……正解どころか大正解じゃないか、誰だこの人ってくらい進歩してるぞ?


「もう一度思い出して頂きたいのはですね、これは剣術指南ではなく剣術開発するための稽古であるということです」


「我流の合理を磨きましょうってことよね。だから、サイドステップをって思ったのだけれど」


「では質問を変えましょう。カタリナ様は自分の一番の武器は何であるか。あるいは何を一番の武器としたいですか?」


「そりゃあ、そうね、やっぱりあの突進突きかしら。自分で考えて形にしたものだし」


 だろうな。

 実際通常の突きであったりのレベルとはかけ離れた完成度を誇っているし、思い入れというか、こだわりというか。ある種の執着はあるだろうし、あって当然。


「私もそうと……いえ、そうであるべきだと思います。言い換えるのであればあれはカタリナ様の必殺技であり長所を詰め込んだ攻撃と言えるでしょう」


「あ、ありがと。なんだか先生にそう素直に言われると照れるわね」


 だからこの人はどうしたんだよ、なんで頬染めて目を泳がせてんだよ。


「剣術とは武器の合理を極めたものです。そして我流剣術とは自分の長所を合理的に突き詰め、剣に表したもの。つまり、考え方としてはあの突進突きをどうすればより良いものに出来るかを中心に考えるべきでしょう」


「……なるほどね、一周回って原点に帰ってきた感じだわ。どうすれば、か」


 カタリナ様が自分で言ったように、サイドステップの訓練をすれば間合い内での立ち回りが上手くなり、結果細剣術士としての力は磨かれるだろう。ただ天井としてはあまり高くない。


「先ほど仰ったように、サイドステップを磨けば細剣術の完成度は高まります。しかし、磨いてしまったがゆえにカタリナ様の突進突きは威力を落としてしまいかねない」


「え? どうしてかしら?」


「長所とは短所の裏返しでありその逆も然り。言ってしまうのであれば、横への動きを犠牲にしてカタリナ様は直線的な動きの鋭さを増した。横への動きを考えるのであれば、まず間違いなく突進の鋭さを損なってしまうでしょう」

 事実としてそういう脚の筋肉の付き方をしてるし。


 テレシアが見せ、俺が考えた移動方法としての突進はあくまでも俺ならば、である。

 地力に差があるからそうは見えないかもしれないが、同程度の技量を持つと考えたとき、俺にはカタリナ様ほどの突進を再現できないと思う。


「長所は短所の裏返し、ね。つまり、考え方としては横への対応を考えなくてもいい動きを突き詰めるべき、ってことね?」


「その通りです。そしてそれを見つけるのが次のステップであり、実現できるように訓練することが内容です」


「わかったわ! じゃあまずはそうね! ぱっと思いついたのだけれども!」


「ええ、お聞かせください」


 ニコニコと若干興奮交じりにあぁしたい、こうしたいと話してくれるカタリナ様は随分と楽しそうだ。


 この調子なら成長曲線を鈍らせることなく高みを目指していけるだろう。


 あとはメル様だが……うーむ、どうしたもんかなぁ。


「ちょっと! 聞いてるの!?」


「聞いてますって。突き抜けまで考えるって話ですよね?」


「そうよ! これだったら――」


 まぁ、まずはカタリナ様にしっかりお付き合いするとしますか。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] トリアがカタリナ様に友達として受け入れられたのは、その身体つきのせいもあったに違いない(邪推)。 ベルガが気づかないほど凹凸がないのかーそうかー。
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