成果と成長と笑顔
「――いや、できるとは思っていましたがまさか半月と少しで本当にモノにするとは」
「ちょっと! 驚く前に言うべきことがあるんじゃない?」
「そうですね、失礼しましたカタリナ様。お見事です。あなたの努力に敬意を表します」
「ふふんっ。そう、それでいいのよ」
どやぁ、ってな感じに胸を張るカタリナ様だ。
その隣ではなんか子供の成長を喜ぶかのような、やけに年齢を感じてしまう笑顔を浮かべたトリアが拍手をしている。
メル様の授業、その翌日。
隔日で来ると言った通りカタリナ様の下へとやってきたわけだが、開口一番見てみなさいと言われ、見せつけられたのは木人への一撃。
魔封じのレイピアを使って、62点。
「さぁっ! これで次のステップよ!」
さっさと教えなさいとでも言わんばかりの強気な笑顔だけども。
「その前に、少々お手を拝借しても?」
「手? ……変なこと、しないでしょうね? まぁ、良いけど」
カタリナ様、その文脈は変なことしていいよって言ってるみたいです。
差し出された手はキレイなもんだった。本当に剣を持つ者なのか疑ってしまえるほどに。
だが、拭いきれないほどに治癒魔法を使われた魔力痕跡が残っている。
怪我をしたままでは満足に剣を振れないってのは誰だってそうだ、トリアの件然り。
だから怪我をすれば治療する、そのことは間違いじゃないどころか正しい判断だ。
「一つお伺いしたいのですが」
「あによ」
「一日、何回治癒の魔法を受けられました?」
しかしこれはどう見ても治療されすぎていた。
剣士の手にマメができるなんて当たり前の話だし、潰れれば正しい処置をした上で更に剣を振りもする。
そうして手のひらの皮を厚くして、剣士の手を作り上げていくものだ。
「っ!? そ、そそ、そんなの受けたことないわ? あ、あぁいえ、昨日の夜マメが潰れちゃったから一度だけ!」
誤魔化すの下手だなぁ、好感が持てるけどさ。
治癒魔法とは一般的に、本来人間が持つ自然回復力を加速させるものだ。
一日で治る怪我を10秒に短縮するなんて、便利というよりも危なさを覚えるべきものだ。
俺がトリアに使った完全治癒はまた少し違う代物だけど、聖級までの治癒魔法を高頻度で受け続ければ、その人が元々持っていた自然回復力を著しく狂わせてしまう。
「……ごめん、なさい」
平たく言ってしまうのであれば、早く早く、もっと剣をと思った結果がこのキレイな手だということ。
「怒ってませんよ?」
本当に怒ってない。
むしろそこまで夢中になってくれているんだと嬉しいとすら思う。
「で、でもっ! 難しそうな顔、してるから」
あれ? もしかしてカタリナ様って結構可愛げがある?
しゅんとしょげながらそんなことを言ってくる姿は、なんだかんだで年下なんだなぁと思わせるもので。
「本当に怒ってませんよ。ですが、あまり回復魔法を簡単に受けすぎては身体に悪いのも確かですから、気をつけましょうね。次からはマメができたら教えて下さい、トリアにも教えておきますので俺がいない時はトリアに」
「……うん、わかった」
やだ可愛いわねこの娘。
いやいや、姫様に向かって不敬だな? 自重しよう。
「トリアは家で確認してるから良いんですけど。それじゃあ姫様? 次のステップへ移る前に……ご自分のレイピアであの木人へ突進突きをしてもらってもよろしいですか?」
「っ! わかったわ! ちゃんと見てなさいよね!」
泣いた赤子じゃあないが。
ぱぁっと顔を輝かせていそいそと準備を始めるカタリナ様。
陛下の話からも思うけど、多分本気で相手をされたことがないんだろうな。
流石姫様だとか、天才だとか。
そんな風に見られて、どんな風に振る舞っても受け入れられてしまう。
「そうして余計に完璧であろうとしてしまう」
「皆の思う完璧なカタリナ様であるように、ですか? 師匠」
「そうだな。カタリナ様と何か話でもしたのか?」
「いえ。ですが、お友達になってと言われました。……恐れ多いこと、ではあるのですが」
頷いてしまった、ね。
一国の姫とただの平民が友誼を契るなんて確かに恐れ多い話だ。
けど様子を見るに、えらく真面目に言われたんだろうな、断れないと思うほど。
「良いんじゃないか?」
「ですが」
「カタリナ様へは俺の生徒だ、なんて言ったけど。だったらお前は事実上カタリナ様の兄弟子だ、話し相手にはなってやれるだろ」
「あ、兄弟子って……い、言ってることはわかりますけど。ボクだったら姉で――」
おっと、カタリナ様がモーションに入った。
「トリア、よく見てろ」
「はひゃっ!? はいっ!」
相変わらず良い集中力だ、カタリナ様の周りに漂っている空気が張り詰めていくのがわかる。
これなら、問題ない。
「――シッ!」
「っ!? う、わ……」
トリアの驚きもわかる。
なにせ、行ったと思ったら木人の後ろにいるんだ。
遅れてカタリナ様の背後で木人が弾け飛ぶ。
「~~っ! ね、ねぇ!」
「ええ、ちゃんと見てましたよ。お見事です」
設定した満点を遥かに超える一撃を繰り出せた証。
それはつまり、大きく成長した証明でもある。
「せ、せんせいっ!」
「はい」
そうだと知ってるから、何より実感できたから。
「ありがとうっ!」
「どういたしまして」




