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限定契約と相性

「――という感じです。まずは今の動きを目標にして頂ければと」


「わけわかんないからねっ!?」


 おお、いつの間にやらオタクモードになっておられる。


「何!? あれって魔法陣を戦ってる時に設置したの!? コアもなしに!? ていうか混成術式だったよね!? 混成術を無詠唱!? しかも陣化してるの!? どうやってるの!? ベルガはすごいっていうか頭おかしいよ!?」


「お、落ち着いて下さいメル様」


「落ち着けないよ!? あんなの見て興奮しない魔法使いなんて魔法使いって呼んじゃダメだからね!? そもそも今の戦闘ほとんどよく見えなかったから術式解析する暇も無かったしちょっともういっか――ふぎゅ」


「ご主人様が落ち着けと申されただろう下等生物」


 あ、テレシアがメル様の口を塞いだ。


 ……問答無用で黙らせないあたりに気づかいを感じるけど、相手は一国のお姫様だからね? 自重しなさい。


「テレシア」


「っ!? も、申し訳ありませんご主人様! やはりもう二度と話せなくなるくらいに――」


「違うそうじゃない。とりあえず手を離せ。んで俺の隣に」


「かしこまりましたっ!」


「ぷあっ! げ、げほっ」


 ちゃんと人として最低限の礼儀やらは教えたつもりだし、なんだったら犬の時に躾は頑張ってたんだけどな。テレシアは外面が悪すぎる。


「申し訳ありません、メル様。大丈夫ですか?」


「う、うん、だ、だだ、だいじょ、ぶ。きに、しない、で? そ、それより」


「はい。ご説明申し上げます」


 涙目のメル様の背中を擦りながら、自分たちの縮小化を解除して、イスへと座ってもらう。


「改めて、先程の戦い方が魔法剣士の基本です。勝ち方を決めて、そこまでの道筋を戦闘中に生み出す。魔法抜きの剣術での戦い方と一番違う点であると言えるでしょう」


「え、えぇと、そ、それより」


「魔法に気が取られるのはわかりますが、順序立てていきましょう。メル様の目的は強くなって私から蘇生魔法を知ること。そして強くなるために必要なことがありますから」


「あ、ぅ。う、うん。ごめん、なさい」


 制したものの、良い兆候だとは思う。

 メル様の目には興味って色が強く浮かんでいた、あるいは憧れとも言えるか。


 死者蘇生云々を抜きにして、あんなふうになりたいと思えた。

 それは大きな進歩だと、信じたい。


「剣術はお互いの合理をぶつけ合う戦いですが、魔法は非合理のぶつけ合い……如何にして相手の想像や想定を上回るかの戦いと言えるでしょう。そしてその中間に位置する魔法剣士は、如何に自分の土俵へ相手を誘い込むかを思考する戦いです」


「じ、自分の、土俵、に……」


 俺なりの解答になってしまうから言わないが、戦闘中に魔法陣を設置し瞬間発動する技術はその極地にあると思っている。


 テレシアの虚月二刀流をさっさと拒否した爆風陣、細剣術の突進ルートを無理やり変えさせた水刀陣。

 どちらも合理を不合理でふっ飛ばした形だ。


 そして最後の突きラッシュ。足を固めて行わなければならないというのなら、足を崩せばいいという合理で対応し、勝負を決めた。


「私が見るに、メル様は陣作成について極めて高い適性をお持ちです」


「うえっ!? そ、そそそ、そう、かな?」


「あの屋敷に仕込まれた魔陣はメル様のものでしょう? コアを六つ使ってトリプルを発動するという考えは私にありませんでした。構成術式に甘さがあったが故に対応できましたが……陣術の基礎を改めて学んでいて、甘さが消えた陣であったのなら私は相当厳しい戦いを強いられていたことでしょう」


 あの術式は本来コア一つ壊されても効果を維持できるようにしたものだろう。

 あるいは、魔法効果を司るコアの一つを壊されたのなら別のコアが代替とされるように仕込んでいたか。


 どちらにせよ奇抜な発想で、鬼才あってのものだ。


「き、基礎ならっ、あ、あたし、すっごく勉強、した、つもり、だけど」


「メル様は戦闘中に魔陣を作成するという技術に目を丸くされていました。それはつまり、自身の魔力をコア化する技術を知らなかったという証明。これは、ある程度の魔法使いならば知っていて当然、つまり基礎と言っていい技術です」


「う、うそ? そ、そそ、そんなの、しら、知らなかった」


 もしかしたら、メル様を良いように使っていた人間が、良いように使い続けるため意図的に知らせなかったのかも知れないが。

 そうだとしてもあの完成度で魔法陣を編めるんだ、鬼才という他に言葉が思い浮かばない。


「ですのでこれからは剣術を扱うためのトレーニングと、魔法に関しての座学を中心にお教えします」


「う、うんっ! あ、あたし、がんばり、ます!」


 むんっと両手を握ってやる気を見せてくれるが。


 できればさっきの戦闘光景を自分で解析してみたりもして欲しいんだよな……むしろ、今まで完全独学でやってきた人には、教えるよりも一人でもくもくと研究をするみたいなやり方のほうが伸びる可能性が高い。


 ……あ、そうか。


「しかし、私の教えがメル様の力を逆に封じ込めてしまう可能性もあります。メル様も自分の考えを私に話すという形のほうが楽しいかと思いますし」


「え……? あ、う、うんっ! そ、それっ! すっごくいいよ! あたし! ベルガに色々聞いてほしいもんっ!」


 うわぁ、お目々がキラキラだー。

 いや、ほんとメル様は研究者気質のオタクだわ。


「そこで、です。テレシア」


「はいっ! お呼びですかご主人様! 暇で寝そうになってませんよご主人様っ!」


 隣で静かだなとは思ってたけど、寝そうになってたのね。


「メル様、こいつは記憶するモノであり、記憶したモノを出力する力もあります。当然、先の戦いについても記憶しており、出力することが可能です」


「す、すごいね……さ、流石神級、だよ」


「……んん? あ、あのご主人様? なんだかいやーな予感がするのですが、ですが?」


 メル様はぴんと来てないみたいだけど、テレシアはてぃんと来たみたいで。


「色々私に話すためにも……先の復習がしやすいように、テレシアと限定契約を結んでもらいましょう」


「へっ? げ、限定、契約?」


「わふぅうぅううっ!? やっぱりっ! やだやだやだ! やですよやーなの! わたしはご主人様だけのものですぅっ!!」


 テレシアがうるさいけども。

 俺がこうして色んな人と関わる機会が増えてしまった以上、テレシアも自然と関わる機会が増えるわけで。その都度今みたいなメル様への対応をされちゃ困るんだよな。


 限定契約を結べば、さっきの戦いを映像として見ることができるし、研究も捗るだろう。


「ダメ」


「やー!」


「命令」


「わ、わふぅ……ご主人様は、やっぱりいぢわるです……くぅん」


 何を言っても無駄だと悟ったんだろう、とぼとぼとメル様の方へと歩いていって。


「ひゃうっ!?」


「……わたしが力を貸すんだ、さっさと強くならねば許さんぞ、下等生物(ニンゲン)


 ぺろりとメル様の頬を舐めた。限定契約締結完了である。


「え、え、え?」


「強くなって早く契約解除するのだ! 汚らわしい! わかったな!」


「はひゃっ!? ひゃいっ!!」


 まぁなんとなーくではあるんだけど。


 結構相性いいと思ったりもするんだよな、この二人。

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