らぶらぶ見せつけお手本
テレシアと遊ぶのは久しぶりだ。
剣聖になるまではほぼ毎日やってただけに、半月も間が空くなんて思わなかった。
「ふんふーん。ごっしゅじんと~あっそぶぞぉー!」
だからこそ余計に楽しみだったりする。
今でも人に物を教えるなんて柄じゃないと思ってるし、やっぱり自分を磨くことに執心することがらしいとも。
テレシアにしてもしっぽが千切れるんじゃないかってくらい振り回して、楽しそう――あ、メル様をしっぽで叩いたな? わざとだろ。
「お仕置き、だな?」
「はうん。ご主人様、素敵な目をされてますぅ。お耳がぞくぞくしちゃいますよぅ」
困ったもんだ。
元が犬だからかアルファ思想が強く、自分の上に立つモノの力量が強ければ強いほど嬉しいのか、俺に叩きのめされるってのが相当好きらしい。
まぁ、最終的にそんな強い俺を殺すってあたりにときめいているのかもしれないが、それはテレシアのみぞ知るってやつだ。
「何を使うんだ?」
「そうですねぇ……やっぱり、コレですか」
「わぁお……三割、ちゃんと守れよ?」
「もっちろんですご主人様っ!」
虚空から取り出したのは刀身の反りが特徴的な、三日月刀と俗に呼ばれる剣を二振り。
虚月二刀流。
俺が一番相手をするのが苦手で、一番研究した、あの人の得意剣術だ。
ったく、溜まってたんならそういやいいのにな、テレシアめ。
「合図はこれで」
「はぁいっ!」
ポケットから使い古びたコインを手に取って、指で弾く。
まぁいいさ、今回は魔法剣士として遊んでやる。
三割組手とは言っても、ちゃんと全力で相手してやるから。
「あはぁっ!」
「覚悟しろよっ!」
先手はもちろん――。
「投剣するよなぁっ! とりゃっ!」
「無駄ですぅ! そんなつむじ風、切り裂いて差し上げますっ!」
無詠唱の風魔法で剣の軌道を変えようとしたけど、すぐさま二刀目が投げられた。
ってことは、あそこらへんか。
「簡単にキャッチさせるかよ!」
「読み筋ですよ! ご主人さ――っくぅ!」
こっちの得物はショートソード、一刀目を躱して二刀目を弾き落とすと同時に。
「……んふふ~、なるほど、今日は魔法剣士スタイルですか」
「言ったろ? メル様への実演だって」
「つれないですねぇご主人様っ。でもそんなところも大好きですっ!」
一刀目をキャッチするだろう場所へと仕掛けた爆風陣を発動する。
キャッチをすぐさま諦めて爆発に巻き込まれなかったあたりは流石の一言だが。
三日月刀は遠くに行ったし、二刀目は俺の足元だぞ?
「さぁ! 詰めろの時間だなっ!」
「まさか! まだまだ遊びましょ! ご主人様っ!」
なんて、本来なら詰めに行くところだが……。
やっぱわかってんなぁテレシアは。
今回はメル様に学んでもらうための戦いだから、来ないってわかってる。
「後悔、しちゃいますよ~?」
「言ってろっての」
つまり、俺が応手で勝つつもりだと見抜いている。
にまにまと楽しそうにしながらも、目にチラリと見えるのは嫉妬の炎。
わたしとの遊びを見世物にするなんて、ってところだ。
「じゃじゃーん」
「……うーわ」
もったいぶるようにゆっくりと再び虚空から取り出したのはレイピア。
なんの魔法を使うかという判断のスピードを超える速度で攻撃できるレイピアは、魔法剣士が相手をするのに一番辛い武器だ。
ほんっと……あの人らしい選択の仕方をしてくれるよ。
「って」
「えへへっ! コレも、最近学ばれたことですよね? ご主人様っ!」
見せた構えはカタリナ姫の突進突き。
調子に乗ってるなぁ……まじで応手で決めるって考えてなかったら即潰してやるってのに。
「じゃ……参りますよっ! ご主人様っ!」
けど、そうだとわかってるなら対処されるってのもわかってるはずだ。
何か狙いがあるな? なんだ、何を狙ってる……?
……あーくそ! だからレイピア相手に魔法で相手すんのはやなんだよ! 考える時間もっと寄越せ! とりあえず!
「そこで止まってろっ!」
「っ!」
進路上に水刀陣を設置、無詠唱で風を生んで水の刃でたたっ斬る!
「ここです!」
「まじっ!?」
魔法陣の一歩手前でテレシアが急停止、水刀を避けるようなサイドステップの後に。
「やぁああああっ!」
「――って、くれるなぁっ!」
再びの突進突き。
あー……ああああったくさぁ!
「しかもそのままこないのかよっ!」
「突進突きはっ! 間合いを詰めるのに最適っ! ご主人様はっ! そうっ! 考えられましたよねっ!」
はいはいはいはい! 考えましたー! 考えましたとも!
俺がレイピア使うならこうするかなーとか! 考えましたぁ!
「おまっ、三割っ、あぁもう! このラッシュは三割じゃねぇだろ!」
「あははぁっ! 聞こえませーん!」
突進突きが届いた瞬間にもう一度停止して、その場からの突きラッシュだよ。
ほんと、ほんとさぁ!
「お前は、最高だよっ!」
「お褒め下さり光栄の至りですっ!」
ショートソードで捌ききるには限界がある。
実際、さっきからテレシアのレイピアが薄皮を割いてきて結構危ない。
良いだろう、だったらもう一個、学ばしてやるよ。
「これで――とどめぇっ!」
「には早いんだよなぁこれがっ! くらえっ!」
「ふあっ!?」
大きく踏み込んだ一歩に合わせて、テレシアの足元に段差を作った。
「っく」
足先を避けようとしたのか、それとも無理やり踏み込もうとしたのか。
どちらにしても体勢を崩したのは確かで。
「見逃すわけ、ないんだよなぁ」
「あっ!? う、うぅ……」
動きの鈍ったレイピアを大きく弾き上げ、返す刀で首元へと切っ先を突き付ける。
「参り、ましたぁ」
「あぁ、ありがとうさん」
悔しそうな顔をするのも一瞬、しっぽをしゅんと丸めるのも一瞬で。
「やっぱりご主人様大好きですっ! いつか絶対殺して差し上げますからね!」
「もちろん。楽しみにしてるから楽しみにしておけ」
すぐに笑って、抱きつきながら顔を舐めてきた。