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対シェリナ

 久しぶりに出した愛剣を握れば心なしか、やっと出番ですね! わたし、がんばりますっ! みたいな雰囲気が柄から伝わって来た。可愛いやつだ。


 生憎と誰かや何かの命を奪うために抜いたわけじゃないのが申し訳ないけど、勘弁してもらうとしよう。


「そ、それ、は……」


「見せるのは初めてだったな。俺の得物だよ、銘を記憶するモノ(テレシア)と言う」


 アサシンらしからぬ動揺を見せられるが、テレシアを見た相手はこぞっておんなじ反応をする。


 それも仕方ない、なにせ。


「それは、剣、なのですか?」


 刀身が見えないのだから。


「愛剣だよ。けど、剣だけに非ずとも言っておく。そろそろお喋りも良いだろう、ぼさっとしてていいのか? アサシンは姿を消してなんぼだろう」


「――くっ」


 仕切り直しを許す。

 正直な部分を言えば、この環境下で戦うのは結構大変だ。

 どうしようもなければ戦ってもいいけど、まずはコアを何とかしたいし、仕切り直しは大歓迎である。


 外から見た感じ、屋敷の下にある基礎部分にコアは埋め込まれているはず。


「厨房、かな」


 思えばシェリナは俺を厨房に入れたがらない雰囲気があったし、まず一つはそこにあるはず。


「それだけにトラップが多く仕掛けられてそうだなぁ。悪いなシェリナ、苦労を台無しにさせてもらうぞ」


 厨房に向かって歩き始める。


 神経毒の影響でいまいちはっきりシェリナの気配を感じ取れないけど、テレシアも抜剣したし。


「え、ぁ……あぁっ!?」


 再びどこからか何かを投擲されたらしい。

 パキンという音が聞こえたけど、すまんな、わからん。


「はいはいテレシア、落ち着け落ち着け」


 ――あれ? 殺さなくてよろしかったのですか?


 なんて、ちょっと戸惑ったような声が頭に響いてきた。


「あぁ、まだ(・・)敵じゃないからな。それよりありがとう、助かったよ。頼りにしてるよ」


 ――はいっ! ご主人様っ!


 うーん、このわんこ系よ。やはりかわゆい。


「い、いま、のは」


「うん? ……ははーん、お前さては戦う気ねぇな? でもシェリナは俺の従者でもなければ弟子でも生徒でもない。教える義務はねぇな。自分でどうなってるのか考えろ」


 しかしやっぱこの屋敷でかすぎるよ、厨房遠いよ。


 のんびりってわけでもないけど歩いていれば、そこいらじゅうからパキンポキンと小気味いい音が響いてくる。


 ――ご主人様っ! わたし! 役に立ってますか! 立ててますか!


「あぁ。最高だよ」


 ――~~っ! 嬉しいです! もっとがんばりますっ!


 なんて褒めればさらにパキポキとトラップが破壊される音か、シェリナの攻撃を防いでくれている音が加速した。


 シェリナはどんだけ屋敷にトラップを仕込んだんだよ、怖い。

 というか良いのか? 具体的に何個設置したのかはわからないけど、アサシンはトラップとの連携も大事だろうに、このままじゃテレシアが全部壊しちまうぞ。


「っと、ここだ」


 厨房に続くドアの前、露骨に殺気が隙間から漏れている。

 俺のほうが前を歩いていたと思うんだけど、どうやって先に着いて待ち構えることが出来たんだろうか。


 んー……ダメだ、感覚がおかしいままだったら探りにくい。

 さっさと魔法封じの効果をなんとかしよう。


「たーのもー」


「はぁっ!!」


 飛んできました包丁やらナイフやら暗器やら。

 もう暗殺とはお世辞にも言えない攻撃になってるけど、いいのかな?


「テレシア」


「っ!」


 頭の中に元気な返事が響く声と、飛来してきていた刃物の数々が叩き落された音が重なった。


「自動防御、ですか」


「お、そう言ってもらえると嬉しいね。宝具(アーティファクト)級だと思ってもらえるなら何よりだ」


 魔法効果を発動するアイテムのことを一般的にそう呼ぶが、テレシアは決してアーティファクトじゃない。


「嬉しいけど、いい加減この状態もしんどくてな。魔力の流れ的には……そこか」


「ちぃっ――!」


 破れかぶれか、どうにもならないと自棄になったのか。

 それとも近距離戦にこそ勝機を見出したのかはわからないが、それもやっぱり。


「うっ!?」


「愛剣だって言っただろう? 見えないのは仕方ないけど、そこには確かに刃が存在しているぞ」


 テレシアに阻まれる。


 シェリナのキレイな銀髪がはらりと床に落ちた。


「わかんないって顔してるな? じゃあネタバラシしておこうか。記憶するモノ(テレシア)とは銘の通りあらゆる所持者の技術を記憶する剣だ」


「記憶する、剣?」


「魔法、剣術、槍術……戦う技術だけじゃない、なんだったら料理だって記憶する」


 コアの位置まで歩きながら解説する。

 シェリナとの間合いも詰まってきたけど、何かされる気配は感じない。


「そして使用者の魔力を消費して記憶した技術を出力する。見えない刃の形を変えてな」


「つまり、私の攻撃を尽く防いだのは」


「テレシアから出力した俺の剣技だ。トラップを破壊していたのは弓術だな。剣術に比べればお粗末も良いところだが、こういう時は役に立つ」


 話しながらシェリナとすれ違う。


 これで疑念は確信に変わった。


「底が見たかったんだよな?」


「……はい」


 そういうこと。

 恐らく俺を殺害せよって命令が改めて下されたんだろうな。

 そのために今の状況、三重陣を発動して優位な状況を作った上で、俺の実力を測りたかった。


 決断、するために。


「あの時言ったな? キミは救われ方を考えるだけでいいって。じゃあ、折角の機会だ」


 コアの位置は、ここか。

 テレシア、頼む。


 ――かしこましたご主人様っ! 解析開始致しますっ!


「教えてもらおうか。キミを救う方法を」


 まっすぐにシェリナを見つめる。

 瞳に宿っているのは迷い。俺には敵わないってわかっていて、改めて実感してなお、本当に大丈夫なのかと悩んでいる。


 ――ご主人様ご主人様! 魔法封じを司っているコアです! 破壊して機能停止させますかっ!


 もちろん頼む。


 ――かしこまりましたっ! えぇいっ!


「っ!?」


 テレシアの甘ったるい掛け声と共に、地面が少し揺れた。


「じゃあ、そうだな……まずは迷いから掬いあげることから始めよう。テレシア、起動(ウェイクアップ)


 ――わぁ……っ! 良いのですかっ! 久しぶりですね! 嬉しいです!


「な、なに、をっ!?」


 確かに久しぶりだ。

 テレシアを起動させたのは……あぁ、あの人と戦ったのが最後だったもんな。


 まぁ、お披露目するだけで悪いがな、テレシア。

 ちょっとだけ、付き合ってもらうぞ。


「つ、杖……?」


「言ったろシェリナ。俺は賢者と呼ばれるために田舎から出てきたって。呼んでくれても、良いんだぞ?」


 呆然としたままのシェリナに向けて。


「さぁ、篤と御覧じろ――千刃サウザンド・ウィズダム

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