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吠える犬は嚙みつかない

「まずは――解析(アナライズ)


 トリアと一旦別れたその場所から、漂ってきた魔力の質を調べる。


「筋力、敏捷力低下に、魔法封じか。わかってるじゃないかシェリナ、三重ってことはやっぱ魔陣仕込んでたか」


 三重陣(トリプルマジック)なんて代物を完璧に隠蔽、ねぇ。


 屋敷で暮らしている時に気づけなかったってことは……土地自体に描いて陣構築してたな? 随分と手が込んでいる。


 というかあれか、ここは処刑場扱いされてるのか。

 シェリナみたいな暗殺者を送り込みあてがって来たことといい、有力者にとって意に沿わないヤツをここに住まわせてタイミングを見て処理する。そんな場所。


「そっちのが可能性高そうだなぁ」


 どうするかな、これ終わったら一旦屋敷をぶっ壊して陣を無効化した後、修復で元通りにするってのがいいかな。それとも魔力の痕跡を辿って犯人を暴く?


 んー、俺は剣聖と呼ばれている魔法使いであって探偵じゃないんだがな。


「そうだ。なら逆に牽制させてもらうか」


 どちらにしてもこれは明確に喧嘩を売られているわけだ。

 魔法使いに魔法で喧嘩吹っ掛けるなんて……そりゃもう戦争だろう、なめてやがる。

 盛大に格の違いってやつを教えてやるか。


「っと、いかんいかん。なんのために剣を学んだんだって話だ」


 でもなぁ、得意分野でこういうことされるとなぁ。


「ふ、ふふ……」


 むかつきが抑えられないというか、目にもの見せてやりたくなるというか。


 そうだな、あえて無効化しないまま突入して中から解除してやるか。

 込められた魔力量的に、影響下でシェリナと戦闘するのは結構厳しそうだけど、今回は何でもありだ。

 どっちについたほうが良いのかってのをしっかりわかってもらうことにしよう。


「そんじゃ、お邪魔しまぁす」


 自分の家なのにね、門をくぐってお邪魔しますっておかしいね。


「……へぇ、中々興味深い陣構築の仕方だな」


 すぐに屋敷の中に入ろうと思ったけど、これは面白い。


 立派な中庭付きの屋敷とはいえ相手がシェリナ、アサシンであるなら仕掛けるのは室外よりも中を選ぶだろう、ちょっと見てみるか。


「アトリエ式? いや、ガーデン式? もしかして混ぜてる? よく安定起動できてるな」


 ゆっくり魔力の流れを辿るように中庭を歩いて確認してみれば、三重陣のくせにコアを六つも使ってることがわかった。


 通常は発動したい魔法一つにつき一個だ。つまり三重陣ならコアとなる魔石なんかを三つ用意する。

 壊されるリスクを分散させているのか、それとも破壊されることをキーとして発動する魔法が込められているコアを偽装設置してるのか。


「魔法使いというよりは魔術師的な魔法行使だな。いずれにせよ難しい制御が求められるにも関わらず上手いもんだ」


 回路の組み方にしても斬新というか、オリジナリティがあるというか。

 独自の理論が確立されていることが伺える、無駄に思える部分も多いが、魔法陣なんてものはちゃんと機能すればそれでいい。


「それに――っとぉ」


 さっさと中に入ってこいってか? 暗器が飛んできた。

 反応が遅れてしまったせいで頬を軽く裂かれてしまったけど……毒はないみたいでよかったよ。


 そうなんだよな、思っていたよりも重い魔法効果なんだ。

 一級魔法使いのレベルは優に超えている。上級……いや、もしかしたら聖級はあるかもしれない。


 思ったよりも苦労しそうだ。

 この場ですぐ解除してしまうことは可能だけど、そうすると格の違いを見せつけることにはならないし。


「シェリナの暗殺を躱しつつ、コアをどうにかしよう」


 コアは全部屋敷内にあるみたいだし、まずは魔法封じから対処だな。




「うーわ」


 入った瞬間げんなりした。


「マジもマジじゃないか……どんだけ俺を殺したいんだよ」


 魔法とは別に、これはアサシンが扱う神経毒の一つだろう空気の中に混ざりもの。

 幸い致死性は無いみたいだけど、感覚がおかしい。酒に酔ったような感じだ。


「……なるほど、なぁ」


 シェリナがどれだけ俺を研究したのかよくわかる。

 どういった攻撃や妨害が有効か、考えに考えたんだろうな。

 ある意味彼女からすればここに来た半月の総決算お披露目会みたいなもんか。


「おかえりなさいませ」


「あー……仕事で疲れて帰ってきた屋敷の主を迎えるには、ちょっと刺激が強すぎないか?」


 どこからしゃべっているのかが掴めない。

 右から、下から、ぐるぐると回るように声が聞こえる。


「申し訳ありません。しかし、安らかな眠りはお約束致しますので」


「はっ。疲れてはいるけどまだ眠くはないんだよ。そんな俺をちゃんと寝かしつけられるかな?」


 うーん、強がり。


 けど。


「シッ――なあ!?」


「アサシン相手に手の内全部さらけ出すわけないじゃないか。思っていたよりもずっと俺を信頼してくれていたようで嬉しいよ」


 背後に現れたシェリナ。

 ゆっくり振り返ってみれば俺の首を狙ったんだろう短剣が、不自然な位置で止まってる。


「こ、れは……っ!?」


「知らなかったか? 召喚は魔法じゃないんだ。だから魔法封じでは止められない」


 シェリナの短剣を受け止めていた、俺の愛剣を手に取って。


「能あるなんとかは爪を隠すって言うだろ? 参考にしてるんだ。それじゃ……始めようか」


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[気になる点] 牽制しようか…?剣聖だけにってことか!
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