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メルという女

「ねぇ、せんせ?」


「うん?」


「あたしのこと、ひきこもり魔法オタクだとか思ってない?」


「違うのか?」


「違うよっ! いいとこ連れてってやるって言われて期待したあたしに謝って!」


 渡した魔法書を全部読破してから言うセリフじゃないと思うんだけど。


 まぁそんなわけでメルとのデートである。

 カタリナと違ってというのも失礼な話だが、メルの好きなものや好きなことっていうのはいまいちよくわからなかったもんで、苦肉の策。


 お家デートってやつに誘ってみた。


「もうっ! ほんとにさ! カタリナちゃんとは遠乗りとかしちゃってさ! 挙げ句、あげく……うー!」


「唸るなっての。遠乗りは前からの約束だったし、まぁその後に関しては……カタリナの一本勝ちってやつだよ」


 惚れたというか惚れ直したというべきだろうな。

 ある意味カタリナは俺に人生を懸けた。そんな相手からご褒美をって言われたら、なぁ。


「やっぱり胸? 胸なの?」


「そうだと思うか?」


「……思わない」


「ん、いい子だ」


 後悔とか、そういう気持ちはない。

 あえて言うなら今後カタリナのお強請りには勝てないだろうなとは思うけど。


「はぁ……ねぇ、せんせ?」


「うん?」


「あたしがここで、カタリナちゃんと同じことしてって言ったら、受け入れてくれる?」


「受け入れないだろうな」


 だよねぇと、メルは肩を落とした。


 わかっているなら何よりだけど、それはもちろん。


「メルのことが、嫌いだってわけじゃないぞ」


「わかってるよ。あたしが、まだ死者蘇生の魔法を教えてもらってないから、でしょ?」


 重ねて、カタリナは全てを俺に懸けた。

 その責任を取らなければならない。いや、取りたいと思ったからあぁした。


 対してメルはそうじゃない。

 俺への好意を疑っていないし、俺だってメルのことは好きだ。


 メルが自分で言うように、死者蘇生の魔法を習得して、ルリア様を生き返らせて。

 その果てに俺への気持ちに自分を預けるというのなら。


「悪い。俺はやっぱり臆病なんだよ」


「……知ってるよ」


 複雑な笑顔を覗かせるメルだ。


 じゃあここで死者蘇生の魔法を諦めて、ベルガという男を心の底から愛しますと言っても意味がない。

 俺がそういったメルを好きにならないと、メルはわかっているんだろう。


「でもね? せんせ」


「うん」


「あたしも、本気だからね」


「そりゃ……覚悟しとかないとな」


 こうして多くの人から好意を寄せられることになるなんて思わなかった。


 カタリナにしてもメルにしても、トリアにしても。

 アルル様は、ちょっとわからないけれど。


「そうだよ、覚悟しててよ? あたしだって、せんせが欲しいもん。奪ってやるって思ってる。もちろん、死者蘇生の魔法とは別にね」


「あぁ、疑ってない。つい最近、そういう気持ちを教えてもらったばかりだから」


「できればあたしが教えてあげたかったってことも、忘れないでね?」


「……肝に命じとく」


 そう返事をすればメルは満足そうに頷いた。


 王族、だからだろうか。

 正室、側室……それに愛妾。

 名称はともかくにしても、一人の男に多くの女が侍る。


 前陛下にしても、ルリア様がご懐妊されるまでは側室や愛妾を囲っていたらしいし。

 そういうのが普通の環境で育てば、こうまで割り切るというか、受け入れられるのだろうか。


「そんな顔しないでよ、せんせ」


「どんな顔してた?」


「申し訳無さそうな顔」


 そんな顔してたか。


「そりゃ、ね。あたしがせんせの一番になりたいって気持ちはあるよ? 女の子だもん。好きな人の一番になんて、当たり前になりたいよ」


「そ、っか」


「でも今回は、カタリナちゃんが一番乗りだった。そういう話だけど、せんせの隣を独占できるようになったわけじゃない。あたしは、あたしのスタートラインに立ってゴールテープを切った後、改めてせんせの隣を奪いに行く」


 スタートラインに立っていたカタリナと、まだ立っていないメル。


 その差が今回に現れた。そう言って、そう思って納得しようとしている、のか。


「だって、譲れないもん。お母さんを蘇らせたいって気持ちは。テレシアちゃんみたいな形になるのかはわからない。けど、あたしはお母さんにどういう形であっても会わなきゃ前に進めない。だから、ごめんね? せんせは二番、なんだ」


「……こいつ」


「えへへ」


 やっぱり、メルも強い女の人だなって思う。


 最近手癖になりつつある、メルの頭を撫でる行為にしてもそうだけど。


 いつの間にやら責任じゃなくて、俺は好意に囲まれていて。


「あたしね?」


「うん」


「武闘会、頑張るよ」


「あぁ」


 笑顔のまま、メルは静かにそう言って。


「今までのも、これからのも、全部出し切る。せんせに強くなったって思ってもらえるくらいに」


「……それは」


「うん。やっぱり悔しいから、カタリナちゃんはまだせんせの隣を独占してないけど、独走は許したくないから……だから」


 納得できたら、死者蘇生の魔法を、か。


「わかった。約束する」


「……ほんと?」


「二言はないよ。楽しみに、待ってる」


 納得できたら、なんて言わない。


「ん、任せて」


 こういう目をした時のメルは、絶対に納得させにかかってくるから。

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