アルルの甘え方
俺が一体何したんだろうか、帰るなり卒倒されるとか聞いてないんですけど?
いやまぁ、気分を害したとかそういうのは別にないしから良いんだけど、よっぽど気持ち悪い顔でもしていたんだろうかと悩みはする。
ともあれ、目をぐるぐる回して倒れてしまった二人は一応どころか淑女なわけで。
理由もわからないしとりあえず同性のテレシアに任せて、アルル様に戻ったことを報告しに来たわけだけども。
「あのー?」
「――はっ」
アルル様、あなたもですか。
ほんとなんだってんだ、人の顔見るなりぼーっとしおってからに。
俺が機嫌が良いってのが悪いのだろうか、無意識になんかニヤついてたりする?
……してるかもしれないけどさ。
何というか、久しぶりの大満足っていうのもあるし、一つ階段を昇ったというか、壁を壊した、ブレイクスルーを果たしたなんて実感はあるんだし。
「こ、こほん。無事に帰ってくれたようで安心しましたわ、ベルガ」
「はい。もったいなきお言葉です、ベルガ、只今戻りました」
とりあえずアルル様は王として出迎えてくれたらしい。
わだかまりというか、ちょっと俺との関係が不安定になってはいるけれど、ちゃんと切り替えができるあたりは流石だななんて思う。
「不足していた素材とやらはもう十分に?」
「そうですね、急に多く必要としない限りは大丈夫かと」
アルル様の刀ようの素材、メルの宝石剣に使う素材。
それらを差し引いても、十分な量を確保できたと言える。
素材を渡したリアは毎度変わらずよくこんなに集められるもんだと感心していた様子だったけど、テレシアの感知があればなんてことはない。
「ならば良かったですわ。購入物があれば後で書面にして持ってきなさい。内容にもよりますが、国で一部負担致しますので」
「あれ? よろしいのですか?」
「あなたが必要だと思ったもの、それすなわち国にとって必要なものです。もちろん明らかに不要なものは別ですが。少なくとも食料といったものは国が負担するべきでしょう」
嬉しい申し出ではあるが、遠回しに俺はベロニカのものだからなって外堀アタックなんだろうな。
「ベルガ? 何を笑っているのです?」
「いえ、不在中にちょっとはらしくなられたな、と。失礼致しました」
「……むぅ」
ロザリーさんとどういうやり取り、稽古をしたのかはわからないけれど、調子を取り戻しつつあるようでなによりだ。
その役割になれなかった悔しさはあるけれど、それを取り返すのはこれからだろうし、気張らないとな。
「まぁ、良いですわ。ベルガ不在の間に武闘会に関して幾つか話が進みましたのでお伝えします」
「はっ、傾聴致します」
さて、ある意味姫様たちやトリアの正式なお披露目の場となるわけだしどうなったことやら。
「開催は二ヶ月後、覚えているでしょうけど剣闘会が行われた会場を使用します」
二ヶ月後ね。
ちょっと早い気もするけれど、鉄は熱いうちに打てともいうし、結婚式のインパクトを忘れないうちにと思えばそれくらいが妥当か。
「各国へ開催するという案内はリリー商会を通じて告知済みです。参加受付の期限は一ヶ月後。つまり開催日の一ヶ月前となります」
「なるほど。現段階ではどれくらいの参加を見込んでおられるのでしょうか」
「リリー商会を使ったのです、ほぼ全ての国から参加者が集うでしょう」
「い゛っ!?」
まじかよ、どんだけだよリリー商会。
国のお抱え商人とは聞いていたけど、そこまで力があるとかすごいな……。
って。
「えぇと、それは、フリューグスからも?」
「ええ、参加してくるでしょうね。なにせ優勝賞品がベロニカへの参政権ですので」
「……は?」
参政権って……。
え? 聞き間違い?
「もう一度言いましょうか? 身分国籍を問わず、ベロニカの政治に介入する権利を賞品と設定したと言っているのです。要するに、あなたと同じ立場を優勝者は得られるのですわ」
「……」
いや、くすくす笑って言えることじゃないんですけど?
待て待て待て、それはちょっとぶん投げすぎじゃないか?
「ベルガ」
「は、はい」
「我が国の者が、勝てば良いのです」
「う、うわぁ……」
個人的には世の中ってやっぱり広いなーなんて痛感したばかりなんですけど?
まだ見ぬ強者がどこにいるのかってわくわくしたばかりなんですけど?
というか。
「ええ、わたくしが、勝ちますからご安心を」
そう、どういうわけかアルル様に自信のようなものが感じられるんだ。
メルやカタリナ、あるいはアーノイドやトリアが勝ってくれるだろう、じゃない。
「……なるほど。それは、楽しみですね」
「先生にそう言って頂けると嬉しいものですね」
どうなろうが、自分が勝って帳尻を合わせてやるから。
そんな、雰囲気がある。
「その上で、ベルガ」
「はい」
「ここ最近のあなたへの態度、謝罪致しますわ。都合のいいお願いと自覚してはいますが、どうかまたベルガの教えを賜りたくおもっております」
そう言って、アルル様は深く頭を下げた。
王様モードは終わり、ここからはあなたの生徒として、ってところか。
うん、剣の腕はともかくも、アルル様も少し強くなられた。
若干重い上がりにも似た感じではあるが、この前よりかはずっと良い。
「何をおっしゃいますやら。アルル様はずっと俺の生徒のままでしたのに」
「……ふふ、そうでしたか。それは、嬉しいことです」
何を考えて、何を思ってここまではっちゃけられたのかはわからないけど、とりあえず。
「次の稽古が楽しみですよ」
「ええ、わたくしもですわ」
勝てるように自分を鍛えろってことなんだろう。
そういう甘え方は、嫌いじゃないですよ、アルル様。