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反省と覚悟の準備をしろ

「反省、だね」


「うん」


 ベルガさんがマジックアイテムの収集で王都を出発してから一週間と少し。


 最初は寂しいなってずっと思っていただけだったけど、メル姉ぇが言った。


 ――このまま、せんせがいなくなるなんてないよね?


 ベルガさんは色々受け入れようとしてくれてるけれど、ちゃんと心底責任持つよって言ってくれたのは、剣術指南役。


 それはつまり、私たちが今に満足しちゃったら必要のないお仕事になる。


「舞い上がってたっていうのはあるけど……あたし、依存しそうになってた」


 結婚式が終わってから。

 なんでこれでずっとベルガさんと一緒にいられるなんて思ったのか。


 メル姉ぇが言ったように舞い上がってたっていうのもある。


 私だって、何処か強くなりたいって気持ちが希薄になっていたようにも思うもの。

 強くなりたいと願う私たちにこそ、ベルガさんは一緒にいてくれるってことを忘れそうになってた。


「夢中になる寸前で、良かった。このタイミングで冷静になる時間があって、良かった。あたし、まだまだ弱かった」


 悔やむようにメル姉ぇが言った。


 お母様に誰よりもべったりなメル姉ぇだったから、ベルガさんを新しいべったりな先にしようとしてた自分が許せないんだろうと思う。


「私も。目付けのためにやってた見学で、思ったの。人は目的というか、野望というか……やっぱり目的や目標があるから頑張れるんだって。ベルガさんの妻になったって言っても、それは私達の目的じゃない。嬉しいけど、幸せだけど……ここで満足しちゃ、ダメなんだって」


 ベルガさんが好き、大好き。

 でも、好きな人が傍に居続けてくれるために私は強くなろうと思ったわけじゃない。


 剣聖の称号を奪いたかった、そして彼の強さに憧れた。

 憧れた強さを持つ人は、誰よりも私をまっすぐ見てくれる人で、誰よりも孤独な人だった。


 だから私はあの人の隣に並び立ちたいと思ったんだ。

 誰よりも近くで支えたいと、彼を誰よりも幸せにしてあげたいって。


「メル姉ぇ」


「うん。ネジ、巻き直そう。せんせのこと、大好きだから。大好きな人に恥ずかしい自分で在りたくないし、なりたくないから」


 顔を見合わせて頷く。


 浮かれている場合じゃないんだ、こうしている間にもベルガさんはもっともっと強くなっていく。

 ちょっとでも歩みを緩めたら、追いつけないほど遠くに行ってしまうのだから、走り続けているくらいが丁度良い。


「あ」


「うん? どうしたの?」


「せんせ、帰ってきた!」


「ほんとっ!?」


 一瞬で花が咲いた様な笑顔になるメル姉ぇ。

 さっきまでの雰囲気は何処へやらだけど、きっと私も似たような顔してるんだろうな。


「いこっ!」


「うん!」


 二人で行儀が悪いけどちょっと駆け足で。


 後悔じゃなくて反省にできそうなことが嬉しい。

 やっぱり、不安だったから。このまま帰ってこなかったらって思っちゃったから。


 だから。


「ただいま」


「「――きゅぅ」」


「え、えぇ?」


 なんだかよくわからないけど。

 玄関に居た今までで一番格好いいと思えた笑顔のベルガさんを見て、気が遠くなった。




「流石に言葉がないぞ? あまりご主人様の手を煩わせるな?」


「「ごめんなさい」」


 メル姉ぇと一緒に呆れるテレシアの前で正座して反省。


 帰ってきたことをお姉様にも報告しなきゃならないからって、すぐにもう一度出ていったベルガさんだけど。先にこっちへ顔を見せてくれたことが嬉しくて。


 でもでも、それ以上になんなのあのベルガさん。


 はちゃめちゃに素敵なんですけど? 男子三日会わざれば刮目して見よ? 刮目したら死んじゃうよぅ。


「が、わたしは今とても気分が良くてな。呆れるだけで許してやろう」


「あ、うん。あたしも思った、テレシアちゃんなんか機嫌がいいよね? 出先で何かいいことでもあったの?」


 露骨に聞いて聞いてと言わんばかりに尻尾を振ってたテレシアだったし、なんともわかりやすい。


「ちゃん付けはよせと言ったというに。まぁいいだろう、許す。最高だったぞ? ご主人様に久しぶりに愛して頂けたからな、胸も腹も一杯で満たされているのだ」


「あいっ!?」


「あー……」


 そそそそ、それはその!! いわゆるだんじょのむつみあいてきな!?

 というかメル姉ぇはなんでそんなに落ち着いてるの!? らいばる! ライバル出現よっ!?


「カタリナは落ち着け」


「ででででで! でもっ!?」


「何を想像しているかは察するところだが、わたしの気分が良いのはそれだけじゃない。ご主人様がついにご自身の殻を破られたことが何より嬉しいのだ」


「殻? せんせ、また強くなっちゃった?」


 お、落ち着きましょうカタリナ、落ち着くのよ……うん。


 べ、ベルガさんがどんな経験をしてても、わ、私はありのままを受け入れるだけだし、最終的に私で染めちゃえばいい話よ、うん。覚悟しててよねベルガさん。


「あぁ。ご主人様は認められないだろうが、わたしとしてはあの方と並んだと言っていいだろう」


「っ!?」


 あの方、って。

 ベルガさんの師匠のことよね?


「帰ってくるまでに解析と検証はした。その上で、二人に言っておこう。覚悟しておけと」


「かく、ご?」


「えぇと、どういう覚悟を、かな?」


 そう聞いてみれば、テレシアはふっと笑って。


「ご主人様に、愛される覚悟をだ」

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