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時間があることは暇ということじゃない

 ロザリーさんにアルル様を一旦お任せすることになった。

 それはつまり、メルやカタリナ、トリアが見学に勤しんでいる間に時間が出来たということだ。


「――なるほど、ねぇ」


「できそうか?」


 ならば色々手を付けられなかったことをしようと言うことで、かつての屋敷。現、リアの工房へとやって来て。


「これだけの予算と材料を貰っておいてできないって言うのは鍛冶師の名折れってもんさね」


「よし。ならそれで頼む」


 付与魔法に関しての授業と、ちょっとしたお願い事を聞いてもらった。


「でも……あたいは戦いに関して詳しいわけじゃないから的外れかも知れないが。本当にいいのかい? こんな、ゼロかイチかの大博打みたいな武器で」


「伝え方ややり方の反省はしているけれど、方向性がそこにしか見出だせないっていうのは事実だ。むしろ、実力や地力が大きく劣る人間が、順当に強いやつ相手に勝つなんて博打でもしなきゃ無理さ」


「そういう、もんなのかねぇ」


 環境に左右されない力を地力と言って、特定下の条件で発揮される力を実力と言う。


 今回の武闘会、ルール制定や賞品選定はまだ途中だけれど、平たく言えば殺し以外なんでもアリの大会だ。

 要するに実力よりも地力を問われる場であることに違いない。


 そんな中で結果を残そうと思うのなら。


「まぁ、旦那がそういうのなら間違いはないだろうけどね。ただ、刀を打つのは初めてだから色々試行錯誤させておくれよ?」


「そりゃもちろんだ、他に必要なものがあったらいつでも言ってくれ」


「それで? カタリナ様の愛剣は旦那が直接魔法を付与するんだったね? メル様の武器はどうするんだい?」


「そう、なんだよなぁ」


 何気に一番困っているのはメルの武器である。


 カタリナに関しては身体に馴染んでしまったイヤリングの術式を解呪できる魔法を付与するついでに、愛剣に飾り細工でもしようかと思っているからいいけれど。


 メルには何がいいかと悩んでいた。


「だ、旦那がそれだとあたいが困るんだけどね? えぇと、魔法剣士ってのは、基本的に何を得物にするもんなんだい?」


「個人によるとしか言いようがないんだよな。ショートスタッフとショートソードって組み合わせが無難ってのはあるけど、中には杖と槍を持ってる人もいれば、二刀流なんて人もいるんだ」


 決まった組み合わせっていうものはない。

 メルは現状ショートスタッフとショートソードの組み合わせでいるけれど、メルにとってはやや重たい装備だと言える。


 何よりもメルはかなり魔法へと偏重した魔法剣士と言える状態だ。

 今日までの稽古でそれなりに剣も振れるようになったけれど、魔法に関しての伸びに比べたら物足りないどころじゃない。


「二刀流……」


「うん?」


 二刀流の何に引っかかったのか、リアが不意に考え込んだ。


 魔法ってのは別に無手でも発動できる。

 杖を使用するのは単純に威力の向上であったり、無い状態よりもコントロールがつけやすくなるからって理由が一般的だ。


 俺で言うのならテレシアを起動して魔法をコントロールできるようになるためだし。


「ちょっと待ってておくれよ?」


「あぁ」


 そう言うとリアは奥の部屋に引っ込んだ。


 何か思いついたのだろうか?


 俺も二刀流を考えなかったわけじゃないんだよな。

 けど、先も思ったようにメルは魔法に重きを置いたタイプの魔法剣士だ。

 はっきり言えば無理やり魔法剣士に矯正しているようなもので、当然のごとく適性は後衛であり魔法使い。


 メルの抱えている問題とは視野の狭さだ。

 没頭癖とでも言うのか、一つのことだけに集中してしまいがちで、後衛に魔法使いとして置いてしまえば必ず周りとズレる。


 トリアとコンビを結果的に上手く組めたのは、相方がいるという事実が上手く作用したって部分と、やはり魔法剣士としての稽古を積んだおかげだろう。


 魔法剣士はどうしても視野と思考を常に一定以上広く維持する必要があるから、魔法使いとして一つ上のステージに進むためにも丁度いい。


「丁度いいが頃合いに変わった時が、死者蘇生魔法を教える時だしな」


 トリアが守る人になりたいと言ったように。

 俺としてはなりたいものを見つけて、そこまでの導線を整備してやればいいと思っているから。


「――お待たせ、旦那」


「あぁ、おかえり。って、それは?」


 リアが手に持っているのはやたらと古い本。


「図鑑、みたいなもんかね? こっちに工房を移した時に親父から渡されたんでさ。それで、これなんだけどね?」


「……へぇ?」


 言いながら指し示してくれた部分に書いてあったのは。


「宝石剣、か」


「ここに書いてるのは儀式礼剣としてだけど、あたいの付与魔法があればこれ……いけるんじゃないかい?」


 リアが言ういけるって意味は、杖としても剣としても使えるようになるんじゃないかって意味で。


「むしろ俺に打って貰いたいくらいだな?」


「だよねっ!? あたいながら冴えてるよこれは!」


 先にお願いした刀が打てるだろうリアになら、恐らく可能。


「よし、これで行こう。材料はこっちで改めて用意するから、まずはアルル様の武器をよろしくな!」


「あぁ! 任されたっ! くぅ~! 楽しみだねぇっ!」

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