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初めての信徒

「えぇと? 主様、これはなんだろうか?」


「サキュリア、主様からの施しですよ? 傅き賜り、心の底から感謝申し上げ賜ることが先です」


 複雑な思いはあるものの、アルル様の稽古ができなくなった分時間ができてしまった。


 だから、というわけではないが。

 クルセイダーに対して責任を持つと決めたことを反故にするつもりもなし、加えてアモネスのイヤリングを解析したことで色々わかったこともあったしで。


「そんな大層なものじゃないから落ち着いてくれ?」


「大層なものというか……これはアメ、か?」


「まるで宝石のような輝きのアメ……主様はこういったものを作ることも……!」


 稽古場の使用許可をメルに貰って、二人をこうして連れてきて、大量のお手製アメが入った袋を手渡した。


「そのアメを食べれば一時間、あのイヤリングを使った時の効果を発揮できる。ある程度出力は調整しているから、あの時そっくりそのままではないけどな」


「「っ!?」」


 結局、クルセイダーの人たちへどうやって俺が責任を取るのかを考えたとき。

 今の状況を受け入れるということと、失墜してしまったクルセイダーの信用とでも言うのか、名声の回復に努めるってとこに至ったわけだ。


 アルル様、というよりメルが宰相として改めてアストラと良好な関係を築くためにも必要だと言ってきたこともある。


 ならば、今回の武闘会を利用しない手はない。


「その、主様? 私としては、あまりあの力に頼りたいとは思っていないのだ。こうしてあなたの下に着いている理由、打算を明かしてしまえばあの力を使うまでもない強さを身に着けられると思ったからだ」


「……サキュリアの弁、ご容赦下さいませ。しかし、私もあの力を使うのは――いえ、もちろん主様が使えと命じられるのであれば、御心のままにと申し上げるのですが」


 気持ちはわかる。

 偽りの無い本心として、俺もあの問答無用のブーストと言える術式に対して嫌悪感すらあるのだから。


「一つ改めて言っておきたいんだけど。こうして主様なんて呼ばれてはいるが、俺は二人の神じゃない」


「……建前であることは理解している」


「我が信心をお疑いになられる気持ちは、仕方なきことと承知しております。ですがっ!」


「まぁ落ち着いてくれ。単純に、信じるものがすくわれる(・・・・・)のは足元だけだと言いたいんだ。強さとは自分で手を伸ばし掴み取るものであって、与えられるものではない。そういう意味でな」


 信徒をバカにするつもりはない。

 熱心な人達がこぞって足を掬われるなんて思ってはいないけれど、二人はやっぱり足を掬われた人だから。


 アモネスから良いように使われてきたとは言え、カタリナと違って二人は戦う者としての自分の形ができあがっている。


 それを崩して一から教えるってのは難しい。

 だが、幸いにして彼女たちが参考にできる教材が存在している。


「そのアメを用意したのは、未来の自分を確認しながら強くなってほしいがため。決してそれを使って強くなれと言っているわけではなく、それを使って自分に勝てと言っている」


「自分に、勝て……か」


「……」


 俺の言葉を噛みしめるように瞑目して考え込むサキュリアさんと、やや沈痛な面持ちを浮かべるカルシャさん。


「イヤリングの基礎術式はあくまでも未来の自分をその身に降ろすというもの。凶暴化であったり人格変化が発生するのは降ろすための副作用に過ぎない。つまり、その副作用さえ消すことができれば冷静に自分を参考にしながら訓練が積めるということだ」


 出力を調整したのはそのためだ。

 完成された未来の自分ではなく、少し先の自分を降ろすことで副作用を消す。

 訓練の仕方、自分の意志で細かく変化するだろう未来の自分を参考にしながら訓練することで、自分の理想を追求できるというわけだ。


「申し訳ないが、弟子や生徒たちのように直接二人へ稽古をつけることはできない。特にカルシャさん、あなたにそうしてしまえば、きっと無自覚に依存を強めてしまうだろうから」


「それ、は……」


「カルシャ」


「いえ、わかっておりますわ。その通り、かと」


 自覚があるようで何よりだとは思う。

 むしろ、本来持っていた心の強さだろう自分の弱さを認められるのは。

 そんな強さを押し封じ、良いように利用したアモネスはやはり許せない。


「もちろん言ったように責任は取る。二人を含めたクルセイダーたちの幻想をぶち壊したのは俺だ。新しい理想を見つけられるように全力で支援する。もしもその理想が、改めて俺へと侍ることだというのなら受け入れる。ただ、曇りなき理想を見つけるためにも、これは必要なことだと、俺は思う」


 そして自分の強さを改めて示し、確認する機会として武闘会がある。


 二人が何処までいけるのかはわからないけれど、少なくとも納得できるところまでは。


「主様」


「なんだろう」


「あなたは、厳しい人だ」


「……それ以上に、優しい人です」


 サキュリアさんがふっと笑って言ったことに、カルシャさんが頬を膨らませながら被せるように言って。


「ご教授、感謝申し上げる。我々も、全力で強さを目指すことを……剣神様へと誓おう」


「はい。どうか、改めて(・・・)私共の信心をご確認下さいませ」


「あぁ、楽しみにしているよ。希望するなら弟子や生徒たちと模擬戦位はできるようにするから、遠慮なく言ってくれな」


「「かしこまりました、御心のままに」」 

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