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ありがたい

 リリー商会なんて聞いたことない、とか。

 明らかに年下どころかまだ親元から離れてはいけないだろう年齢なのに、とか。


「そう熱い目を向けるでないのじゃ。うずうずしてしまうじゃろう?」


「失礼しました。どうも、我慢できなくて」


 一目惚れってのはこういうことを言うのかも知れない。

 色んなちょっと気になることがどうでも良くなって、今すぐに戦いたいとしか考えられなくなるなんて。


 だってそうだろう?

 戦う姿勢になってないのに強いってわかる相手が、それなりに強者であるだろう俺を前にして自然体なんだ。

 しかも、早くヤろうヤろうって誘ってるのに、余裕を持って受け流してくる。


 あー……バトルジャンキーなつもりはなかったんだけどな。

 あるいはロザリー様? さん? がお誘い上手なだけかもしれないけれど。


「……」


 ちらりとアルル様を見れば、いつものニコニコ笑顔。


 何を考えてるんだろうな、武闘会の支援がどうのって言ってたし、ここで戦うことに意味はあるんだろう。


 なんとなく寂しいと思うのは……いや、気のせいってことにしておこうか。

 話したいことはあるし、アルル様だってその必要はあると思ってくれているはずだ。

 その上で戦えと言われたのなら、今はそのタイミングじゃなかったということ。


「まぁ、そうじゃの。良い戦いをしようぞ」


「ええ、よろしくおねがいします」


 いつもの稽古場、ギャラリーはおらず、審判としてアルル様がいるだけ。


「指南役としては、生徒がおったほうがよかったかの?」


「いえ。教えるための戦いは……出来なさそうですから」


 茶化しだろうけど、生憎軽口を返す余裕はない。


「カッカッ! なるほど、なるほどのぅ! イイ、実に良い!」


 ケタケタと笑うロザリーさんだけど、瞳の奥で闘志か期待か、メラメラと燃えているものが見えた。


 目付け、では。完成された人って印象。

 今のアーノイドさんより強い、突っ込んで言うならアーノイドさんが本当の意味で完成した場所にいる人だろうか。


 俺もまだまだ若いが、それより若い、若すぎるだろうロザリーさんがそんな域にいるなんて、理性が理解を拒んでいるけれど、本能がそうだと結論づけた。


「それでこそ! 久しぶりの本気が出せるというものじゃ」


「っ!! ガントレット……いや、それは」


「知っておるのか? そう、篭手という」


 慣れた手付きで両手に装着していくロザリーさん。


 肘に届かない部分まで覆い、指先は自由になっているタイプのもの。

 材質は鉄……? いや、石、か? 一見しただけじゃわからないけれど。


 間違いない、ロザリーさんは、体術師だ。


 ……その、体躯で?


「アルル」


「ええ、それでは――両者尋常に勝負、はじめっ!!」


「っ!」


 戸惑う疑問がアルル様の合図にかき消され。


「――まぁ、その反応は慣れたものじゃよ」


「え――」


 気づけば俺は、宙を舞っていた。




 ――ご主人様っ!!


「くっ!! 大丈夫だ! 行くぞテレシアッ!!」


 ――はいっ!!


 衝撃が身体を空へと突き抜けた。

 遅れてやって来た痛みは腹。


 なんだ、何をされた? 当身? 拳打? 脚?


 わからない、わからないけど。


「繋げさせねぇってのっ!!」


「ほほうっ!!」


 すっと現れたロザリーさんから繰り出された拳を、テレシアで弾く。


 重さは、そこまでじゃない。


 けど、速い。


「ふっ――」


「ちぃっ!!」


 着地はどういうわけか同時。

 同じタイミングで着地したのにも関わらず、ロザリーさんのほうが速く動いた。


炎巻(フレイムトーネイド)!!」


「おおっ!!」


 このペースに付き合っちゃだめだ、手がつけられない。


 自分を中心に炎の竜巻を発生させて無理やり距離を作る。


「天晴というほかないのぅ。二打目でいつもは終わっておったのじゃよ? 三打目を回避、拒否されたのは久しぶりじゃ」


「は、はぁ、はぁ……失礼しました、見た目に騙されましたよ」


「カカカッ!!」


 出来た距離の先でロザリーさんは両手両足をプラプラさせて魔法の解除を待っていた。


 二句の短縮詠唱を瞬間詠唱、術式をかなり雑に組み上げたから魔力が大きく削られちまったぞ。


「遠慮することはないのじゃ。その力、妾にしかと見せよ!」


「はっ! では見物料はロザリーさんの敗北で支払って頂きますっ!」


「よく言った!!」


「っ!!」


 ふらり、と。

 ロザリーさんの身体が緩やかに動いたと思えば。


「カカッ! 防ぐかっ! これをっ!!」


「見事過ぎる、瞬歩ですねっ!!」


 もう目の前にいて、拳が俺の顎を狙っていた。


 見えてなんかいない、ちらりと漏れた殺気を感じ取れただけだ。

 そしてその殺気にテレシアが反応してくれた。


「じゃが――大炎よっ!!」


「っ!?」


 たいえん。

 そうロザリーさんが発声した瞬間。


風圧(エアプレッシャー)!!」


「なぬっ!? っぐ!!」


 ロザリーさんの篭手から炎が巻き上がった。


 ……魔力は感じられなかった、術式も、魔法陣も浮かび上がっていなかった。


「あー……もう。俺は、ベロニカに来るまで何を見てきたのやら」


「カカ、そういうな。初見で防がれた……いや、対応されたのは、真実初めてじゃよ」


 二度目の仕切り直し。

 エアプレッシャーでロザリーさんを吹き飛ばして、距離を稼ぐ。


「材質、なんですか、それ」


「レインボーダイアじゃよ。ほれ、金持ちっぽいじゃろう?」


 心なしか自慢気に。

 いやいや、自慢していいよ、んなもん惜しげもなく武器に使うなんてさ。


 財力も、立派な力で強さだよ。


「銘を、伺っても?」


虹手甲(ジ・オールマイト)じゃ」


「ありがたく頂戴致します」


「カカカッ! 妾の名よりも嬉しそうに受け取るでないわ!!」


 レインボーダイア。

 魔力をあらゆる属性に変化させる性質を持つ、魔法使い垂涎の宝石。


 つまりあの篭手、ジ・オールマイトは。


「あらゆる属性の魔法を発生させることができる篭手。まさに万能ですね」


「然り。もっとも、発生させたのは……カカ、何年ぶりか思い出せんがの!!」


 ありがてぇ……本当に、ありがたい。


 これなら。


「では、俺もお見せしましょう」


「……ほう」


 本気、出しても良いだろう。


「テレシア――起動」

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