未解決と進展
問題が発生したら良いのなら解決すれば良いだけの話なのだ。
トリアが言ったように、アルル様が本当に劣等感を抱いていたのかという部分は俺にわからない。
だが、トリアのおかげで俺はミスに気づけた。
「これなら出来るようになるに対して、こうしなくてはならないってのを押し付けるなんてな」
我ながら傲慢だった。
何より可能性を狭めてしまうことを嫌っていたというのに、反省と自己嫌悪をいくらしても足りないくらいだ。
ちゃんと話し合うべきだった。
カタリナやメル、トリアは溢れすぎている位に才能があるから、自然と俺の教えることから自分の目指すべき形を見つけ出した。
そうとも、彼女たちの優秀さを自分のおかげだと誤認していたんだ。
思い上がるな、ベルガ。
元より誰かを強くするために強さを求めていたわけじゃないだろう。うまく出来なくて当然のことを彼女たちに救われ続けていただけに過ぎないのだ。
「まずは、謝って……それから」
刀を扱った方がいいというのは俺が導き出した意見に過ぎない。
ならば別の方法や得物をと考えても思い浮かぶものがないのは、情けないながらも事実だ。
でもそれは自分だけで考えた結果に過ぎない。
二人で考えれば、よりよい何かが見つかる。
少なくとも、納得できる答えは見つかるだろう。
「――よし」
何がよしなのか。
自分のヘボさを改めて受け入れただけだと言うのに。
それでも動かなければそのままだからと、アルル様の部屋を目指して歩いていけば。
「あれ?」
部屋の前に近衛が一人立っていた。
あっちも俺に気づいたようで一礼してきてくれたけど。
「来客? 謁見の予定すら聞いてなかったんですけど」
「はっ、どうやらお忍びとのことで」
お忍び。
あのアモネスというか、教国の枢機卿ですら私室へ通さなかったアルル様が、名目上親衛である俺に何も連絡せず?
……い、いや、おもしろくないなんて思ってないぞ?
「誰が来ているんです?」
「そ、そう凄まないで下さい……その、自分も誰かは存じ上げていないのです。ローブを着込んでおられましたし」
こりゃ失礼しました、俺ってば落ち着け。
しかしまぁ、誰だろう?
相当信頼している、あるいは自分か国にとって大事な相手だと認識しているのは確かだろう。
アルル様が王でなかったのであれば、単なる友人として考えても良いんだけど、あのアルル様だしなぁ。
それも親衛の者を部屋から出してまで会う相手だ。
誰かに聞かれては不味い話でもしているのだろうか。
『ベルガですか?』
「っと――はい。申し訳ありません、急ぎの要件ではないので改めます」
部屋の中からアルル様の声が聞こえた。
正直なところ急ぎではないけれど、早く解決したい案件ではあるが、人と会っているのなら改めるべきだろう。
『いえ、ちょうど良かったですわ。入ってきなさい』
その場を辞そうと踵を返した俺を、そんな言葉が止めた。
「えぇっと……お初にお目にかかります。ベルガ・シャル・アストール・トリスタッドと申します。どうか、お見知り置き下さい」
「――」
中に入ってみれば相変わらずのニコニコアルル様と、成長という言葉を何処かで忘れてきてしまったのかと疑ってしまうような少女が、綺羅びやかなドレスをまとって待っていた。
「……」
名乗ったは良いものの、少女から返事はない。
つまりまだ顔をあげられない。
いや、ちょっと長いよ。
いつまで頭を下げてないといけないんだろうか。
「――ふふ。もう、ロザリーったら。ベルガのこと忘れておりますわよ?」
「こ、これは失礼した! ベルガ殿、面をあげられよ」
「はっ」
別に嫌というわけではなかったんだけども助かった。
改めて見れば本当に少女としか言いようがない、むしろ幼女と言ってもいいくらいの背丈だ。
140……ギリギリ届くかどうかの身長に、アルル様と同じ金色の髪を頭の両隣で括る、ツインテールなんていうのか髪型。
カタリナを少し重ねてしまう勝ち気な茶色い瞳、返事を忘れてしまったことを恥ずかしく思うには赤くなりすぎな頬。
何よりも。
「妾の名は、ロザミア・テストリム・リリシアと言う。アルルの剣、ベルガよ。今後ともよしなに頼むのじゃ」
「はっ。ご尊名、しかと承りましたロザミア様」
「ふふふ、ロザリーで良い。妾は一国の主というわけでもないからの! ベロニカで言うところの平民じゃよ」
「ベルガ、わたくしの顔に泥を塗らぬようという心遣いには感謝いたしますわ。ですが、ロザリーは立場あるものとはいえ高貴な身分というわけではありません、そう固くならないでいいのです」
うっそだー。なんても思うけれども。
そうだ、何よりも。
「なるほど、なるほどのー」
強い。
見た目童女とかどうでもいい。
何が楽しいのか俺の周りをぐるぐる回って時折頷くこの人は、めちゃくちゃ強い。
だって、こう。
「うむっ! 良かろうアルル! リリー商会は武闘会の開催を支援しよう!」
「あら? 先程までは渋顔でしたのに」
「こうもイイ男を出されてはのぅ……じゃが、わかっておるな?」
「もちろんですわ。ベルガ?」
「え? あ、はい」
戦いたいという気持ちを必死に押さえつけていれば、アルル様は。
「これから、ロザリーと戦いなさい」
俺の心を見透かしたように、嬉しいことを言ってくれた。