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ひゃくてん満点の朴念仁

「まさかトリアが一緒にいて一番落ち着く相手になるとはな……」


「凄いこと言ってる自覚あります? しかも二つの意味で」


 情緒不安定なアルル様に、キャラ崩壊気味のメルとカタリナ。

 特別そんな彼女たちから距離を置きたくなるなんてことは無いけれど、やっぱり落ち着きはしない。


 そんなわけで魔法剣士隊の訓練を、俺の言いつけどおり見学しているトリアの下を訪れて。


「そう、その距離感だよ。トリアはずっと変わらないでいてくれて助かる」


「ぶん殴りたい、この師匠」


 おっと、トリアの目つきが危険水域に。

 八つ当たりしてる自覚はあるよ、ごめんって。


 でもさぁ。


「だってさ、トリアは俺を好きとか、そういうのないだろ?」


「お弟子パンチ!」


「ふぐっ!? な、なにするだ!」


「いえ、朴念仁ポイントが限界突破したので帳尻合わせです」


 謎の素晴らしいキレを持った拳が俺の腹に刺さった。

 何故か避けてはいけない気がして避けられなかった。


 朴念仁ポイント?


「言っときますけどボク、師匠のこと好きですからね?」


「あー……それは、その、良き師とか先生って意味でだよな?」


「女の子としてです」


「おぅ」


 まじか。

 いや、まじ、かー?


「はぁ。そういうところですよ、師匠。ただ、師匠との距離感を変えずにいられているという自覚はあります。意図的に保っているというつもりはありませんし、ある意味師匠が言うところの一番落ち着く相手って言葉もわかりますよ」


「その心は?」


「だって師匠。自分より弱い人を大事に想ったりはしても、恋はしないでしょう?」


「――」


「師匠を振り向かせたいと願っても、師匠を超えなければそのスタートラインにも立てない。メル様やカタリナ様は、わかっていながらも形式的に妻ってポジションに収まってしまったから、舞い上がってるだけです。そのうちボクと同じ考えに行き着いて落ち着きますよ」


 呆れたように、というはそうでありますようにと。期待を少しだけ混ぜてトリアは肩を竦めた。


「……よくわかってるじゃないか」


「これでも弟子ですから、ボクは一旦そういうことを考えないようにしているだけです。それに、誰かを護りたいと願うボクですよ? なのにそれよりも師匠が欲しいとか思うのって、不純と言うか自分が許せなくなりそうで」


 成長したな、とか。俺のことをよく分かってくれてるとか。

 そういう風に思った部分はもちろんあるが、それ以上に。


 やれやれと言わんばかりに言葉を紡いだトリアが、何故ホーリーの語句を紡ぐ資格を手に入れたのかって理由を垣間見た。


「それで、アルル様のことでしたか?」


「……あぁ。良くも悪くも、メルやカタリナは稽古から逃げなかったからさ。どうしたもんかなって」


 この調子なら、トリアはまったく心配いらないだろう。

 むしろ三週間後が楽しみですらある、予定していた稽古内容を少し変える必要がありそうだ。


 なら、遠慮なく相談に乗ってもらおうじゃないか。


 あれ? 俺、師匠だよね? う、うーん……まぁ、いいや。


「これはボクの私見ですけども、良いですか?」


「もちろんだ」


「では遠慮なく。単純に、メル様とカタリナ様へ劣等感を抱いているのではないですか?」


「劣等、感?」


 あの、アルル様が?


「あー……こうも顔にでる師匠っていうのは初めてですね。アルル様は劣等感を抱かない、あるいは胸に宿したとしても表に出さない。そんな風に思っていた。違います?」


「いや、その通りだ」


 解釈違いとでも言うのか、トリアの言っていることがいまいち理解できない。


 アルル様は人に色々なことを強いる。

 強いるが、それ以上の覚悟や決意を自分に強いている人で、殉じる人だ。


 だからこそ、俺も自分を剣として捧げていいと思ったのだから。


「ボク自身もそうですが。今までメル様もカタリナ様も、師匠に応える形で実力をつけてきました。これくらいできるだろう、できるようになるだろう。無茶苦茶なと思ったことは何度もありますが、なんだかんだでできるようになっちゃったのが今です」


「まぁ、否定はしない」


 期待はもちろんだが、一種の確信があったことは確かだ。


 それこそ目付けの段階で伸びることが分かっていたとも言える。


「アルル様も、応えたかったんですよ。アルル様自身、ご公務に追われてしまっていたこともあるからこそ余計に。参加できたと思えば基礎訓練、必要なことだと自分を納得させながらずっと文句を言わずに続けて今に辿り着いた。そんな時」


 無理だと思ってしまうようなことを期待してしまった。


 いや、大きすぎる期待から逃げてしまった、か。


「師匠」


「なんだろう」


「あくまでもボクが思うってだけですし、この話を聞いて師匠がどういう風に思ったのかはわかりませんけど、一つだけ言えることがあります」


「うん」


 そこで一つ大きくトリアは息を吸って。


「アルル様も、女の子なんですよ。女の子に優しくするなんて、普通のことなんですからね? 朴念仁」


 バカだなぁと、笑いながら言った。


 なんというか。


「そう、だよな」


「そうですよ」


 アルル様はもちろん、メルにもカタリナにも。


 戦う人として捉えすぎていたのかもしれない。


「ん、ありがとうトリア。ちょっと、アルル様の所に行ってくるわ」


「どういたしまして、師匠。そうやってすぐに動くところは、ひゃくてん満点ですよ、男の子」

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