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姉妹喧嘩

 今更ながら、自分の変わりようが信じられない。

 最初に出会った時のことを、今思い出せばその辺の壁に頭を打ち付けたくなってしまう。


 天狗っ鼻を叩き折られて、素の自分を認められて。


「ふふっ」


 あぁ、好きだなぁ。


 今ならはっきり言える。

 私は、ベルガさんに恋しているんだって。


 剣を教えてくれた、強さを教えてくれた。


 そして私のお強請り通り、恋を教えてくれた。


「うん、今日もバッチリ」


 鏡に写った笑顔の自分に頷きを一つ。


 最低限で良いと思っていた、朝に身なりを整える時間が増えた。

 恥にならない程度でいいと思っていた、料理の腕を磨くようになった。


 全部、全部。

 ベルガさんに私のことを好きになってもらいたいからだ。


 こんなに自分が乙女だとは思わなかった。

 ベルガさんと出会う前の私が今の私を見たのなら、きっと私じゃないなんて叫ぶどころか斬りかかっていること請け合いだ。


「……まだ、ベルガさん寝てるよね?」


 そんな私の楽しみが最近一つある。

 それが朝にベルガさんの寝顔を見に行くこと。


 ちょっと危ない趣味かも知れないけれど、あの結婚式が終わってからベルガさんは私が近づいても起きなくなった。


 離宮で二人っきりの生活が始まっても、ベルガさんは私が部屋に入った時には目を覚ましていた。

 テレシアさんから聞くところによると、基本的に自分とテレシアさん以外を信用していないから、無防備なところを見られないようにしているんだって。


 そう教えてもらった時、すごく嬉しかったの。


 私のことを信用、信頼してくれているから、無防備なところを見せてくれるんだって。


「う……だめだめ、絶対ニヤついている」


 こんな顔を見せるわけにはいかない。

 ベルガさんには、いつだって可愛いのかキレイなのか、とにかく一番良い私を見てもらいたいんだから。


 頬を軽く叩いて、気を取り直す。

 私はちょっと暴走しちゃうことがあるから。


 結婚式の時だってそうだ。

 目の前にベルガさんの唇があるって分かった瞬間、はしたなくも自分からキスしてしまったし。

 やり直しの時なんかメル姉ぇがやっちゃうものだから、思わず大声を出しちゃったし。


 落ち着こう、落ち着くのよ。


 ……けど、だめだ。


「私、恋してるなぁ……!」


 頭の中に花畑でも咲き誇っているかのよう。

 好意を自覚して、まだまだ複雑だけど受け入れようとしてくれているのが理解できたのなら。


 もう、色々と、たまらないんだもん。


「すー……はー……」


 ベルガさんの部屋の前で深呼吸を一つ。


 髪も整えた、服もお気に入り。


 いざ、旦那様のお部屋へ。


「お邪魔、しまぁす……」


 入ってみればまだカーテンは開かれていなくて、ベッドの上が膨らんでいた。


 よかった、まだちゃんと寝てくれてる。


 そろりそろりと足音を忍ばせて、近づいていってみれば。


「すー……」


「ぁぅ……」


 あーもう、好き。

 なんでこの人こんなにあどけない顔してるのよ、好きが止まらないわ。


「ベ、ルガ……さん……」


 たまらない、今すぐにでも唇へと顔を寄せて……だめだめ、朝駆けはだめよ、カタリナ、はしたない女はきっと嫌われちゃうから。


「……ん?」


 よくわからないモノと戦っていれば、ふと気づいた。


 やけに、布団の膨らみが大きいような?


 ……まさか。


「てい」


「くー……せん、せぇ……さむいよぅ、あっため、てぇ……すー……」


 ……この、姉は、この、この……!


「起きろおおおおおっ!!」


「ふおっ!?」


「きゃっ!?」


 布団を勢いよく剥いで、我慢できなかった心が叫んだ。


「ずるい! ずるいよメル姉ぇっ!! 同衾はちゃんと色々決まってからって約束でしょっ!?」


「あ、あははー……バレちゃった?」


「バレちゃった? じゃなあああいっ! バカ! 魔法オタクのスケベ外道っ!! っていうかベルガさんからはーなーれーてー!!」


「んー……イヤ?」


「ばかあああああああっ!! うわあああああんっ!!」




「朝から元気が良くて大変結構だが、俺としては気持ちのいい目覚めの方が嬉しいかな」


「ごめんなさい……」


「だからあたしが気持ちのいい目覚めの一助に――」


「メル?」


「あっははー」


 ベルガさんが眉尻を落としながら、困ったように笑いながら言う。


 私も大声を出しちゃったし反省の至り、なんだけどメル姉ぇは全然悪びれない。


 ――恋は戦争で、あらゆる手段を取ることが許されてるんだよ?


 自分で言った通り、メル姉ぇはベルガさんにぐいぐい迫る。

 その姿勢はちょっとうらやま――んんっ、見習わなければならないと思うほど。


「はぁ……」


「せんせは、イヤ? イヤだったらすぐにやめるよ?」


「イヤってわけじゃないよ。まぁ、俺としてはさっき言った通り気持ちの良い目覚めを迎えられたらそれでいい」


「じゃ、今度はドアに施錠(ロック)の魔法かけとくね」


「カタリナが愛剣引っさげて突入してくる未来が見えるな?」


 もちろん。

 抜け駆けなんてさせないわ。


「ともあれ、メルにしてもカタリナにしても、なんて言うんだ? 好意を伝えようとしてくれるのはすごく、その、嬉しい」


 あ、好き。

 照れてるベルガさんとか最高よ? これだけでお腹いっぱいね。


「ただまぁやっぱり俺は朴念仁らしいから。あんまりグイグイ来られると、な?」


「手を出したくなっちゃう?」


「……否定はしないよ。あ、それが狙いですみたいな顔するなっての」


「えへへー」


 そ、そっか。

 だったら私ももうちょっと……。


「カタリナ? 俺は今のままのカタリナが良いな」


「はひゃっ!? ひゃいっ!」


 すぅうううきぃいいいっ!


「と、も、か、く、だ。俺もベロニカで立場を作っちまった。つまり責任が生まれてしまったわけだ。生憎と俺は臆病でな、ちゃんと背負いきれるかどうかを考えたい。カタリナとメルを放置するつもりはないから……その、なんだ、もうちょっとだけ手加減してくれると、助かる」


 そんな風に笑わないで、我慢できなくなっちゃうから。


 あぁ、でも。


「……負けないから」


「……ふんっ、コレに限ってはお下がりに甘んじるつもりはないわ」


 ぷいっと。

 姉妹喧嘩は、止められそうにもない。

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