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熱烈な余興

 なんだかんだで土壇場。

 サキュリアさんのイヤリングを解析してようやくわかったことだが。


 端的に言えば、未来の自分をイマに降ろす効果がイヤリングには刻まれていた。


 加えて、装備している本人の任意で発動できず、アモネスの許可が必要であるというものも。


 中々上手いやり方だと言えるだろう。

 枢機卿という神により近い位置にいる人間が許可を出すことで効果を発揮できる。

 その力はイマでは到底到達できない域にある力で、そりゃあ神の力を手に入れたと思っても仕方ない。


 そして。

 同じ効果がカタリナのイヤリングにも込められている。


「――っ」


「……鋭い」


「クハハハハッ! どうした神よ! 本当にキサマが神だというのなら! 示しすくい上げてみせろ!!」


 まずは、俺に狙いをつけてくれたのか、真実目に映らないスピードで突っ込んできた。


 一人でこの場にいる人間を殺し尽くせと命じられるだけのことはある。

 初手で、実現可能だと思い知らされた。肩をぐっさりと持っていかれてしまった。


「カタリナ……」


「……」


 いや、今のカタリナを見るに、もう少しエグイ効果もあるか。


 完全に操り人形状態になっている。

 俺の問いかけに反応は示さないし、何なら瞳に何も映していないだろう。


「やれっ!! カタリナッ!!」


「っ!」


 デボロックを残しておけばな、とは思わなかった。


「シッ!」


「良い、突きだ」


 文字通り、カタリナの完成形とやらを見てみたいと思う気持ちがあったからだ。


「ハァッ!!」


 間合いの中で、カタリナがラッシュを繰り出す。

 正直、勘で避けるしかない状態で。その勘も頼りないもので、辛うじて直撃を躱している程度。


 一言、強い。

 カタリナの才能には兜を脱ぐ他無いだろう、あるいは思った通り、あの人をこと細剣術でなら凌いでいるかも知れない。


 でも。


「っ!?」


 つまらない。


 仮面越しに声の方を見てみればアルル様が随分と心配そうな顔をしていたし、隣のメルは口元を抑えて目を丸くしている。


 安心して見てろって言ったんだけどな……それだけ今の俺が不甲斐なく見えるってことか。


「ハハッ! ハーッハッハッハッ!! やはり思ったとおりだ! コレは最高の広い物だっ! これなら! これならアストラを我が手中に収めることができるっ!!」


 勝ちと望む未来が手に入ると確信したのか、アモネスは目を血走らせ狂気的と言っていいような笑いを披露してくれた。


 そんなアモネスとは対象的にカタリナは。

 平熱どころか冷徹かつ的確に、大きく下がった俺を追い込むため両足に力を込め始めた。


 突進突きが来る。


「余興にもならんな」


「なにっ!?」


「退屈な出し物で満足できるほど、暇を持て余してはない」


 あぁ、本当に退屈だ。


 確かに強いさ、当たり前だ。

 どれくらい先の至っている自分を降ろしているのかはわからないが、俺が思うカタリナはこんなつまらない戦い方はしない。


 いつだってカタリナは俺を驚かしてくれた。

 成長も、実演も、そして在り方でさえも、俺の想定に収まらずどんどん高みへと昇っていく女だ。


 それがどうだ。


「予想通りに収まる女を、嫁にもらった覚えはないな」


 対応はできないさ。

 殺す気でやるならいくらでも方法はあるけれども、どこまでもまぁこうなるよなってラインを超えてくれない。


 すなわち。


「来い。余興とはどういうものか、教えてやろう。教典には、残してないからな」


「キサ――ええいっ! やれぇっ! カタリナァッ!!」


「っ!」


 対処はできる。


 わかりやすくカタリナは足を踏み切った。

 わかっていたのに、俺の身体は動けないまま。


 あまりにも真っ直ぐに伸ばされたレイピアの切っ先を、抵抗すること無く受け止める。


「ベルガッ!!」


「せんせっ!?」

 

 あーあ、ついに名前読んじゃったよ。


 まだ俺は演技してるつもりなんだし、最後まで付き合って欲しかったよね。


 まぁ、いいや。

 邪魔だし仮面は取っちまうか。


「カタリナ」


「っ! っ! っ!?」


 肩が吹っ飛ばなくて良かったよ、これも準備万端だったおかげだね。痛いけど。


 突き刺したは良いものの、抜けなくなったレイピアをどうにかしようと慌てているカタリナへと一歩踏み出して。



 抱きしめた。



「っ――ふ、んぅ……」


 そのまま、思っていたよりもずっと柔らかかったカタリナの唇を奪う。


 奪い、口内を通じて魔法を流し込む。

 身体の外からじゃ、もうどうしようもないくらいに仕込まれているカタリナだから、こうする他に術がない。


「ん、ぁ、ちゅ、ん、ふぁ」


 今日は大盤振る舞いをしていい状態だ。

 イヤリングを解析して作った、解呪の式を流し込み。


 余興らしく、カタリナを淡く光らせて、解呪されていくスピードに合わせ、純黒のドレスを純白へと変えていく。


「わ、わぁ……」


「なん、と……」


 さっきまでの切羽詰まった雰囲気は何処へやら。


「ぷ、ぁ」


「お目覚めか?」


「ベル、ガ、さん……」


 触れ合っていた唇を離して、カタリナの目を見れば。


「ん、いつものカタリナだ」


 慣れ親しんだ、キレイな瞳がそこにあって。


「もうちょっと待ってろ。今、後始末を――」


「ベルガさんっ!」


「んんぅっ!?」


 お返しと言わんばかりの、熱烈なキスでカウンターを決められた。

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