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誰のための祈りか

 唐突だが、万端に準備を仕上げるとはどういうことか。


 俺は思いつく限りの敗北の可能性を潰していくことだと思っている。


 たとえば魔力。

 神の奇跡を再現するためのマジックアイテムを作成する傍らで、宝石を魔力タンクとして用意した。


 メルと出会ってから強く思ったが、やはり俺の魔力は常人よりも少し多い程度でしかない。

 仮に俺がトリアと魔力パスを繋いで、トリアのデュオヴェイルに使われる魔力を肩代わりすることになっていたのなら。


 トリアが魔法を使った瞬間に俺は昏倒していただろう。


 演習で使った砦で。

 ストレージに収納している宝石を確かめながら、最終確認を進めていく。


 改めて、準備は万端だ。

 今日に限って、俺に魔力切れという敗北の可能性は存在しない。


 残るは想定に従って適した手札を切っていくだけで勝利を手繰り寄せられる。


「んだけど、なぁ」


 当たり前に相手だって想定がある。


 相手が準備万端であるというのなら、用意したものを削るように動いてくるわけで。


「一つ、聞きたい」


「――」


 砦の前に展開されたクルセイダー部隊。

 城壁の上から見れば、先頭に立っているサキュリアさん含めて、8人。

 来る時に装備していた重鎧はどうしたのか、全員が修道服のまま。


 まぁ、式典にいないんだ。

 良からぬことを考えて仕掛けようとしているとまでは考えられるだろうけど、よくここにいるってわかったよね。


「俺に、勝てると思っているのか?」


 問いかけてみたものの、うんともすんとも言わない。


「わかってるはずだ。本来戦いに二度目は無いなんて」


 結局。

 あの模擬戦でクルセイダーの底を俺は知ってしまったのだ。

 対して俺が持つ手札はクルセイダーに知られていない。


 アーノイドさんとの一騎打ちを披露してしまったから、一抹の不安はあるけれど。


 彼女たちは、俺に知られるということがどういうことか、わかっていない。


「それでも、我らは神の兵なのだ」


「そっか」


 当たり前に対策を講じている。


 そうだと予想した上で、サキュリアさんはそういった。


「信心なんて無い俺が言うのは筋違いかもしれないけれど。サキュリアさん……いや、クルセイダーの皆さん」


「……」


「それは、信仰なんかじゃないよ。呪いみたいなもんだ」


「っ……」


 神に限らず何かを信じることって言うのは、自分の心に支柱を作るようなものであって。


 決して、言い訳にするものではない。


 ましてや。


「都合よく使われるための理由でもない」


「キサマに……何がっ!」


「わからないよ、事情も知らない。調べたけど、ついぞわからないままさ。けど、今俺の手札を削るためだけに差し向けられたあなた達を、俺は哀れに思う」


 そうとも。

 彼女たちは敗北というより、勝てないことを知りながらここにやってきた。

 準備万端な俺のリソースを、少しでも削るためだけに、あてがわれた。


「俺を排除するために来たのなら全身全霊で応えていたところだけれど。生憎、時間にそう余裕もないから……最初に謝っとく」


「っ!? 全隊っ! 突げ――」


「――神封(デボ・ロック)


 本当は、カタリナに何かあったときのために準備しておいたもの。


「あ――あ……」


「な、にをっ!?」


 サキュリアさん以外のクルセイダーは、予めあの状態になっていたらしく、デボ・ロックの効果でぱたぱたとその場に倒れていく。


「あの時見たカルシャさんの完全詠唱、信仰具現化。あれは、信じる神の奇跡ってのが前提に必要だろう? じゃあ、その神とやらを一時的に感じられない状態にしたら……まぁ、こうなる。死んではないから、安心していい」


「こ、の……化け物、め」


 本当に神の御業だったというのなら、こうなってはいない。


 結局、魔法だったという話なのだ。

 聖十字教が崇める神がどうなのかは興味ない。

 だが、少なくとも現代にまで奇跡として伝わってきたものは、ただの魔法だったことに違いない。


「化け物ね、否定はしないよ。あなた達から見れば、俺は神に仇なす怪物だ。けど、一つだけ聞きたい。信仰は力を得るためのものじゃない。力を得た時に、信じていて良かったと思うためのもののはずだと俺は思っている……あなた達は、その力を得て、良かったと思っているのか?」


「キサ――だまれぇええええええっ!!」


 挑発したつもりはなかった。


 それでも、サキュリアさんは激昂し、砦の城門に向かって突っ込んできた。


 借り物だ、破壊されるわけにはいかない。


 城壁から飛び降りて、城門の前でサキュリアと相対する。


「くら、えぇえええっ!!」


 飛んできたモーニングスターの鉄球を弾いて、鎖を断ち切る。

 関係ないと言わんばかりに腕を振りかぶって、俺へと拳を伸ばしてきた。


「ごめん、な」


「あ――」


 その手をしっかりと受け止めて。


「テレシア、ディープ・アナライズ」


 ――畏まりました。


「う、あ、あぁぁぁああっ!?」


 イヤリングに向けて、ディープアナライズを行使する。


「やめっ、う、あぁっ!? はいって、くるなっ!? うあっ! うあぁあああっ!?」


 途端に、狂ったように暴れるサキュリアさんをバインドで動けなくする。


 リソースを一つ切ったんだ、代わりを補填しなければならない。

 以前は、これが最善だと思って、何も感じなかったものだけど。


「本当に、ごめん。責任は、取るから」


「うあ――あ、か、は……」


 今は、何故か心が痛い。


 意識を失ったサキュリアさんを倒れる前に受け止めて。


 ――解析完了致しました、ご主人様。


「ありがとう」


 静かに大地へと横たえる。

 砦に運んでやりたいところだけど、時間もあまりないんだ、許してほしい。


「道中で確認する。行くぞ、テレシア」


 ――御心のままに。

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