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朴念仁は頭痛のタネ

「一週間後、アストラより結婚式儀礼団が派遣されることになりました」


「つまり、こちらの要求はほぼ全て通ったと考えてもよろしいのですか?」


 望み通りの筋書きにしては少し複雑な顔をしているアルル様。


 正直、会心の出来だと胸を張っているかと思っていたんだけどな。


「その通りですわ。王都で式を開催できることから、ベロニカ国内だけならず友好国からも何名か参列すると親書が届いています」


「まぁ、一国の姫の結婚式ですしね」


 逆に言えば見合った式を執り行わなければならないわけだ。

 ぶち壊し前提で話は進んでいるし、俺としてはなんとも言えないところだが。

 アルル様がそのあたりで下手を打つとは思えない。安心していいだろう。


「ベルガの準備は?」


「聖書から読み取れた奇跡とやらはほぼ全部再現可能になりました。魔力タンクの準備も順調に進んでいますし、式の三日前までには完了します」


「そうですか。であれば良かったですわ」


 良かった、と言う割にはいまいち表情が晴れない。


 うーん……。


 心配事があるとすれば、アモネスやクルセイダーの動き。

 他にはカタリナに仕込まれているだろう魔法に関してってところだろうけど。


「アルル様、ご安心を。今回の件は俺にとっても成功させたいものです。手は抜きませんし、望んだ結果を引き寄せてみせます」


「ええ。ベルガを信頼していますわ。元より失敗するなど考えていません」


 ようやく少しだけ微笑んでくれたけれども。


「アルル様」


「……はぁ。言っておきますが、察して欲しかったわけではありませんからね?」


「そういうことにしておきます」


 どうだろうかね。

 気づいて欲しいと言わんばかりに思えたけれど、わざわざ訂正する位だ。


 本当に抱えた悩みのタネが重すぎるのかも知れない。


「ベルガは……カタリナのことをどう思っていますか?」


 さて。

 少し前にも似たようなことを聞かれ、俺としてはちゃんと答えたつもりなんだけど。


「わかっています。それでも、聞きたいのです」


 ならばもっと心の底にあるものを聞きたいのだろう。


「少し、考えても?」


「もちろんですわ。素直な部分を聞きたいのです」


 素直に、ねぇ。


 何度も思っているが、カタリナは俗に言うイイ女だと思う。

 客観的な事実と言っても良いだろう、容姿や器量にケチをつけるほうが難しいし、性格にしてもラインの内側に入った人間に対しては温かい。


「まず最初に申し上げますが、カタリナは魅力的な女性です。客観的には間違いなく、カタリナ以上の人は、そうそういないと思っています」


「……続けなさい」


「個人的に考えても。剣に対して才気溢れ、いずれ俺の願いを超える強さを身につける可能性を秘めた剣士であり、初めて期待する(・・・・)ということを教えてくれた人。今になってではありますが、指南役となれたこと、感謝しています」


 聞きたいことっていうのは恋愛感情の部分を指しているのだろう、それくらいはわかる。


 けれど、色恋沙汰ってのは本当にわからないんだ。


 そもそも望んでいない、望んで良いと思っていない。


 俺の命の使い方は決まっている。

 あの人を超えたかどうか、ただそれだけを追い求めて生きているんだから。

 生きながら死んでいる男が、誰かを幸せにできるなんて、思えない。


「改めて聞きます。カタリナを、伴侶としてならどう思いますか?」


「……相性がいいとは、思います。もしも俺が、こんな奴じゃなかったら……今頃別の意味でアルル様の頭を抱えさせていたかも知れません」


 生活上も、並び得る剣士としても。


 カタリナ以上に俺と相性のいい人間は、いないだろう。


「そう、ですか。わかりました、ではメルをどう思いますか?」


「メルを、ですか?」


「ええ、以前わたくしは言いました。あなたにはわたくしを含めてベロニカの三姫を娶らせ。この国の王となってもらう考えがあると」


「本気だったんですか」


 至極真面目に頷かれた。


 どうしたもんかね、外堀アタックの言い訳だろうと思っていたんだけれども。


 まぁ、今考えることじゃないか。


 メル……メルなぁ。


「嫌いじゃない、という言葉が一番しっくりきますか」


「嫌いじゃない。すなわち好きと?」


「そうですね、好きですね」


「はいっ!?」


 重ねていうが、恋愛感情につながる好意なのかはわからない。


「メルは、なんというか放っておけないんです。手を引いてあげたくなる。道筋を照らせば、俺の想像を遥かに超えた地点まで行き着く。目が離せない、離したくない。そんな風に思っています」


「あ、あぁ、えぇと。師としてなら、ということですわね? お、驚きました」


「師としても、ですよ。メルのような人が傍にいれば、退屈しないだろうな、毎日楽しいだろうなと思います。何より魔法に対しての姿勢、同じ魔法使いとして尊敬に値しますし、教えているようで教えられていることも多々あります。できれば、今か今以上にもっと仲良くなりたいと思っていますよ」


「あ、ぅ……」


 指南役に収まったからこそ、今の関係があるとは自覚しているけれど。

 違う出会い方をしていたのなら、メルに恋をしていたかもしれない。


 少なくとも、憧れていたと思う。

 追いかけて、近づきたいって思うほどに、メルは魔法、目標に一生懸命だから。

 その姿を、支えたいなんて思っていたかもしれない。


「ち、ちなみに」


「はい?」


「わたくし、は?」


 そんなの決まっている。


「苦手です」


「朴念仁っ!!」


 紅茶が飛んできた、避けた、ふふん。


 まぁでも、誰かを苦手に思ったのは初めてだ。

 そういう意味では、忘れたくても忘れられない強烈な人と言えるだろう。


「はぁっ、もう。頭痛のタネが増えてしまいましたわ、ありがとう」


「どういたしまして、アルル様」


「この朴念仁は……まぁ、いいですわ。ともかく、ここから先はベルガに任せます。カタリナのこと、頼みますわよ」


「もちろん。お任せあれ」

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